2026.04.28

異世界対談

【前編】寿司×ラーメン 国民食のビジネスと未来

【前編】寿司×ラーメン 国民食のビジネスと未来

井手隊長

井手隊長

- Idetaicho -

ラーメンライター、株式会社フライヤー広報執行役員

大学時代からラーメンの食べ歩きを始め、その後は、全国のラーメンを食べ歩くラーメンライターとして活動。現在は「東洋経済オンライン」「プレジデントオンライン」「集英社オンライン」など年間100本以上の連載記事を執筆するほか、テレビやラジオへの番組出演、商品監修など多方面で活躍。2025年10月にはラーメンの価格から、日本経済の未来をみる「ラーメン一杯いくらが正解なのか」を早川書房から発売。また、本の要約サービス「flier」を展開する株式会社フライヤーの広報執行役員としても活動。
大谷 悠也

大谷 悠也

- Yuya Ohtani -

寿司研究家、日本鮨酒文化振興協会代表

自身の観点でお店を選ぶ事を得意としてこれまで国内外6,500軒以上の飲食店を訪問。2015年には「鮨ファンを増やすこと」と「鮨店の訪問ハードルを下げること」を目標にWEBサイト「すしログ」を立ち上げ、月間30万PVを達成。2025年に鮨と日本酒のペアリングを普及させるため、「日本鮨酒文化振興協会」を立ち上げ。本業に従事するかたわら、副業で飲食のコンサルティングや、料理人向けのペアリングセミナー、料理人とのコラボイベントも行う。
入山 章栄

入山 章栄

- Akie Iriyama -

浜松町Innovation Culture Cafe マスター
経営学者

慶應義塾大学経済学部卒業、三菱総合研究所で主に自動車メーカーや国内外政府機関へのコンサルティング業務に従事した後、2008年に米ピッツバーグ大学経営大学院よりPh.D.を取得。同年より米ニューヨーク州立大学バッファロー校ビジネススクール助教授。
2019年より早稲田大学ビジネススクール教授。
テレビ東京『ワールドビジネスサテライト』のコメンテーターを務めるなど、TV出演も多数。
田ケ原 恵美

田ケ原 恵美

- Emi Tagahara -

浜松町Innovation Culture Cafe 見習い店員

1994年生まれ、滋賀県出身。大学在学中、学内で開催されたミスコンテストで準グランプリを受賞。
SNSのマーケティングスキルを活かしタレント・インフルエンサーとして活動を開始。卒業後はITベンチャーで広報部の立ち上げを担当。自社PRだけでなく、業界啓蒙やファンベースを生かした広報活動を経験。松竹芸能所属。

ラーメンライターで、株式会社フライヤー広報執行役員の井手隊長と、寿司研究家で日本鮨酒文化振興協会代表の大谷悠也さんを迎え、「寿司×ラーメン 国民食のビジネスと未来」をテーマにディスカッション。 世界的にも人気のジャンルに何が起きているのか、店舗経営を長く続けるための秘訣、ラーメン業界が抱える「1000円の壁」について経営学者・入山章栄さんが迫ります。

個人店は買われる時代へ ラーメン業界に起きた構造変化

入山章栄
入山
今のラーメン業界で熱いトピックは何ですか?
最近では、個人店のM&Aですね。
井手隊長
井手
入山章栄
入山
ついにラーメン業界でも、他のラーメン店を買収する動きが出てきたという事ですか?
目立っているのは、吉野家ホールディングスが「世界一のラーメンの会社にします」と言って、ラーメン事業を牛丼・うどんに次ぐ柱として強化しています。
井手隊長
井手
入山章栄
入山
吉野家は「世界一のラーメン屋」になりたいんですか?
「ラーメンを第三の柱にする」と掲げて、大きいところだと「せたがや」や「キラメキノトリ」、製麺やスープを作る「宝産業」もグループに入れていて、ラーメン店をどんどん仲間にしています。
井手隊長
井手
入山章栄
入山
いろんな店を買収しているという事は、最終的にはノウハウを統合して、統一ブランドみたいなものを作るイメージなのでしょうか?
今は5店舗くらい展開していて、地元でしっかり支持されているエリアの雄みたいな個人店がM&Aの対象になるケースが多いです。
井手隊長
井手
入山章栄
入山
隊長としては、ラーメン界のこの動きについて、どう見ていますか?
正直、最初は「こういう感じになっちゃったか」と思いました。過去には、名前だけ買われて味が変わってしまうケースもありました。最近は志の高いM&Aも増えてきています。

店主にはラーメン作りに専念してもらって、経営や採用は企業側が担うと味も守られるし、スタッフの環境も整う形が増えるので、良い流れだと思います。

井手隊長
井手
そこまで広がっているとは知りませんでした。個人店が買われる事でプラスになる面があるのも初めて知りました。
大谷悠也
大谷
入山章栄
入山
個人店って経営が大変ですし、裏方の事務作業も多いじゃないですか。そこを企業側が担ってくれるなら、現場に集中できる考え方もありますよね。
基本的にラーメン屋の店主は「ラーメンが好きで作りたい人」ばかりなので、経営の部分を分業できるのは理想的な形だと思います。
井手隊長
井手
入山章栄
入山
ちなみに、寿司業界でも同じような動きはありますか?
寿司はそこまでではないですね。個人店は経営が得意でなくても頑張って続けているケースが多いです。ただし、資本の流入という意味では、異業種からの参入は増えています。

不動産系の資本家が寿司職人をヘッドハンティングして、店を立ち上げるケースがここ数年でかなり増えています。

大谷悠也
大谷
入山章栄
入山
やはり寿司がビジネスとして儲かると思われているんですか?
それは間違いないと思います。日本国内だけでなく、世界的に寿司人気が高まり続けていますから、投資しても十分リターンが見込めると考えられているんでしょうね。
大谷悠也
大谷

外国人が熱狂する「おまかせ」 寿司ブームの現在地

入山章栄
入山
大谷さんは、今の寿司業界で注目のトピックは何かありますか?
今は世界的に「おまかせ」という言葉がすごく流行っています。
大谷悠也
大谷
入山章栄
入山
「おまかせ」って、そんなに流行っているんですか?
外国人、特にアメリカ人でも普通に「オマカセ」と言いますし、タイから寿司を食べるためだけに来日する富裕層の方も、「オマカセ」を寿司の代名詞みたいに使っていますね。
大谷悠也
大谷
たがえみ
たがえみ
それが”おしゃれ”みたいな感じなのでしょうか?
そういう側面もあると思います。
大谷悠也
大谷
入山章栄
入山
今、世界的に日本食ブームの中で、日本に来たら寿司はほぼ確実に食べますよね。
ただ最近は、ラーメンの人気もかなり高いです。インバウンドの人への「日本で一番おいしかったもの」というインタビューを見ると、ラーメンが上位に来る事も多いです。
大谷悠也
大谷
入山章栄
入山
昔は寿司が圧倒的に人気だったのに、ラーメンが抜いてきてるという事ですか?
抜いているケースもありますし、寿司とラーメンは常に並んでいる印象ですね。
井手隊長
井手
間違いなく両方を食べて帰る人が多いと思います。
大谷悠也
大谷
入山章栄
入山
寿司とラーメンは、もう日本の代名詞ですよね。ラーメンは「一蘭」みたいな仕組みも含めて、体験としても楽しいのでしょうか?
ラーメンは種類も豊富ですし、トッピングやカスタマイズもできるので「多様で楽しい」という声はよく聞きますね。
井手隊長
井手
入山章栄
入山
「 一蘭」はブランドとしては強いけど、壁で仕切られて、周りのお客さんの顔も見えない。あの独特な食べ方も含めて多様性なわけですね。
大谷さんは、海外から来る人がたくさん寿司を食べている事について、どうお考えですか?
個人的には、寿司人気が高まっているのは嬉しいです。ただ、寿司の本質まで理解している外国人はまだ少ない印象ですね。まだラーメンの方が知識を持っている外国人が多いと思います。

寿司だとサーモンやマグロが注目されがちですが、江戸前寿司の本質はコハダや穴子などを調理したネタにあります。そこを好きになる外国人が増えると、寿司人気も一段階上がると思います。

大谷悠也
大谷
入山章栄
入山
今、サーモンの人気は世界的にすごいですよね。だから、コハダや穴子といった工夫されたネタよりも、分かりやすく脂が乗っているサーモンやトロの方が受けますよね。
白ご飯と違って酢飯なので、脂があってもさっぱり食べられるのが寿司らしさの魅力として受け取られている気がします。
大谷悠也
大谷
入山章栄
入山
ヒラメやキスみたいな淡白な味は、まだそこまで浸透していないのでしょうか?
まだマイノリティだと思います。ただ希望を感じたのが、ある高級寿司店でアメリカ人男性のお客さんが白身魚の味にすごく感動していた事です。思わず話しかけたら、「アメリカではおいしい白身魚が食べられないから来て良かった」と興奮していて。

ニューヨーク辺りのグルメな人かと思ったら、ウィンスコンシン州から来ていたんです。地方から来た人でも寿司を求めに来て、しかも白身魚の味が分かる人が出てきているのが素晴らしい事だと思います。

大谷悠也
大谷
入山章栄
入山
「俺は分かってる自分」みたいな感覚があって、それも嬉しい感じなんですかね。
どうでしょう。ただ、そういった話ができる外国人は極端に少ないと思います。
大谷悠也
大谷
そこまで情報が届いて、日本に食べに来ているのはすごいですよね。
井手隊長
井手
日本の食文化は強いと思います。
大谷悠也
大谷

インバウンド特化か本質回帰か 外食の二極化が進む理由

たがえみ
たがえみ
インバウンド向けに作られたお店と、そうではないけれど受け入れられているお店の両方が出てきていると思います。この辺りはどう見ていますか?
インバウンド向けのお店は確かにありますね。私自身はあまり行かないですが、高級食材を使ったラーメン店などはその典型だと思います。
大谷悠也
大谷
昔、北海道のラーメン横丁でカニを丸ごと乗せたようなラーメンを思い出しました。一時的なもので、いずれ落ち着いてくる気はしています。

ラーメンへの入口が神戸牛の入ったラーメンだったとしても、次第にラーメンを食べるようになって、「こういうラーメンもおいしいよね」と感じて食文化は広がっていくので、最終的には本質に回帰していくのではないかと思っています。

井手隊長
井手
寿司でも似たような現象があります。インバウンド向けだと、本来の江戸前寿司にはないネタを使ったり、過剰にパフォーマンス性を強めたりする店もあります。

ただ、最終的においしい事が大切なので、バランスを取りながら本質的な味に向き合っている店の方が長く続くと思います。

大谷悠也
大谷
たがえみ
たがえみ
店舗数としては、寿司もラーメンも今は増え続けているんですか?
ラーメンに関しては、大きくは変わっていないですね。
井手隊長
井手
入山章栄
入山
私が大学生の頃には既にラーメンブームでしたからね。30年くらいずっとブームが続いている。

一方で、ラーメンも寿司も人気がある分、参入も多くて競争は激しいですし、ラーメンは新陳代謝も相当激しいですよね?

ラーメン店の平均寿命は「約2.4年」というデータも出ているので、ほとんどは潰れますね。
井手隊長
井手
入山章栄
入山
2.4年しか続かないんですか?
その後、別業態に転換する人もいると思いますが、同じ店が続く期間としてはそれくらい短いですね。
井手隊長
井手
先ほど、資本家が入ってお店を出すとお伝えしましたが、一方で飽和状態に近づいている感覚もあります。一時期話題になった店でも、予約サイトを見ると空席が目立つケースも出てきているので、人気店であっても安心はできない環境ですね。
大谷悠也
大谷

ラーメンは口コミ、寿司は雰囲気 勝ち残る店の共通点

入山章栄
入山
お二人から見て、競争の激しい市場で生き残るためのポイントは何でしょうか?
首都圏でいうと「オープン景気」を作れるかが重要ですが、この現象自体は首都圏のラーメン屋ではどの店でも起きます。最初に来る人のほとんどがラーメンフリーク、いわゆる”ラオタ”なんですよ。

彼らが食べてレビューを書く。SNSや「食べログ」、「ラーメンデータベース」にもラオタのレビューが出るので、その時の口コミで勝負が決まってしまうところがあります。

井手隊長
井手
入山章栄
入山
ラーメンYouTuberは基本的にポジティブな事しか言わないですが、ガチなラオタは結構厳しいわけですね。
かなり厳しいですね。ラオタは1回か2回しか来ないので、その後は地元客にリピートしてもらうフェーズに切り替えないといけません。
井手隊長
井手
入山章栄
入山
最初の1ヶ月ぐらいはいかにラオタを納得させるかが重要で、地元の人を巻き込んでいく時には、リピートができるような味とサービスを提供する必要があるわけですね。
だから50円引き券や味玉無料券とかは、ラオタが来店し終わった後に渡すべきなんです。
井手隊長
井手
入山章栄
入山
奥深いですね(笑)。寿司はどうですか?
寿司も似ている部分はあって、店主がInstagramをやっていると初速はかなりつきやすいです。
大谷悠也
大谷
入山章栄
入山
寿司の世界にも、ラオタのような人たちはいるんですか?
昔でいう「寿司通」に近いですが、最近は「寿司マニア」といった言い方が多いです。かなりの頻度で食べ歩く人もいれば、かなりのお金を持っていて寿司ばかり食べている経営者もいます。
大谷悠也
大谷
入山章栄
入山
基本的に「すしログ」は大谷さんが評価をする場所で、「寿司マニア」の人たちはどこで評価を書いているのでしょうか?
Instagramはポジティブな発信が多いですが、客観的にレビューするのであれば、今も「食べログ」が中心だと思います。
大谷悠也
大谷
入山章栄
入山
寿司の世界で生き残るには、何が必要ですか?
味が良いのは大前提です。良い仕入れをして、良い仕事をするのは間違いないですが、それ以上に重要なのは雰囲気だと思います。
大谷悠也
大谷
入山章栄
入山
雰囲気だけで味が2段階ぐらい変わりますよね。
寿司は単価が高いジャンルなので、気持ち良く食べられないといけません。清潔感があって、きめ細かく声をかけてくれるような接客だとリピートしたくなるので、成功に近づくかと思います。
大谷悠也
大谷

「1000円の壁」を越えられるか ラーメン高級化の条件

入山章栄
入山
ラーメンにはいわゆる「1000円の壁」がありますが、隊長は今、3000円や5000円のラーメンがあっても良いはずだ、という主張をされているわけですよね。大谷さんは、どうすれば成立できるとお考えですか?
寿司でもラーメンでも、やってはいけないのは高級食材を使ってお金を取りに行くやり方ですね。味としても必ずしも完成度が高くなるとは限りません。

ラーメンは出汁にものすごく手間と原価がかかっている料理でもあるので、きちんと価値を理解してお金を払う人が増えていってほしいと思います。

大谷悠也
大谷
入山章栄
入山
隊長は、高価格のラーメンを成立させるための課題は何だと考えていますか?
「ラーメンは安くなければいけない」といったイメージもありますし、もう一つは「ラーメン屋でゆっくりできない」雰囲気もあって、店内でゆったりできる食べ物を作らない限り「15分で3000円かよ」という事にもなってしまいます。

その辺りに関しては、「飯田商店」や「とみ田」が頑張ってますね。

井手隊長
井手
入山章栄
入山
長居ができる店づくりを行っているんですね。
先陣を切っている人たちが新しいものを作っていく事が大事だと思います。
井手隊長
井手
入山章栄
入山
高級な中華料理店に行くと、締めにチャーハンを食べる事が多いですが、ラーメンはあまり食べないですよね。その辺りも関係していますか?
そうですね。コースのように提供している店もありますし、一杯のラーメンとお酒を楽しみながら1時間くらいかけて過ごすお店もあります。高価格帯のお店がラーメンの新しい楽しみ方を提示していく事が大事だと思います。
井手隊長
井手
入山章栄
入山
確かに寿司屋も「時間」に対して払っている価値ってありますよね。
寿司屋でも異様に早いお店はありますが、個人的には1時間くらいとか、ある程度の滞在時間は欲しいですね。
大谷悠也
大谷
入山章栄
入山
寿司は握り1貫の単位が小さいから、順番に出せますよね。一方でラーメンは基本的に1杯で、しかも麺が伸びてしまう。分けて提供するのは現実的ではないと考えると、締めにラーメンを持ってくる発想になりますよね。
「純麦」のように前菜が出て、次にラーメンが出て、最後はデザートといったコース料理もできているので、量が少なめのラーメンを出してみるのも良いと思います。

大谷さんもおっしゃっていた通り、出汁という見えない原価がかかりすぎている点も課題です。実際に食べて価値を感じてもらう事が大切です。

井手隊長
井手
滞在時間を意識するだけでもラーメン店の業態は広がると思います。私も年齢を重ねてから、いきなりラーメンを食べるより、先に野菜を食べた方が良いのではないかと考えるようになりました。

そういった要素を前菜として組み込み、「健康に良い」という形で訴求できればラーメン店の価値が高まり、これまでと違う層も取り込めるのではないかと思います。

大谷悠也
大谷