「管理は全部AIがやる。ミドルリーダーに残る仕事は情報の受け渡しではなく、感情やマインドの受け渡しなんです」 AI時代に若手の「判断力」をどう育てるか。採用戦略の転換や、ミドルリーダーが明日から実践すべき役割について、入山章栄が実践知を紹介する。
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AIがこれからさらに高度化していくと、アイデアや提案はすべてAIが出してくれるようになります。 AIのさまざまな提案の中から「これはうちの会社にとっていい判断だ」と見極める。
それが、AI時代における人間の仕事の本質です。つまり、人間に残るのは提案ではなく「判断」です。
ところが、ここに深刻な問題があります。判断力は、判断経験を積み重ねることでしか育まれません。 しかしこれからの若手は、AIが提案を出してくれるため、自分で考え提案する機会を持てないまま組織に入ってくることになります。
弁護士の世界がその先例で、判例調べや契約書チェックはすでにAIが担い始めています。しかし、クライアントにとって何が最善かを見極める力は、経験なしには育ちません。
弁護士に限った話ではなく、若手の「下積みの機会」が失われていくという問題は、あらゆる業種で起き始めています。 かつては現場でのOJTや試行錯誤の中で自然に積まれていた判断経験が、AIによって奪われていく。それを補う仕組みを組織として意図的に設計できるかどうかが大切です。

日本がAI時代に比較的可能性があるのは、初等教育がしっかりしているからだと考えています。 10×10は100だとわかっている。だからこそ電卓に「10×10」と入力したとき、「100」という答えを信じて次の計算に進めます。電卓が出した答えの正しさを、自身で検証できるから任せられる。
問題は、これと同じことがビジネスでも起きるということです。自分が何も理解していない、価値判断もできない状態でAIに全部任せてしまうと、AIが出した答えを正しいかどうか検証できません。そうなると、AIに判断を完全に奪われることになります。 つまり、AIを使いこなすためには、まずその領域の基礎的な理解が必要になるのです。
だからこそ、若手がAIに依存する前に「自分で考え、判断する力」を身につけさせる必要がある。これはAI時代における人材育成の絶対条件だと思っています。AIを電卓のように使える人材を育てるか、電卓の答えを疑えない人材を量産してしまうか。その分岐は、今まさに組織の設計方針として問われています。

民間企業の先進的なところでは、すでに新卒採用を大幅に絞る動きが出ています。これは、新卒レベルに求められる業務がほぼAIで代替できることによるものです。「チップを買った方がいい」という冗談のような話が、経営判断として現実になりつつある。 一方で、中途採用は増えています。一定の実務経験を持ち価値判断ができる人材は、AIとの協業ですぐに戦力になるからです。
しかしここに落とし穴があります。中途のみで組織を回し続ければ、人が育たなくなる。永続的に中途だけを採り続けることはできません。いずれ「若手をどう育成するか」という問題に直面します。
答えの一つは、若手の育成期間をあえてAI抜きで設計することです。 我々の世代は、AIが登場する前に何十年かの人生経験を積んでいるため、「AIの言っていることはまともか」検証できる。しかしこれから生まれる子どもたちは、生まれた時からAIがあります。だからこそ、ある一定の年齢まではAIなしで基礎を積ませることが、人類全体として必要になってくるはずです。
入社後5年間はAIなしで業務経験を積ませる。 会社にとっては投資の期間になりますが、そうせざるを得ない時代が来るかもしれませんね。

海外のスタートアップ、特にアメリカは本当にすごい勢いです。しかし、だからといって日本にチャンスがないわけではありません。これからの競争は「AIだけ」の薄い会社ではなく、リアルとAIを組み合わせた「リアルフィジカルAI」の時代になるからです。日本は、リアルにおいては世界でもトップクラスの強みを持っています。
例えば接客・おもてなし。ホテルは今後2種類に二極化すると思っています。 人の関与を徹底的に減らしコストを下げるタイプと、逆に人をかけることで圧倒的な高級感と満足感を提供するタイプ。後者は人間のサービスが介在すること自体が価値になる。一流ホテルがその典型です。
ものづくりも同様で、完全ロボティクス・人間とロボットの共存・人間オンリーで価値が出る領域の三層に分かれていくでしょう。
職人の手作業で作られている製品に価値があるように、人間が関わることそのものが価値の源泉になる領域が必ず残ります。職人が作っているからこそ、量産ができない。それが高い価値の根拠になっている。 日本には生産現場・接客・ものづくりにおいて、このリアルの強みが根強く残っています。これをAIと組み合わせることができれば、海外のAIスタートアップにも十分対抗できる土俵があると、私は見ています。

企業内で言うと、中間管理職は基本的にはAIに代替されていく方向にあります。 しかし、ミドルリーダーとしての役割が完全になくなるわけではありません。いわゆる「スマイルカーブ現象」が起き、上流(戦略・意思決定)と下流(リアルな現場)には価値が残り、中間の「情報の橋渡し」の仕事だけが消えていくイメージです。
それでは、ミドルリーダーに残る仕事は何か。進捗管理、情報の集約・伝達。管理の中核であるこれらは、AIが最も得意とする領域です。 残るのは、モチベーター・コーチ・ファシリテーターの3つです。
部下のやる気を引き出すこと、一人ひとりの課題を対話で発見すること、チームの多様な意見を引き出すこと。これらは人間にしかできない仕事だと言えます。
管理職が経営層と現場をつなぐ中継ポイントとして機能するとき、今まで必要だった「情報の受け渡し」はAIが担います。
だからこそ、人間のミドルリーダーに残るのは「感情とマインドの受け渡し」です。どんな時代になっても、人間はどこかで人間から声をかけられたい。確かに存在する「AIだけでは埋められない部分」に、ミドルリーダーの存在意義が残り続けるのだと思っています。