2026.03.03

異世界対談

【後編】雑草は抜くと生える!「雑草とデザインから考えるコミュニケーション戦略」

【後編】雑草は抜くと生える!「雑草とデザインから考えるコミュニケーション戦略」

稲垣 栄洋

稲垣 栄洋

静岡大学大学院教授

大学院修了後、静岡県農林技術研究所などを経て、静岡大学大学院教授に就任。農学研究に携わる傍ら、「みちくさ研究家」として身近な雑草や昆虫に関する著述や講話を行ない、好評を博す。専門は雑草生態学。書籍など執筆された文章は、多くの国立・私立中学入試の国語の問題に採用され、最頻出著者とも言われています。7月には中央公論新社から「雑草教室-図鑑が教えてくれない植物たちのひみつ」を発売。
とりい めぐみ

とりい めぐみ

株式会社Xemono 代表

大学卒業後、入社した株式会社花まるラボでは幼児向けGooglePlay「ベスト オブ 2017」アプリファミリー部門入賞の「Think!Think!」のデザイナーとして、複雑そうに見えるパズルを子どもたちに わかりやすく、また親しみやすい感じに設計。その後、ウェブメディア「電ファミニコゲーマー」で編集アシスタントに転職。さらにフリーのUXデザイナーを経て2019年に株式会社Xemonoを立ち上げ。性格はとても良いらしい。
入山 章栄

入山 章栄

浜松町Innovation Culture Cafe マスター
経営学者

慶應義塾大学経済学部卒業、三菱総合研究所で主に自動車メーカーや国内外政府機関へのコンサルティング業務に従事した後、2008年に米ピッツバーグ大学経営大学院よりPh.D.を取得。同年より米ニューヨーク州立大学バッファロー校ビジネススクール助教授。
2019年より早稲田大学ビジネススクール教授。
テレビ東京『ワールドビジネスサテライト』のコメンテーターを務めるなど、TV出演も多数。
田ケ原 恵美

田ケ原 恵美

浜松町Innovation Culture Cafe 見習い店員

1994年生まれ、滋賀県出身。大学在学中、学内で開催されたミスコンテストで準グランプリを受賞。
SNSのマーケティングスキルを活かしタレント・インフルエンサーとして活動を開始。卒業後はITベンチャーで広報部の立ち上げを担当。自社PRだけでなく、業界啓蒙やファンベースを生かした広報活動を経験。松竹芸能所属。

植物学者で静岡大学大学院教授の稲垣栄洋さんと、株式会社Xemono代表のとりいめぐみさんを迎え、「雑草とデザインから考えるコミュニケーション戦略」をテーマにディスカッション。 農学研究に携わる傍ら、「道草研究家」として活動する稲垣さんと、webデザインだけでなくゲームアプリの開発にも取り組んでいるとりいさんに、経営学者・入山章栄さんが迫ります。

失敗作のチャットbotから生まれた「そうじゃない」デザインの形

入山章栄
入山
とりいさんにお伺いしたいのですが、「ChatGPTより情けないチャットbot」で人々の関係を良くしたそうですが、これはどういう事ですか?
今、会社で「知性bot」という名前のチャットbotを作っているんです。
とりいめぐみ
とりい
入山章栄
入山
多くの方が知っていると思いますが、話しかけるとAIが内容を判断して返事をしてくれるんですよね。
深夜にかなり寂しくて、誰かと喋りたい時に人間相手だと気を遣いますし、自分のせいで起こしたら申し訳ないので、自分の話し相手になるbotを作ろうと思ったのが作ったきっかけです。
ChatGPTが今ほど賢くなる少し前に作ったのですが、技術力が足りなかったのか、残念なbotになってしまいました。
とりいめぐみ
とりい
入山章栄
入山
残念な回答をしてくるわけですね。
本当に悲しくなるぐらいポンコツで、一番いい機能は、名前を呼ばれると「はい」と必ず返してくれることでした。ある日、ふと思い立って、友達とのLINEグループに参加させてみたんです。

意外だったのが、みんなロボットとはあまり話さなかったことです。一方で、ロボットに話しかけている人を見た他の人が、その人に話しかけるようになったんです。あまりにもポンコツなロボットと会話している人を見ると、みんなが助けに行くんです。
そうすると「この人は話した事が無かったけど、助けてくれるし良い人かもしれない」と思うきっかけになるんですよね。
これが、もしかしたら「何かの隙間なのかもしれない」と思うようになりました。

とりいめぐみ
とりい
入山章栄
入山
ちょっと緊張感があるグループコミュニケーションに犬を一匹入れたりとか、子供とか赤ちゃんがいたりするだけで「かわいいね」となって、それがきっかけでみんなふわっと良い感じになるじゃないですか。それに近いですよね。
botとして 自分と対等に話せる相手を作る事には失敗したんですけど、その代わりに、かわいい犬やたき火のようなものを作る事には成功したんです。

例えば、グループ内での会話において、「こんな話してもいいかなぁ」と思うこともありますよね。多くは「返事がこないこと」が嫌なのだと思うのですが、botが必ず「はい」と返してくれることで、それを見た他の仲間達が続いてくれるようになって、空気が良くなったんですよね。

とりいめぐみ
とりい
入山章栄
入山
面白い。まさにデザインですね。
人に「こうしてください」とやるのもデザインだと思いますが、そうじゃないデザインが見えてきたのが、チャットbotの面白いところでした。
とりいめぐみ
とりい
入山章栄
入山
稲垣さんは今のお話を聞いてみて、いかがですか?
とりあえずそのbotが欲しいですね。ダメな自分って、なかなか出せないじゃないですか。でも、絶対ダメなところってありますよね。
そういうのを引き出せるきっかけになるツールというのはすごく面白いと思います。
稲垣栄洋
稲垣
入山章栄
入山
心理的安全性が上がるんでしょうね。
今は自分の職場のチャットツールにも入れています。どうでもいい話ができる環境でないと、ちゃんとした話もしにくいですね。
とりいめぐみ
とりい
入山章栄
入山
植物とか雑草の世界でも、みんな能力が高いほうが良いのか、それとも能力の低い植物が実はエコシステムの中にいる方が何かプラスに働くとかってありますか?
無駄とか無駄じゃない、能力が高いとか低いというのは、人間の脳が理解するために整理したり比べたり、順番を付けたりするもので、本来自然界においてはそれぞれの特徴でしかありません。例えば、植物は背が高い方が良いのか、横に伸びた方が良いのかというのは、一概には言えませんよね。

しかし、人間の脳はそれを理解できないので、高いとか低いとか、無駄とか無駄でないで整理する性質があります。人間が整理したがっている部分を崩してくれる感じがすごく安心できるんじゃないかなと思います。

稲垣栄洋
稲垣

これから予測不可能な時代に活かせる雑草のシンプルな生き方

たがえみ
たがえみ
デザインや植物の分野で、予想外の使われ方ですごいと思った事や、こういう生き残り方があるんだと気付いた事があったらぜひお伺いしたいです。
ツールを作る時に、基本的には予想外な使われ方をすると嫌なんです。でも自分が面白いと思うのは、ゲームを「そんな遊び方する?」というのがきっかけですごく流行ったり、普通にも遊べるけど、ちょっとズレた方法ですごく伸びていったりするのがすごく好きなんですよね。
とりいめぐみ
とりい
雑草って基本的に「弱い植物」だと言われているんですけど、想定外や予想外の変化に対して強いというのが、実は真価なんです。雑草にとって何が起こるか分からないというのは、チャンスなんですよね。

雑草は元々弱い植物なので、そのままでいたら絶対に生き残れません。想定外の変化や何か面白いことが起こるのは、雑草の基本的な戦略に結構似てるなと思います。

稲垣栄洋
稲垣
入山章栄
入山
想定外のところで雑草が生き残れるチャンスが出てくるのは、やっぱり雑草に多様性があるという事ですか?
それとも、環境適応性があるという事ですか?
オプションをたくさん持った方が良かったり、何が正解か分からなかったりするのは、雑草が変化する環境にあるからというのもあると思うんですよね。変化に適応する部分と、多様な武器やオプションを持っている2つの面が間違いなくあると思います。
稲垣栄洋
稲垣
入山章栄
入山
日本も少し前まで大企業に入って、60歳まで勤め上げて、管理職もやるといった成功パターンがありましたが、これってもうすぐ崩壊するじゃないですか。そうなってくると予測不可能だから、雑草みたいな生き方ができた方が良いんですね?
今が先が見えない、未来が見えない時代とすると、雑草みたいな戦略はすごくマッチすると思います。植物にもいろんな戦略がありますが、不安定で先が見えない環境では雑草の戦略はすごく合います。
稲垣栄洋
稲垣
入山章栄
入山
デザインは「問題解決」や「問題提起」だとよく言われますが、これからの時代のように予測不能な事態が起きる時のデザインは違ってくるんですかね?
予測できる時代だと、「安心できるもの」が好かれると思いますが、予測できない時代は何が正解か本当に分からないです。多様な状況でも、自分が迷うのではなく「へばりついていきます!」みたいに決めていかないと、「何がしたいんだよ」となってしまうと思います。
とりいめぐみ
とりい
変化する環境の中で自分自身も変わらなきゃいけないって、本当にどうしていいか分からない状態ですよね。そういう中で一番大事なのは、「ここは絶対譲れないよね」というものがところが一つある事によって、自由自在に変化できるし、正解が無くても生き残れることがあると思います。

雑草はすごくシンプルで、種を残した方が勝ちなので、「種さえ残せば、別に上に伸びなくても良いよね」とか、「こっち行っても良いよね」という形で動けるんです。

稲垣栄洋
稲垣
実は「踏まれても立ち上がる」ではなく、「とにかく生きようとする」のが真の雑草魂なのかもしれませんね。
とりいめぐみ
とりい

植物と生物の「Win-Win」な関係は人間にも応用できる

入山章栄
入山
稲垣さんから見て、人間にも応用できそうな、雑草のコミュニケーション戦略は何かあるんでしょうか?
自然界って、基本的に何をやっても良い、何もルールがないのが基本じゃないですか。結果的に植物は、虫や鳥と協力し合うなど Win-Winな関係を構築していますよね。

何をやっても良いんだけど結局Win-Winであることが、生き抜いていく上では絶対得なんだろうと、植物と周りの生物とのコミュニケーションを見ているとすごく感じますね。

稲垣栄洋
稲垣
一時的には奪い取ったりとか、ズルい仕事をする奴がのさばるようには見えるんですよね。自分も良い仕事をして、お互い「ありがとう」「またね」と言って、その「またね」が本当に続いていく希望があると感じますね。
ちゃんと良い関係を周りで作っていくというのが、自分や会社の生き残りにも本当に大事になっていくと思います。
とりいめぐみ
とりい
入山章栄
入山
植物や雑草が生き残る上でも、虫や鳥とWin-Winな関係を作っているのがすごく重要な要件になってくるという事ですか?
「助け合い」とか「共生」とかって言いますけど、助け合わなきゃいけない義理は全然なくて。
基本的に自分さえ良ければそれで良いというのが、自然界の基本であり、全ての生物の基本なんですよ。自分さえ良ければ良いはずなのに、自然界を見ると、自分だけ良いという関係は成立してないんです。必ずお互いが得をする関係になっている。

自然界にも植物にもずるい戦略とか、虫を騙す戦略がありますが、非常に限られているんですよね。

稲垣栄洋
稲垣
入山章栄
入山
虫を騙すのはどのような種類の植物ですか?
虫を呼び寄せるとか蜜が無いとか、メスの蜂のような形の花でオスの蜂を呼び寄せるハニートラップみたいな花もあるんですけど、結果的にそういうのは本当に珍しい。

植物だったら「まず蜜を用意しよう」「鳥相手には実を用意しよう」と、まずは与える事によってお互いが得をする関係を築いているのが、植物におけるコミュニケーション戦略の組み立て方かなと思います。

稲垣栄洋
稲垣
入山章栄
入山
ハニートラップは今でいう「なりすまし詐欺」みたいなものですよね。なりすまし詐欺は一過性で盛り上がるかもしれませんけど、結局本物じゃないから淘汰されますよね?
そうですね。 そういうズルい戦略はあまり成功してないように見えますね。
生き残るためにはお互い得をする関係を築いていた方が良いということですよね。
稲垣栄洋
稲垣
入山章栄
入山
貸し借りが大事だという考え方もありますよね。あげたらそこで終わってしまうと思いますし。
たがえみ
たがえみ
一方で「先に与えた方がリターンが有り得る確率も高くなる」こともありますが、その辺りはどのように捉えていますか?
ゲームでも、無料で遊ばせるものが「先に与える」だと思います。課金も阿漕なものでなければそれなりに続きますし、体験版を配るとかもありますよね。先に与えたら、もらった側も「もらっちゃったな」と思うので、そのような戦略もあるのだろうと思います。
とりいめぐみ
とりい
植物はそもそも動けない立場でもありますが、まずは蜜を用意して与える事から始めています。面白いのは、植物と虫は共生関係にあって助け合っていると言われていますが、最初は害虫が花粉を食べにやってきたんです。

置かれた環境や身の回りにあるものを全部利用しようとする基本的な考えの中で、花粉を食べてきた虫に対して餌や蜜を与えて、結果的に花粉を運んでもらう関係を作りました。

稲垣栄洋
稲垣
入山章栄
入山
最初は敵だったんですね。
敵も利用する形で「花粉を食べられてもいいよ、蜜も用意しましょう」というスタートなので、先に与える事は大事だとは思います。
稲垣栄洋
稲垣

「ここは譲れない」と「逃げ道の確保」の両軸で逆境を乗り越える

たがえみ
たがえみ
逆境を乗り越えるヒントとして、デザインや植物において他にも何か気を付けている事やあるべき論みたいなものはありますか?
雑草にとって逆境は本当に大好物で、弱い立場なのでいろんな事や変化が起こった方が良いのが基本です。雑草にとっては乗り越えるものとか耐えるものではなく、利用するものでしかありません。

たとえば、植物にとって草刈りは嫌な事ですが、雑草って草刈りをすればするほど実は増えるんです。雑草は踏まれると足や靴の裏に種をくっつけるなど、「逆境って基本的にプラスに変えられるものだよね」というのが雑草の戦略です。

稲垣栄洋
稲垣
入山章栄
入山
実は僕も芝刈りとか雑草抜きをやるんですけど、やるほど増えるんですか?
やるほど増えます。やらないほうが良いです。
ただ、雑草がいっぱい伸びたり大きな草が生えたりして良いのかという事になるので、やらないわけにはいきませんが、「やれはやるほど増える」のは間違いないありません。
稲垣栄洋
稲垣
雑草にとっては、逆境が新天地を作っているわけですよね。
自分も失敗作だと思って、「こんなの納品できないじゃん」みたいなやつが後々使えたりします。「絶対こうしなきゃ」と思い続けていると、「これ、何かに使えるかもな」って見つからないわけで、自分の心に新天地を残し続けるのが本当に大事だと思います。
とりいめぐみ
とりい
入山章栄
入山
とりいさんは「スタンスを取っているからこそ生き残れる」と話していましたが、 ある意味両方必要なのでしょうか。
そうですね。 本当に何が起こるか分からない事態については、スタンスを決めつつも「こっちの可能性もあるかもしれないよね」という逃げ道をいっぱい残しておくのがすごく大事かなと思います。
とりいめぐみ
とりい
ここは譲れないというスタンスとか、ここは一番大事だというブレないところがあるから、どんな環境が来ても乗り越えられるというのは、人も雑草も全く同じですね。
稲垣栄洋
稲垣