予備校講師、ファッション・アパレル業界を経て、2011年に人材育成の専門家として独立。数字や論理思考に強いビジネスパーソンを育成する「ビジネス数学」を提唱し、企業の研修や執筆活動を行う。わかりやすくシンプルな独自の指導法に定評があり、ソフトバンク・京セラ・三菱UFJなどの大手企業やプロ野球球団、トップアスリートなど、のべ2万人以上に研修を提供。昨年12月には三笠書房から「人生をシンプルにする 数学的思考: 「速さ」よりも、やることを「少なく」」を発売。
大学院を修了後、安井建築設計事務所、日本IBM、電通コンサルティングを経て、2016年に株式会社kenmaを創業。企業の見過ごされた強みを発掘して、その会社の看板商品・サービスを創り出す「フラッグシップデザイン」を提唱。100万本のヒットを記録したメモ代わりに使えるリストバンド「wemo」など多数のユニークな商品・サービスを手掛ける。功績も評価され、グッドデザイン賞をはじめ、社会課題解決を対象としたデザイン賞を多数受賞。
慶應義塾大学経済学部卒業、三菱総合研究所で主に自動車メーカーや国内外政府機関へのコンサルティング業務に従事した後、2008年に米ピッツバーグ大学経営大学院よりPh.D.を取得。同年より米ニューヨーク州立大学バッファロー校ビジネススクール助教授。
2019年より早稲田大学ビジネススクール教授。
テレビ東京『ワールドビジネスサテライト』のコメンテーターを務めるなど、TV出演も多数。
1994年生まれ、滋賀県出身。大学在学中、学内で開催されたミスコンテストで準グランプリを受賞。
SNSのマーケティングスキルを活かしタレント・インフルエンサーとして活動を開始。卒業後はITベンチャーで広報部の立ち上げを担当。自社PRだけでなく、業界啓蒙やファンベースを生かした広報活動を経験。松竹芸能所属。
ビジネスデザイナーの今井裕平さんと、ビジネス数学教育家の深沢真太郎さんを迎え、「思考」をテーマにディスカッション。100万本のヒットを記録したメモ代わりに使えるリストバンド「wemo」を手掛けた今井さんと、「ビジネス数学」を提唱し、数多くの大手企業やトップアスリートに研修を提供してきた深沢さんに、経営学者・入山章栄さんが迫ります。
想定外にどう向き合うか 信頼を守る仕事術
謝る必要があれば、すぐに謝ります。自分の読み違いやミスがあれば謝った上で、変化した事によって何が変わったのかを単純化して説明します。その変化の中でネガティブに働く部分が出てくるので、解決策を出せるなら提示しますし、難しい場合でも影響をできるだけ小さくするように考えます。
この辺りが僕の職業の面白いところでもあるのですが、そうした状況をチャンスとして捉える事もできます。前提を一度置き直して、別の方向にリソースを振り切る事でブレイクスルーにもつながるので、そういう順番で対応しますね。
今井
僕の特徴としては、常にネガティブなシナリオから考えています。最悪のケースをまず想定して、その通りになればOKですし、それより良くなれば良かったねと、仕事でもコミュニケーションでもこの考え方を基本にしています。
人前で話す時、「10分ほどお時間いただきます」と伝える事がありますが、この10分は最悪のケースを見積もった時間です。実際には5分で終わりますし、簡潔で分かりやすかったといった良い印象を与えます。
深沢
ネガティブなシナリオを基準にすると、実際はそれより良くなる可能性が高いので、結果的に印象も良くなりやすいのが僕の思考における癖かもしれません。
深沢
良い意味でギャップを活用する考え方ですね。ギャップは差であり、差は距離とも捉えられるので、数学的な概念で差のコントロールをする話にもなります。こうした日常的な思考が、仕事の中でも役立つのではないかと思っています。
深沢
僕はまず、大失敗を防ぐにはどうするかを考えます。売れるかどうかは、実際に出してみないと分からない部分もありますから。イメージとしては、どこにも穴が開かないようにする事です。
穴があるとそこから水が漏れてしまうので、頑張って防いだ事でメディアに取り上げられたり、想定外の人に支持されて売れたりした経験が多いですね。
今井
「逆転」にこそチャンスがある 前提を覆すアイデア発想法
僕はロジカルな部分が得意な半面、発想やアイデア出しにはすごく苦手意識があります。ただ、自分なりに整理すると、アイデアを出すには大きく4つのアプローチがあると考えています。
「結合」「分解」「逆転」「ズラし」の4つをなんとなく意識しているのですが、今井さんはプロとして、他に発想法はありますか?
深沢
その4つの中では「逆転」がおすすめです。前提として小さな改善ではなく、非連続なアイデアを出したいなら特に有効です。数学的思考の人は絶対にできます。僕が中小企業の経営者の方々のセミナーで一番依頼されるのが発想法で、「アイデアではなく着眼点で勝負したらどうですか」と伝えています。どの分野にも常識があるので、その常識をひっくり返す。僕は「新常識」と呼んでいます。
掃除機の「ルンバ」を例にすると、掃除機の企画を考える際に多くの人は吸引力や使う場所などを考えます。その前提には「手動でやる」考えがあって、この前提を反転させると「自動」になる。「ルンバ」のようなロボット掃除機を発想するのは難しいですが、手動で考えている以上、他と似たアイデアしか出ません。
僕らの仕事はアイデアが重なった時点で価値が下がるので、機械的に発想を逆転してアイデアを考えるのは超おすすめです。
今井
超おすすめって言われると、全部逆にしてやろうかなと思ってしまいますね(笑)。
深沢
単純化して捉える能力が高いほどやりやすいと思います。掃除機の例で見ても、出てきたアイデアの共通点や常識、そもそも前提は何なのかを抽象的に考えないとできません。前提や常識を掴めたら、良し悪しの判断は後にして、とにかく反対にした状態でアイデアを考えればいいので、まずは抽象的に掴めるかどうかが大事です。
ただ、抽象思考が苦手な人も一定数いて、絵を描ける人のように具体化が得意で抽象化が苦手な場合もあります。経営者は抽象思考ができる人が多いので、発想法に関してはすごく評価をしていただいて、皆さんにも実践いただいてます。
今井
今の話を聞いていて、「逆」という言葉が数学とも親和性が出てきていると感じました。たとえば逆数の概念があって、「3の逆数は3分の1」といった具合に、まず逆を捉える発想があります。
図形でも同じで、ある図形を反転させて組み合わせると解ける問題があるのもアイデアだと思いました。逆さにする、逆にしてみる、反対にしてみる発想があって生まれてくるものなので、数学の中でも結構使われている思考ですね。
深沢
要件設定と印象 成果を決める2つの軸とは
最近は、判断の段階における「要件設定」が特に重要だと感じています。たとえば、弊社が手がけた「wemo」で言うと、年間1万本売るとした場合、どんな状態が満たされていれば達成できるのかを考えます。
メディアに取り上げられて認知されている事、店舗に置いてもらう事、webサイトを見て手が動くかどうか、お店に行ったらパッケージを見て、レジまで持っていってもらえるかどうかなどが要件になります。
今井
なぜ重視するかというと、世の中の判断法は基本的に比較、相対判断になっているからです。A・B・Cを並べてどれが良いかを選ぶ。仮に質の低い案が3つ並んでいても、質の低い案しか選べません。僕は相対判断に対して絶対判断を入れた方が良いと思っています。それが「要件の設定」です。
少なくとも満たすべき要件を設定して、クリアした案だけを比較する。何となくの思いつきで並べた案が精度が高いわけではないのが判断法で言いたかった事です。
今井
生活を良くするデザインにするなら、人間中心でも良いと思います。我々がいるのはビジネスの世界で、成果を出さなければいけませんし、いろいろな方々の要件や要求を満たす必要もあるので、人間中心だけでは足りなさ過ぎると感じています。
今井
僕は教育業なので、成果は学んだ人の行動変容になります。どれくらい何を変えたのかが求められる仕事です。何を意識しているのかを問われると期待外れの答えかもしれませんが、一番大事にしているのは「感じが良い」なんですよ。
深沢
「数学」や「数学の人」と言う時点で、「嫌なやつ」みたいなイメージがありますよね。
深沢
どれだけ正しい事を言っても行動しない、受け入れてもらえない場合が人間である事を十数年やってきて分かりました。
自分の言ってる事が正しいかどうかは一旦置いといて、最前線の現場では感じが良い事を大事にしています。感じが良ければ話を聞いてくれる。「この人が言うなら、やってみようかな」と思ってもらいやすいんです。
深沢
プレゼンを変える「エモ・論理・エモ」という型
一つ補足すると、僕の仕事は抽象で終われないんです。プロセスでもう一つ大事なのは、抽象思考で考えたものを今度は具体化する必要があります。どれだけ抽象思考が優れていても、具体化が面白くなければ意味が無いので、そこを一番大事にしています。プレゼンもビジュアルで理解したい人もいれば、ロジックで理解したい人もいるので相手によって変えますが、大事にしているのは抽象思考と具体物をセットで見せる事です。
「朝ボトル」の話も、「本物のお茶を適切な価格で届ける」といった抽象思考があって、「ガラスボトルにラベルを貼る」「カウンターに挿してボトルを見せる」といった具体物をセットで示すので、理解が進んで「やってみよう」と思ってもらえるプレゼンを心がけています。
今井
僕の場合、大前提として「人間は論理的な生き物ではない」といった考えがあって、ロジカルな正論を伝えなければならない時には「サンドイッチ型」で話します。
論理だけを伝えると相手は拒否反応を起こしやすいので、論理を話す前に感情に寄り添った話、いわゆる「エモい話」をします。その後に一番伝えたい論理の話をして、最後にもう一度、相手の感情に寄り添う話をすると論理の話が感情で挟まれる形になります。
深沢
「この人はエモい話をしてくれた」といった印象で飲み込んでくれるので、このバランス感覚が大事だと思っています。
深沢
コミュニケーションなので、相手の状況や好み、癖もありますよね。それを踏まえても「エモ・論理・エモ」の順番ですか?
今井
ケースバイケースといった前提はありますが、概ね相手が誰であっても「エモ・論理・エモ」の順です。
深沢
これも逆転の発想です。僕も最初はロジカルに寄せたスタイルでしたが、少し変えてみようと試したのがきっかけです。
深沢
AI時代に問われる「考える力」 建築思考と数学思考の未来
最近よく考えるのは、自分は面白いゲームをずっとやり続けている感覚があって、そのゲームがいつかできなくなる可能性もあると感じています。本を書く中で思考を単純化・抽象化していくと、それをAIに伝えたら何かできるかもしれない。「今をとにかく頑張って楽しもう」といった思考が、いつか無くなるかもしれないと思っています。
もう一つは「○○思考」ってアウトプット感があって、「こういう思考をした方がより上手くいくんじゃないか」という考えで言ってると思いますが、今後は「楽しいからやる、気持ちいいからやる」といったプロセス側に寄っていくのではないかと思っています。
今井
数学思考を伝える立場からすると、AIにはかなりの危機感があります。皆さんがAIを使っている時、すごく具体的な事でコミュニケーションを取っている気がしていて、抽象の世界に行く事がますます苦手になるのではないかと感じています。
深沢
だから「これは何と同じかな?」といった思考を持っている事が結構重要だと思っています。
深沢
AIを使うほど抽象思考が使われなくなるのであれば、意識的に鍛える必要がありますね。
今井
AIを使う事で失われるものにも目を向ける事への大事さですね。
深沢
アイデアをすぐに出してくれる便利な点で、そこはAIを積極的に使うと思います。僕は中小企業の案件が多いので、損益分岐点を常に見ています。自分の報酬も含めて、最低何個売れないと赤字になるのかは必ず押さえます。これだけは絶対に外せません。
これまではヒアリングやデータ分析で出していましたが、そうした計算はAIに任せて、多少ズレても大枠が分かれば動けるので、そういう使い方はどんどんやらせると思います。
今井
AIが普及すると「耐える事」ができなくなって、答えが出ない、分からない事に対する体制が難しくなるのではないかと感じています。答えが出ない事をある意味苦しむ、楽しむ事が醍醐味ではありますが、なかなか伝わりにくい世の中になっているので、考え続ける事の大切さをより頑張って伝えていく必要があると思います。
深沢