慶應義塾大学経済学部卒業、三菱総合研究所で主に自動車メーカーや国内外政府機関へのコンサルティング業務に従事した後、2008年に米ピッツバーグ大学経営大学院よりPh.D.を取得。同年より米ニューヨーク州立大学バッファロー校ビジネススクール助教授。
2019年より早稲田大学ビジネススクール教授。
テレビ東京『ワールドビジネスサテライト』のコメンテーターを務めるなど、TV出演も多数。
1994年生まれ、滋賀県出身。大学在学中、学内で開催されたミスコンテストで準グランプリを受賞。
SNSのマーケティングスキルを活かしタレント・インフルエンサーとして活動を開始。卒業後はITベンチャーで広報部の立ち上げを担当。自社PRだけでなく、業界啓蒙やファンベースを生かした広報活動を経験。松竹芸能所属。
ラーメンライターで、株式会社フライヤー広報執行役員の井手隊長と、寿司研究家で日本鮨酒文化振興協会代表の大谷悠也さんを迎え、「寿司×ラーメン 国民食のビジネスと未来」をテーマにディスカッション。 寿司とラーメン、2人のスペシャリストが最も注目するエリアや新しい外食ビジネス、職人の育成ついて経営学者・入山章栄さんが迫ります。
新日本プロレスから学ぶ コア化が招く市場縮小のリスク
「行ってみたいけど行けない」という人はいますからね。
井手
私もマニア的な人がジャンルを縮小させると思っていたので、すごく共感します。しかも、それを実践した経営者がいるのにも驚きました。
大谷
「食べログ」でレビューを書いていると、マウントを取ってくる人もいました。私も若い頃から書いているので、「あいつは分かってない」と年配の人に言われて。
それで嫌になってレビューを止めてしまう人が多いと思うので、不健全だと感じますね。
大谷
ラーメンは、「食べログ」と「ラーメンデータベース」ですね。
井手
マウント合戦に関しては、むしろXでよく炎上していますね。店主と客の揉め事が、Yahoo!ニュースのトップに行く事もあります。私も執筆依頼を受ける事がありますが、正直どうとも思わない。恥ずかしいから報道しないでほしいくらいです(苦笑)。
井手
価格の問題があって誰でも食べられるから、民主主義的に誰でも意見を言えてしまうんですよね。
大谷
「食べログ」とInstagramですね。方向性は違いますが、「食べログ」はデータベースとして、どこのお店に行くかを探す時にすごく便利です。一方、Instagramはリアルタイムで情報が流れてくるので、お店の雰囲気が分かりやすく、若い人は雰囲気込みで寿司屋を選びやすいと思います。
大谷
寿司もラーメンも都心から郊外へ 今狙うべき注目エリアは?
地価の上昇もあって、寿司屋はかなり広いエリアに分散してきています。その中でも熱いのが、築地から新富町、日本橋の辺りですね。古くは河岸や魚市場があったエリアですが、最近は若い人が店を構えるケースが増えていて、初期の価格設定も比較的リーズナブルです。
寿司なので安いわけではないですが、1万円台で提供するお店も出てきています。既存店がどんどん高級化して、価格も上がっていく中で若い人がそのエリアを狙って、リーズナブルに出している形ですね。
大谷
日本全体でいうと、今は愛媛県の松山が熱いですね。地方の寿司に関して、これまでは福岡や札幌が強かったですが、それに迫る勢いで店が増えていて、しかもレベルが高いです。
理由は大きく2つあって、1つは料理人同士の横のつながりです。「愛媛食材研究会」という集まりがあって、寿司職人だけでなく他ジャンルの料理人も含めて、営業後に勉強会を行っています。忙しい中でも知識を共有して、全体のレベルを底上げしているので、進化のスピードも早いです。
もう1つは、藤本純一さんという有名な漁師の方がいて、さまざまな海域から良い魚を仕入れて、良い神経締めをして出荷をされています。全国的に漁獲量が減っている中でも、愛媛は質の高い魚を安定して確保できているのが強みです。
大谷
ラーメンでは、東京なら葛飾区の金町ですね。今はかなりの激戦区になっています。コロナ以降、テレワークが広がって、都心じゃなくても人が住んでさえいれば、人気店ができる流れになったんですよ。その中で注目され始めたのが金町です。
井手
「武蔵屋」で総大将をやっていた三浦慶太さんが金町出身で、「三浦屋」という家系ラーメンを出して一気にブレイクしました。その影響で「金町、いけるぞ」となって、人気店が金町に集まり、今ではラーメンの熱い街になっています。
井手
山形と新潟ですね。山形市と新潟市は、ラーメンの消費額日本一をずっと争っていて、今は山形市が3年連続ぐらいで1位です。
井手
山形は、お客さんが来るとラーメンを出前する文化があるらしいです。それに加えて、夏はすごく暑いのですが、「冷やしラーメン」があるのでラーメンの消費額が落ちないんですね。
井手
冷たいスープがパンパンに入っていて、氷が浮いているラーメンなんです。山形の「栄屋本店」が元祖で、ご当地ラーメンとして夏でも売れています。
山形も新潟も県が広くて、それぞれの地域に独自のご当地ラーメンがあって、観光向けに作られたのではなく文化的にできたものが多くあります。地元の人たちがしっかり発信して、首都圏にも広めているので、どのエリアに行ってもおいしいラーメンがある強みがあります。
井手
外食支出減少を乗り切るには ラーメンと寿司の新たな一手
ラーメン業界は、コロナ禍で店にお客さんが来られなくなって、売り上げが立たなくなった時に、冷凍ラーメンや自販機を開発したり、お土産などを試したりして、今も続けていますよね。
つまり、店に来るお客さんだけで売り上げを作るのではなく、冷凍や監修商品、コラボなども含めて、総合的に収益を立てる発想に変わったと思います。自宅で食べてもらえる商品を含めて、二重の売り上げ構造を作る必要があるので、もう店だけのビジネスではない感覚ですね。
井手
家で食べているチャーハンでも、ちゃんとお店にお金が入っているのは大きいですよね。お店の認知にも繋がりますし、来店客だけに依存しないビジネスにもなります。
井手
寿司の場合は単価が高い分、競争が激しくなるとどこで差異化していくかですね。希望があるとすれば、やはり地方だと思いますね。職人が地元に戻って地魚を使って、東京よりはある程度安く、でも地元では高い値段で提供する事で交流人口も増えて、寿司の楽しみ方も広がります。
これまでは「東京でなんとしてでもやる」という発想が強かったですが、今は激戦になり過ぎているので、地方にもチャンスがあると思います。
大谷
三浦半島で魚の仲買人をされている長谷川大樹さんのように、今まで食べられなかったような魚でも、良い魚を選んで、適切に仕立てて高級店に出すと「実はおいしい」といった発見もあります。
普通の江戸前寿司では聞かないアカザエビも、実は寿司ダネとしておいしいといった提案がされています。あとはハタ系の大きな魚なども、今の寿司の仕事や調理法の知識があれば、寿司ネタとしておいしく使えるので、長谷川さんが買い付けたハタを使う人も増えています。
大谷
漁獲量自体は減っていますが、締め方や搬送する「手当て」の技術は大きく進化していますし、熟成の知識も広く共有されているので、全体的な調理技術は昭和の頃を明らかに上回っています。
大谷
消費がやや停滞している課題はありますが、ジャンルとして衰退するというより、それを乗り越える知恵が蓄積されている段階だと思います。
大谷
修行か独学か 職人育成モデルの変化
実際、今は寿司スクールが全国に10校以上あって、「東京すしアカデミー」のような有名校に加えて、「ONODERA GROUP」の「鮨 銀座おのでら」のように寿司店が運営しているスクールも出てきています。
大谷
スクールで基礎を学んだ人もいますし、さらに言えばYouTubeで独学した職人も出てきています。しかもかなりおいしくて、大宮の「いしまる」は高級魚を扱う居酒屋でしたが、YouTubeを見て学んでおいしい寿司を握っています。
センスのある人が一気に伸びるやり方としては、十分にあり得る流れです。
大谷
最短で2ヶ月くらいです。ただ、当然できる事は限られます。その後に現場で数をこなす事、質の良い魚を扱う経験が重要になります。
質が良くない素材でいくら練習しても技術は伸びにくいので、そういう意味で名店での修行を経た人は、素材の良さを引き出す力が上手いです。
大谷
寿司スクールはすごく有効な選択肢ではありますが、「あり・なし」で語ると用途も変わってくると思います。
大谷
その通りです。2ヶ月で卒業した人が銀座の職人に肉薄する事はできても、それは一部のセンスがある人だけで、ほとんどの人は卒業後にトレーニングや食べ歩きで学び続ける必要があります。
大谷
センスに尽きると思います。残酷な話ですが、一流店で修行しても、センスがないとどこかで伸びが止まる現象が起きます。飲食業界は変化が激しいので、トレンドを取り入れながら技術を磨き続ける必要があります。
大谷
ラーメンでも近い出来事があって、赤坂に「博多ラーメン 和」という行列店があります。元々は長く続いているのに全く話題にもならなかった店でしたが、息子さんが店を継いだ際に「このままじゃダメだ」と学んで、味を変えたそうです。
普通なら、どこかの店で修行して学ぶと思いますが、YouTubeで豚骨ラーメン屋に密着した動画をたくさん見て、寸胴の中まで拡大してコマ送りで見ながら分析して、結果として味を大きく向上させて、2年ほど前に一気にブレイクしました。
井手
ただ、独学の場合、ラーメン店では立地と「どこの店の出身か」が初期情報になるので、いきなりラーメンの味だけで評価されるとなると、相当な努力が必要になります。
井手
日本の食はどこまで進化するか 寿司とラーメンの未来
寿司は店ごとに違うので一概には言えませんが、私自身、豊洲に朝一で買い物に行く事もあります。
大谷
ラーメンでも自作する人がいるじゃないですか。寿司の場合は少量でできるので、自分で魚を捌けるようにして、寿司の仕事を習得しようと思いました。実際に穴子を目打ちして捌いています。
穴子は煮るのが大変で、すぐ崩れてしまうのですが、寿司屋のものは綺麗に仕上がってますよね。実際にやってみると、その難しさと技術の高さがよく分かるので、リスペクトを高めるためにやっている側面もあります。
大谷
高級店に行くと、原価率の面で「これはちょっと乗せすぎでは」と感じる事もありますね。
大谷
スープを一から炊くところまではしませんが、家でラーメンはよく作りますね。市販品もかなり食べています。今は市販品も本当においしくなっていて、「お家ラーメン」でも十分においしいです。
冷凍はもちろん、乾麺のしなやかさもすごいですし、家でもおいしいラーメンをたくさん食べられます。
井手
日本の食に対する情熱と商品開発力は、本当にすごいと思います。
大谷