2025.12.25

入山章栄と読み解くビジネス インタビュー

「小さな変化」から始めるイノベーション インプットの質を高めるアウトプット先行型学習

「小さな変化」から始めるイノベーション インプットの質を高めるアウトプット先行型学習

「イノベーション」と聞くと大仰に聞こえるが、「日々の小さな習慣の変化から始まる」と説く入山章栄氏。変化の激しい現代においてビジネスパーソンはどう動き、どう学ぶべきなのか。明日から実践できる「変化の習慣化」と、良質なインプットを得るための「アウトプット先行型」の学習術について、入山氏の本音に迫る。

イノベーションの第一歩は「降りる駅を変える」こと。小さな変化を習慣化せよ

日本には今、チャンスが溢れています。円安は価格競争力を高めますし、世界が不安定な中で日本の安定性は投資を呼び込んでいます。私のいる早稲田のビジネススクールにも、世界中から優秀な留学生が殺到しています。彼らはみんな日本のアニメが大好きで、日本の文化や食、安全性に魅力を感じています。

しかし、日本人の多くがそのチャンスを活かせていない。その最大の原因は「動けていない」ことにあります。

人間は本能的に変化を恐れる生き物です。いきなり「イノベーションを起こせ」「新規事業を作れ」と言われても、足がすくんでしまうのは当然です。「入山先生が言うから1,000億円投資しよう!」なんて、怖くてできないですよね。

入山章栄

だからこそ重要なのが、「日々の習慣」を変えることです。私の友人の投資家が授業で言ってくれたことですが、「降りる駅を一つ変えてみる」。たったそれだけでいいんです。いつもと違う景色を見ながら、違う道を歩いてみる。「あ、こんなところにこんな店があるんだ」という小さな発見がある。

誰でも今日から始められますし、意外と楽しいものです。そうやって小さな変化を積み重ねていくことで、脳が変化に慣れ、やがて大きな変化にも動じない体質が作られていくと考えています。

アウトプット先行型の学習術 情報を自分事化する「場」作り

入山章栄

よく「どうやってインプットしているんですか?」と聞かれますが、私は正直「インプットよりアウトプットが大事」だと思っています。というより、アウトプットを先に決めてしまうことで、必然的にインプットせざるを得ない状況を作るのです。

例えば、私がテレビ番組でコメンテーターをする際、変わったニュースがあると「入山先生、コメントできますか?」と聞かれるわけです。正直、自信がないときもありますが「できます」と言ってしまうと、本番までに必死で調べるわけです。AIも駆使しながら短時間で情報を集め、構造化する。そして本番では、さも昔から知っていたかのように涼しい顔で喋る。この一連の流れが大きな学びになります。

そして、これはテレビに出るような人に限った話ではありません。家族に話す、会社の朝礼で話す、noteに書く、ポッドキャストで喋る。何でもいいので、まずは「アウトプットする場」を決めてしまうのです。そうすれば、日常の風景がすべて「ネタ」に見えてきて、インプットの質が劇的に変わります。

例えば、釣具屋さんがこの記事を読んで、「釣りにどう活かせるか」をポッドキャストで話すだけでも、立派なアウトプットであり、学びになるでしょう。

「会ったことのないジャンルの人に会う」常識を壊す行動習慣

入山章栄

私が意識的に行っている習慣の一つに、「会ったことのないジャンルの人に会う」というものがあります。経営学者として経営者に会うのは日常ですが、それだけでは思考が凝り固まってしまいます。大企業の社長もスタートアップの社長も、悩みは似通っていますからね。

だからこそ、哲学者、お寺の住職、生物学者など、全く違う分野の人に積極的に会いに行きます。例えば最近だと、哲学者のマルクス・ガブリエルさんと対談したり。あるいは「微生物で窒素を取る」研究をしている人と会ったり。

自分と異なる視点を持つ人との対話は、自分の常識を壊し、新たな知見を与えてくれます。

AI時代だからこそ「人間のエージェント」との繋がりを信じる

入山章栄

専門外の領域については、信頼できる「人間のエージェント」に判断を委ねることも大切です。最近、私は予防医療のクリニックに通い始めました。さまざまな検査をしてみて衝撃を受けたのが、「今までの健康法は全部間違ってます」と言われたこと。「酒をやめれば健康になると思ってたのですが……」と聞くと、「関係ありません。とにかく三食ちゃんと食べて排出してください」と。

健康法なんて、「糖質制限がいい」とか「16時間断食」がいいとか、諸説ありすぎて何が正解かわからないじゃないですか。まさに経営と同じで、正解がない。だからこそ、私は信頼できるプロフェッショナルとして、人間のエージェントを見つけて、その人の判断に委ねることにしたんです。
家具選びもそうです。大塚家具の信頼できる担当者さんに「こういうのが欲しい」と伝えて、選んでもらったものを買う。

これからの時代、単純作業や論理的な推論はAIエージェントが担ってくれます。
でも、自分の身体に関することや、人生の重要な決断といった「正解のない問い」については、AIには任せきれないですよね。そこで重要になるのが、信頼できる「人間」との繋がりなんです。

いろいろな人の話を聞いてインプットし、最後は「この人が言うなら」と腹落ちして委ねる。これもまた、一つの重要な「価値判断」の形なのだと考えています。