早稲田大学大学院を経て、医療機器メーカーのテルモに就職。その後、アメリカの化学品メーカー「グレース」を経て、テルモやグレースでも一緒に仕事をされた、現名誉会長の森有一さんとメビオールを起業。その森さんが開発した特殊なフィルムの上で植物を栽培する農業技術「アイメック」が、いま世界各国から注目を集めている。
秋田高専在学中の19歳の時に宇宙建築に出会い、その後、東北大学にて建築学と宇宙工学を専攻し、修士号(工学)を取得。大学在学中には人工衛星開発プロジェクトや次世代宇宙建築物の研究に従事し、宇宙建築関連コンペティションにおいて日本1位、世界2位を獲得。宇宙ベンチャーを含む複数社でのインターンを経て、株式会社ElevationSpaceを起業。「Forbes 30 UNDER 30 Asia」への選出や、第23回Japan Venture Awardsで「地域貢献特別賞」受賞するなどいま、国内外から注目を浴びている。
慶應義塾大学経済学部卒業、三菱総合研究所で主に自動車メーカーや国内外政府機関へのコンサルティング業務に従事した後、2008年に米ピッツバーグ大学経営大学院よりPh.D.を取得。同年より米ニューヨーク州立大学バッファロー校ビジネススクール助教授。
2019年より早稲田大学ビジネススクール教授。
テレビ東京『ワールドビジネスサテライト』のコメンテーターを務めるなど、TV出演も多数。
1994年生まれ、滋賀県出身。大学在学中、学内で開催されたミスコンテストで準グランプリを受賞。
SNSのマーケティングスキルを活かしタレント・インフルエンサーとして活動を開始。卒業後はITベンチャーで広報部の立ち上げを担当。自社PRだけでなく、業界啓蒙やファンベースを生かした広報活動を経験。松竹芸能所属。
メビオール株式会社 代表取締役社長・吉岡浩さんと株式会社ElevationSpace代表取締役CEO・小林稜平さんを迎え、「宇宙×砂漠」をテーマにディスカッション。極限環境だからこそ生まれるビジネスの可能性や、起業家ならではの挑戦への向き合い方、宇宙と農業、それぞれの最前線から見える未来について、経営学者・入山章栄さんが迫ります。
宇宙にも土地柄がある? 環境が生む新たな可能性
私たちはUAEでも実証を行いましたが、中東の砂漠は皆さんがイメージする通りの灼熱地獄です。一方で、アフリカのケニアは赤道直下なので暑いと思われがちですが、首都のナイロビや私たちが試験栽培を行った地域は標高約2,000メートルのところにあります。
そのため、乾燥していて土壌は劣化しているものの、気温は比較的穏やかです。さらに赤道直下なので、一年中豊富な日照があります。実は植物にとって、とても良い環境なんです。
吉岡
そうですね。ほぼ一年中春のような環境です。
吉岡
「極限環境」と言っても見方によって全然違うんですよね。砂漠もうまく活用すれば、その場所ならではの価値があると思いますし、宇宙も同じだと思います。
小林
全然違います。たとえば、地球周回軌道の無重力環境と月の重力環境では全く違います。月の重力は地球の6分の1ですし、火星は約3分の1です。月には大気が無いので完全な真空環境ですが、火星には大気があります。空気があるかないかだけでも大きな違いです。
加えて、それぞれの天体が持つ資源も異なります。たとえば、月の砂には鉄などの資源が含まれていて、現地で材料を作れるのではないかという議論があります。一方で火星はCO₂が豊富なので、そのCO₂を活用して、火星ならではの産業や技術が生まれる可能性があります。
重力、大気、資源などが全く違うので、生活様式も産業構造も大きく変わってくると思います。
小林
CO₂は植物にとっては栄養源ですからね。
吉岡
植物はCO₂を吸収して酸素を生み出します。
吉岡
重力環境によっても生活の仕方は大きく変わります。どんな産業が向いているかも変わるでしょう。
小林
あると思います。たとえば、無重力空間では階段は必要ありません。月なら重力が6分の1なので、階段の高さ一つ取っても地球とは違う発想になるでしょう。食器や日用品も重力環境が違えば全く別物になります。
小林
実は重力がある事はとてもありがたいんですよ。たとえば宇宙でビールを飲む事を考えると、無重力では液体を自由な状態にしておけません。液体が飛び散ると危険なので、宇宙では飲み物は基本的にストロー付きのパックから飲みます。
でも、ビールをストローで飲みたい人はあまりいませんよね。実際に海外では、無重力環境でも美味しくビールを飲める専用容器の開発を進めている企業もあります。
こうした話も含めて、重力環境に応じて生活様式や道具は大きく変わっていくと思います。土地ごとに産業や文化が違うように、宇宙でも場所ごとに最適な産業や暮らし方が生まれるはずです。
小林
極限環境を活かす時代へ 砂漠と宇宙が生む新市場
先ほどお話ししたように、砂漠は湿度がほぼゼロです。だからこそ、水の蒸発潜熱を利用して効率よく冷却できます。そうした砂漠特有の環境を活用した新しい仕組みや技術は、まだまだ生まれる可能性があると思います。
吉岡
私たちがまだ気付いていない活用法がたくさんあると思います。それを見つけていく事自体が面白いところですよね。
小林
面白いなと思うのは、たとえば障害の考え方です。足が不自由な事も、重力があるから制約になるわけですよね。無重力環境なら、足の役割は今ほど大きくありません。つまり、人にとって本当に地球の環境が最適なのかと言われると、必ずしもそうではないんです。
小林
宇宙建築の分野では、さまざまな居住空間のコンセプトが提案されています。知人が参加していたコンペティションでは、「宇宙の老人ホーム」というアイデアもありました。高齢者が宇宙で暮らし、快適に第二の人生を送る構想です。
小林
こうした世界が広がっていくと、「これはできない」「これは不利だ」と考えられていた事も変わっていくと思います。重力がないからこそ実現できる事は、これからますます増えていくはずです。
小林
植物栽培では、土を使わずに水耕栽培を行う方法があります。実際に取り組んでいる企業も多いですね。ただ、水耕栽培は大量の水を使いますし、水温も高くなりやすいため、菌が繁殖しやすいという課題があります。一方、私たちのフィルムはそうした課題を回避できる点が特徴です。
吉岡
もちろん使えます。特に大きいのは節水効果です。たとえば、水耕栽培でトマトを1キロ生産する場合、およそ100リットルの水が必要になります。ところが、私たちのフィルムを使うと、同じ1キロのトマトを生産するのに25リットル程度で済みます。つまり、水の使用量を4分の1まで削減できるんです。
吉岡
宇宙の話で言うと、「宇宙へ行くのは宇宙飛行士」と多くの人は思っていますが、実は宇宙飛行士として宇宙へ行った人数よりも、宇宙旅行で宇宙へ行った人数の方が多くなっているんです。2020年くらいに逆転しています。
小林
宇宙の定義はいろいろありますが、一般的には高度100キロメートルを超えると宇宙とされています。現在は、高度100キロメートルを超えて数分間の無重力状態を体験し、そのまま帰還する宇宙旅行であれば、数千万円程度で行ける時代になっています。
小林
これからは宇宙を観光で訪れる時代が本格的に広がっていくと思います。
小林
困難な道を選ぶ勇気が未来を切り拓く
二つの選択肢があってどちらかを選ばなければならない時には、厳しい方を選ぶ癖をつけるといいと思っています。
吉岡
実は、うちの会社には世界中からお客様や研究者が訪ねて来るんです。会社は神奈川県平塚市にあって、最寄り駅はJR平塚駅です。そこからバスやタクシーを使えば、会社までは2キロほどなので、皆さん普通はそのルートで来られます。
ところが、もう一つ利用できる駅があって、小田急線の伊勢原駅です。会社までの距離は平塚駅の倍くらいあるので、普通はそちらから来る人はいません。
以前、南極観測隊の方々が「このフィルムを南極で使いたい」と言って訪ねて来られた事がありました。その方たちは平塚駅ではなく、伊勢原駅から歩いて1時間以上かけて来たんです。
吉岡
「どうして平塚駅から来なかったんですか?」と聞いたら、「平塚駅から来ても面白くない」と。
吉岡
極地で仕事をしようとする人たちは、やはり考え方が普通とは違うんだなと思いました。行動様式そのものが違うんですよね。
吉岡
会社のバリューにもなっているのですが、「Who dares wins(挑戦する者が勝つ)」という考え方を大切にしています。これは私自身が最も大事にしている言葉でもあります。
やはり、みんなが「難しい」「無理だ」と思う事を目標として掲げ、挑戦しなければ成し遂げる事はできません。私は東北大学の大学院修士1年の時に会社を立ち上げました。宇宙事業は莫大なお金がかかりますし、当然周囲からもいろいろ言われました。
小林
ただ、宇宙開発が民間主導の時代になっていく中で、どこかの会社に入るのではなく、自分でやらなければ実現できない社会があると思ったんです。宇宙業界の経営者には豊富な経験を持つベテランの方がたくさんいます。それでも私は、「この挑戦をやり切る」という思いで起業しました。今振り返ると、あの時に会社を立ち上げて本当に良かったと思っています。
当時は競合もほとんどいませんでしたが、その後、世界中で同じような企業が次々と立ち上がりました。結果的に、世界が注目し始める絶好のタイミングで事業を始められたと思っています。
やはり、普通に考えたら無理だと思う事でも、目標として掲げて、本気でやり切る覚悟を持つ事が大切なんだと、この会社の経営を通じて強く実感しています。
小林
宇宙インフラと次世代農業 商業化への道筋
私たちの場合、最初の衛星を今年後半以降に打ち上げる予定です。すでにドイツのロケット会社と契約していて、ノルウェーから打ち上げ、日本へ帰還させる初ミッションになります。
実際に打ち上げる衛星の組み立てはほぼ完了していて、今は最終的な検証を進めている段階です。正直、かなりドキドキしています。この初号機が成功すれば、その後も継続的に打ち上げていく計画です。
また、2030年頃には宇宙ステーションの民営化・商業化が進むと見られています。そのタイミングが、私たちの事業が大きく飛躍する節目になると考えています。宇宙ステーションから定常的に物資を回収するサービスを実現したいですね。
小林
日本にはまだそうしたインフラがありませんので、政府も宇宙戦略基金を通じて関連プロジェクトを支援しています。私たちはその中で唯一採択いただいていますので、しっかり技術開発を進め、2030年以降は毎年複数回の定常運航を実現したいと考えています。そこが一つの商業化の大きなステップになると思います。
小林
フィルム栽培によるトマト生産は、すでに日本国内でかなり広がっています。現在、100件以上の農家さんに採用していただいています。
吉岡
この技術で作ったトマトは非常に甘くなります。いわゆるフルーツトマトとして販売できるので、通常のトマトとの差別化ができます。結果として販売単価が上がり、利益につながるんです。
農家さんも「フィルムで栽培しています」と積極的に公表しているわけではないので、見分けるのは難しいですね。
吉岡
毎年、日本野菜ソムリエ協会が「ミニトマト選手権」という品評会を開催しています。全国から100件ほどのミニトマトが集まり、野菜ソムリエの皆さんが審査を行います。その中から20件ほどが高い評価を受けるのですが、実はそのうち10件前後はフィルム栽培のトマトなんです。
吉岡
そうですね。フィルム栽培の特許は私たちが持っていますので。
吉岡
「このトマトはおいしいな」と思ったものの半分くらいは、フィルム栽培のものが含まれているかもしれません。実はこの話、野菜ソムリエ協会の皆さんもあまりご存じないと思います(笑)。
吉岡
なんだか平和でかわいらしい大会ですね(笑)。そういうコンペティションは市場を広げる上でも面白いと思います。宇宙業界でも、もっとレースやコンテストのような形で盛り上がる仕組みがあると、一般の方に身近に感じてもらいやすくなるかもしれません。
小林
宇宙はまだ遠い存在だと思われがちですが、GPSを始め、私たちはすでに日常的に宇宙インフラの恩恵を受けています。これからますます社会にとって欠かせない存在になっていくと思います。
小林
フロンティアの先へ 宇宙と農業の未来図
全然違いますね。宇宙業界は本当に大きく変わりました。特にここ5年、中でも直近2〜3年の変化は大きいです。政府が宇宙産業を、これからの日本にとって欠かせない基幹産業の一つと位置付けるようになり、支援体制がかなり整ってきました。本当にこの2年で劇的に変わったと思います。
小林
かなり変わりましたね。日本の宇宙関連予算は現在1兆円規模になっています。私たちが創業した頃は3,000億円程度だったと思いますので、3倍近くに増えています。もちろんアメリカはまだ桁違いですが、日本の宇宙産業を取り巻く環境は大きく改善しました。
日本は技術力そのものは非常に高いんです。宇宙は今後インフラ産業になっていく領域ですから、今取り組まなければ本当にもったいない。政府も民間企業も一体となって、日本から世界で戦える産業を生み出そうという機運が高まっています。自動車産業に匹敵するような産業を作ろうという流れが、今まさに動き始めていると感じます。
小林
本当に無限の可能性があります。最近では、宇宙にデータセンターを設置する構想なども出てきていますし、この1年だけでも新しいアイデアやビジネスモデルが次々に生まれています。
数年後には、今では想像もできないような変化が起きているかもしれません。それが宇宙産業の面白さだと思います。
小林
気候変動が急速に深刻化している中で、私たちの技術は緩和策というより適応策として注目されています。そのため、世界中から問い合わせをいただいています。
吉岡
植物はCO₂を吸収しますからね。規模が大きくなれば、その効果も期待できます。
吉岡
そうですね。事業環境はかなり良くなっていると感じます。
吉岡
今取り組んでいるのは、野菜だけではありません。米や小麦にもこの技術を応用できないか研究しています。フィルムの上で米が育つようになれば、食料問題に対する大きな解決策になり得ます。
先ほども少し触れましたが、薬草栽培にも期待しています。水分ストレスによって有効成分の含有量が高まる可能性があり、医療分野への応用も考えています。
吉岡
それに加えて効率も良くなります。水の使用量を減らせますし、農薬もほとんど使わずに済みます。環境にも優しいですね。
吉岡
今は小型の物資を高頻度で地球へ戻す技術に取り組んでいますが、元々私は建築を学んでいて、「宇宙で当たり前に人が生活できる社会を作りたい」という想いがあるので、日本発の有人宇宙船を作りたいというのが大きな目標です。
日本にはまだそのインフラがありませんし、航空機産業で後れを取ったのと同じ事になっていくと思っていますので、エアバスやボーイングのように、当たり前に利用されるインフラを日本から生み出したいと思っています。
小林
どちらかと言えばロケット系に近いですね。ただ、私たち自身がロケットを作るわけではありません。たとえば、アポロ宇宙船や、現在月周回ミッションで使われている「オリオン(オライオン)」のようなカプセル型の宇宙船に近いイメージです。
ロケット部分はロケットメーカーが担当し、人が乗る宇宙船部分を私たちが開発する。技術的には、そうした役割分担になると考えています。将来的には、その実現に向けた準備も進めていきたいですね。
小林