【前編】ゴミから感動をつくるには?

流郷 綾乃

流郷 綾乃

スパイスファクトリー株式会社 取締役CSO
株式会社SPACE WALKER企画推進室・顧問

中小企業の広報を経て、フリーランスの広報として独立。With Media代表としてスタートアップ企業等に広報・戦略コンサルティングを提供。2017年には、生物資源ベンチャーの株式会社ムスカで広報戦略を支援し、2018年に代表取締役CEOに就任。数々のビジネスコンテストで最優秀賞やSDGs賞を受賞。その後、2020年に退任され、2021年には、スパイスファクトリー株式会社 取締役CSOとなる最高サステナビリティ責任者に就任。その他にも、株式会社SPACE WALKER企画推進室・顧問や経済産業省アクセラレーションプログラムのメンターも担当。
町田 紘太

町田 紘太

fabula株式会社 代表取締役

幼少期をオランダで過ごし、環境問題に興味を抱く。その後、東京大学の卒業研究として新素材を開発され、2021年には小学校からの幼馴染3人で、fabula株式会社を設立。現在も新素材に関する研究に取り組みながら、事業を拡大させている。
入山 章栄

入山 章栄

浜松町Innovation Culture Cafe マスター
経営学者

慶應義塾大学経済学部卒業、三菱総合研究所で主に自動車メーカーや国内外政府機関へのコンサルティング業務に従事した後、2008年に米ピッツバーグ大学経営大学院よりPh.D.を取得。同年より米ニューヨーク州立大学バッファロー校ビジネススクール助教授。
2019年より早稲田大学ビジネススクール教授。
テレビ東京『ワールドビジネスサテライト』のコメンテーターを務めるなど、TV出演も多数。
田ケ原 恵美

田ケ原 恵美

浜松町Innovation Culture Cafe 見習い店員

1994年生まれ、滋賀県出身。大学在学中、学内で開催されたミスコンテストで準グランプリを受賞。
SNSのマーケティングスキルを活かしタレント・インフルエンサーとして活動を開始。卒業後はITベンチャーで広報部の立ち上げを担当。自社PRだけでなく、業界啓蒙やファンベースを生かした広報活動を経験。松竹芸能所属。

スパイスファクトリー株式会社取締役CSOの流郷綾乃さんと、fabula株式会社代表取締役CEOの町田紘太さんを迎え、「ゴミから感動を作るには?」をテーマにディスカッション。虫(カブトムシの幼虫)による資源循環からロケット開発まで「ディープテック」の頂点に挑み続ける流郷さんと、廃棄弁当やお茶の葉を独自のプレス技術で「香りや物語(ファーブラ)を宿した新素材」へと生まれ変わらせる町田さんに、経営学者・入山章栄さんが迫ります。

 

「スペースプレーン」の開発で宇宙を目指すディープテック

入山章栄
入山
流郷さん、お久しぶりです! 前回の来店から3年ぶりくらいでしょうか?
本当にお久しぶりです。ご無沙汰しております。
流郷綾乃
流郷
入山章栄
入山
以前は、「カブトムシの幼虫を使ってゴミを肥料にする」という、まさに「ゴミを資源に変える」最前線にいらっしゃいましたよね。今は複数の会社で活躍されていますが、改めて現在の活動を教えていただけますか。
メインとなっているスパイスファクトリー株式会社は「デジタルインテグレーター」の会社です。単なるシステム受託ではなく、デザインから入って、AIを活用したシステム開発、さらにはマーケティングまで360度デジタルでサポートしています。
フィリピンのセブ島にも拠点があり、組織も100人規模に成長しました。 もう一つの株式会社SPACE WALKERは、東京理科大発のベンチャーで、ロケットを開発しています。
流郷綾乃
流郷
入山章栄
入山
ロケット! イーロン・マスクのスペースXみたいなことですか?
方向性は少し違っていて、私たちが目指しているのは「翼のあるロケット」です。飛行機のように水平に離着陸する「スペースプレーン」ですね。
流郷綾乃
流郷
入山章栄
入山
水平に! 昔のスペースシャトルに近いけど、もっと飛行機のような。
そうです。人を乗せるときは、やはり水平に飛んで水平に戻ってくるのが理想的。今は千葉県の野田キャンパスや、福島県の南相馬市でエンジンの開発を進めています。
宇宙って地上からわずか100kmなんですよ。東京から静岡くらいの距離。そう思うと近く感じますが、上に行くというのは想像以上に大変で、まさにディープテックの極みですね。
流郷綾乃
流郷

fabula・町田紘太が静脈産業に描く「物語」

入山章栄
入山
町田さんは初来店ですね。よろしくお願いします。「fabula(ファーブラ)」はどういう意味なんですか?
ラテン語で「物語」という意味です。僕たちは単なる素材メーカーではなく、ゴミや静脈産業と言われるこの産業を、みんなが欲しいと思う「物語のあるプロダクト」へ引き戻したいという想いで活動しています。
中西
町田
入山章栄
入山
ゴミから感動を作る……具体的に、今日は実物を持ってきていただいたんですよね。
はい、このお盆(トレー)を見てみてください。
中西
町田
たがえみ
たがえみ
わあ、すごくおしゃれ! 周りの枠は木ですが、真ん中の黒い部分は……これ、何でできているんですか?
それは「お茶の葉」です。お寿司屋さんなどで出されるような、流通できない規格外の茶葉を固めて作っています。
中西
町田
本当だ、ちゃんとお茶の香りがしますね! すごい。
流郷綾乃
流郷
入山章栄
入山
これ、どうやって固めてるの? 接着剤とか?
いえ、接着剤は一切使っていません。「ホットプレス」といって、熱と圧力を同時にギュッとかけて固めています。イメージは、江ノ島のタコせんべいを作る工程に近いですね。
中西
町田
入山章栄
入山
タコせん! あのプレス機でプレスする感じだ。他にはどんなゴミが素材になるんですか?
コーヒーの抽出かすや、ミカンの皮などはもちろん、理論上はほとんどの有機物で可能です。大学の研究時代には、東大の生協から「チキンカツ弁当」の残りをもらってきて、それを板状の素材にしたこともあります。
中西
町田
入山章栄
入山
チキンカツ弁当が板に! それはすごい。素材としての強度はどうなんですか?
強度はかなり高いです。今ここにある茶碗は「お米と米ぬか」からできていますが、光にかざすと少し透ける「透過性」があるんです。これを活かしてランプシェードにしたり、こちらのゴルフティーは「コーヒー豆」の規格外品で作っています。
中西
町田

「ゴミ」の定義は?自然界のサイクルにおいてはすべてが資源

入山章栄
入山
町田さんは、そもそもなぜゴミに興味を持ったんですか。
オランダでの経験が大きいですね。アムステルダムにいたのですが、あそこは海抜が低いので、温暖化で国が沈むかどうかが子供でもわかる死活問題なんです。学校でも当たり前に「Global Warming」を学びますし、設置の仕方を間違えると遊具が少しずつ沈んでいってしまうような状況を見て、環境問題が「机上の空論」ではないことを肌で感じていました。
中西
町田
オランダってサステナブルな取り組みが日本とは次元が違うくらい進んでいますよね。
流郷綾乃
流郷
入山章栄
入山
町田さんのお話を伺っていて非常に興味深いのは、「ゴミ」という概念そのものを問い直している点です。以前、このカフェに雑草の研究者が来てくださったのですが、「雑草の定義は、人間に邪魔だと思われる植物のことだ」とおっしゃっていました。つまり、人間がいなければ「雑草」というものは存在しない. ゴミも全く同じですよね。
まさにおっしゃる通りです。僕たちにとってゴミは「Given(与えられたもの)」であり、単なる「原料」の一つでしかありません。ゴミという言葉に対してなるべくニュートラルでありたい。
だからこそ「リサイクル品だから買う」のではなく、「かっこいいから買う」「香りがいいから使う」という、普通の製品と同じ価値基準で勝負したいんです。
中西
町田
その感覚、すごくわかります。私もムスカで豚の糞などを扱っていたときは、もはやゴミとは思っていませんでした。水分量を触っただけで「あ、これは含水率70%くらいだな」と分かるくらい向き合っていると、それはもう愛おしい資源なんです。
人間が勝手に「ゴミ」と定義しているだけで、自然界のサイクルにおいてはすべてが資源なんですよね。
流郷綾乃
流郷

普及に際するコスト課題と、異分野融合が生む未来

たがえみ
たがえみ
これほど素晴らしい技術ですが、普及させる上での課題は何でしょうか?
一番は「コスト」です。現在は通常の素材と比べて、どうしても高くなってしまいます。特に工程の中の「乾燥」に非常に多くのエネルギーと費用がかかるんです。水を抜くというのは、自然の摂理に反する行為なので、どうしてもコストがかさんでしまいます。
中西
町田
乾燥は高いですよね……。
でも、そこは私たちの技術と補完し合えるかもしれません。ムスカの幼虫たちは、逆に「ベチャベチャなゴミ」が大好きなんです。彼らは分解しながら水分を飛ばしてくれるので、幼虫に一次処理をさせてから、残ったものを町田さんの技術でプレスする……といった連携ができれば、究極のサーキュラーエコノミーになりませんか?
流郷綾乃
流郷
それは面白いですね! ゴミを気分(Given)なものとして受け入れ、技術やクリエイティビティで変えていく。可能性は無限に広がります。
中西
町田