2025.12.25

入山章栄と読み解くビジネス インタビュー

AI時代に重視すべき「価値判断」と「哲学」 現代において知の探索が必要な理由

AI時代に重視すべき「価値判断」と「哲学」 現代において知の探索が必要な理由

「AIができないことこそが、人間の価値になる」 AIが台頭する時代、なぜ「哲学」や「価値判断」が必須スキルとなるのか。意外な組み合わせから生まれるイノベーションの本質と、これからの時代に求められる「知の探索」のあり方について、入山氏の思考を紐解く。

これからメディアが提供すべき価値は、AIの裏をかく「意外な組み合わせ」

入山章栄

これからのメディアに求められるのは、ズバリ「意外なもの」の組み合わせです。 通常では考えられないような、まさに「離れた知と知」の組み合わせこそが重要になります。

AIは既存のデータから論理的に最適解を導き出すのが得意ですから、放っておけば誰もが思いつくような型どおりの組み合わせは、ほとんど網羅されてしまうでしょう。
だからこそ、人間がやるべきなのは、可能な限りAIの裏をかくような組み合わせを見つけることです。例えば、番組でも取り上げた「カブトムシと宇宙」とか、「事業承継と雑草」とか。一見すると全く関係なさそうな情報同士を結びつける。
しかし、よく注目してみると面白いストーリーが存在する。そこにしか人間の価値、そしてメディアの価値は生まれてこないのです。

私自身、最近はあえて紙の新聞を取り直しています。スマホのニュースアプリは便利ですが、どうしても自分の興味関心に基づいた記事ばかりが表示される「エコーチェンバー」に陥りがちです。でも新聞なら、パラパラめくっていると「ナフサ価格高騰」なんて記事が目に飛び込んできて、「ナフサって何だ?」と思いながら読んでみると、意外と面白い。
こういうセレンディピティ(偶然の出会い)こそ、イノベーションの種になるんです。

AIは「帰納法」から「演繹法」へ 最後まで奪われない価値判断の領域

入山章栄

従来のAIの思考プロセスは基本的に「帰納法」が採用されています。世の中にある膨大なデータを集めて、「こういうことかな」と推論する。一方で、「演繹法」という考え方があります。理論的に物事を考え、仮説を立てて検証する形ですね。

ただ、現在作られ始めている推論AIは演繹ができるため、一般的な思考回路の人間的な働きはほぼ全て担えてしまうようになります。そこで重要なのが「価値判断」です。これはAIには絶対に奪われない領域です。なぜなら、価値判断は「主観」だからです。

例えば、AIが「川の上流に工場を建てましょう」と提案してきたとします。「有毒物質が0.5%の確率で流れる可能性がありますが、おそらく大丈夫です」と。この時、建てるかどうかのジャッジをするのは人間です。「0.5%でも下流の人たちに迷惑をかけるなら絶対やめるべき」と判断する人もいれば、「1,000億円の収益が見込めるならリスクを取ろう」と判断する人もいるかもしれません。

ここに正解はありません。正解のない問いに対して、責任を持って決断を下す。この「価値判断」こそが、これからのリーダーに求められる最も重要な能力なのです

「推し活」は究極の価値判断 近い将来、CPOの存在が必須に?

価値判断の重要性が増す中で、企業経営においても「哲学(フィロソフィー)」が不可欠になってきます。
私は近い将来、企業には「チーフ・フィロソフィー・オフィサー(CPO)」という役職が必要になると考えています。CDO(最高デジタル責任者)の次は、間違いなくCPOの時代が来るでしょう。

哲学といっても、難しい学問的な知識のことではありません。「自分自身の頭で考えること」が哲学です。「自分たちは何をすべきなのか」「この事業は何のためにあるのか」。そういった問いを突き詰め、自分なりの答えを持つことがAI時代を生き抜くための羅針盤になります。

入山章栄

身近な例で言えば、「推し活」なんてまさに究極の価値判断ですよね。他人から見れば理解できないことでも、その人にとってはこれ以上ないほどの価値がある。
人気のバッグを求めてエルメスの店舗を何度も訪れる「エルパト」という言葉がありますが、彼女たちにとってはそれが最高に価値あることなんです。

論理や効率だけでは説明できない「主観的な価値」を信じる力。それこそが、これからのビジネスの源泉になっていくはずです。

「自分は大したことを知らない」知的謙虚性が広げる好奇心

変化の激しい現代で学び続けるために必要なのは、「知的謙虚性」です。「自分は大したことを知らない」という感覚を持つこと。これが、世界を広げる好奇心の源泉になります。

ある程度キャリアを重ねて、会社の幹部になったりすると、つい「自分は何でも知っている」と錯覚してしまいがちです。しかし、そこで思考停止してしまえば、成長は止まります。世界はもっと広くて、知らないことだらけなのですから。

入山章栄

私が知る優秀な経営者たちは、皆一様に「好奇心おばけ」です。
なかには、自宅に若手の起業家たちを招いて朝食会を開き、若い人たちのマニアックな話を目を輝かせながらずっと聞いて、新しい知識を吸収しているような経営者も知っています。

「自分は知らない」ということを認めたうえで、他者の話を面白いと感じられる。その純粋な好奇心を持ち続けられるかどうかが、AI時代における人間の価値を決定づけるのだと思います。

身体感覚から生まれる哲学。AIネイティブ世代への教育

入山章栄

AIが何でも答えを出してくれる時代に、どうやって独自の価値判断や哲学を育むのか。特に「AIネイティブ」となる子供たちへの教育も変わらなければなりません。

AI時代の教育において、重視したいものを挙げるとするなら「身体感覚」です。例えば、実際に「鳥をさばく」授業を通じて、普段スーパーで売られている鶏肉しか見たことがない子供たちが、命と向き合い、その温かさや感触を肌で感じるとか。

このような強烈な原体験、身体を通じた学びからしか、本当の意味での哲学は生まれないのではないか?とさえ思っています。デジタル全盛の時代だからこそ、逆にアナログな身体性や、自然との触れ合いが重要になってくる。そうやって培った「人間としての軸」があって初めて、AIという強力なツールを使いこなすことができるのではないでしょうか。