2026.06.02

異世界対談

【前編】ベンチャーキャピタル×シニア SNS 「繋がる」をアシストするには?

【前編】ベンチャーキャピタル×シニア SNS 「繋がる」をアシストするには?

三宅 壮

三宅 壮

- Sou Miyake -

株式会社コランダム・システム・バイオロジー ベンチャー投資部長

現在システムバイオロジー領域におけるグローバル投資を推進される三宅さん。生物学・AI・エンジニアリングを統合したこの領域で、治療・コンシューマーヘルス・予防医療・東西医療融合など幅広いテーマに取り組まれている。これまで外資系コンサルティング企業での製薬・FMCG向け戦略支援、シンガポールと日本のクロスボーダー事業の立ち上げ、サウジアラビアでの分子微生物学博士号取得など、科学とビジネスをグローバルで横断するキャリアを持っている。
菊川 諒人

菊川 諒人

- Ryoto Kikukawa -

株式会社オースタンス CEO

大学卒業後リクルートにて、組織DX推進や新規事業開発を複数担当された菊川さん。2015年株式会社オースタンスを創業し、代表取締役社長に就任。「歳を重ねて、楽しみがある人生に。」をビジョンに、シニア領域で日本最大級のコミュニティサービス「趣味人倶楽部」を運営し、法人や自治体と共創型で、シニアDX戦略の立案と実行を支援。
入山 章栄

入山 章栄

- Akie Iriyama -

浜松町Innovation Culture Cafe マスター
経営学者

慶應義塾大学経済学部卒業、三菱総合研究所で主に自動車メーカーや国内外政府機関へのコンサルティング業務に従事した後、2008年に米ピッツバーグ大学経営大学院よりPh.D.を取得。同年より米ニューヨーク州立大学バッファロー校ビジネススクール助教授。
2019年より早稲田大学ビジネススクール教授。
テレビ東京『ワールドビジネスサテライト』のコメンテーターを務めるなど、TV出演も多数。
田ケ原 恵美

田ケ原 恵美

- Emi Tagahara -

浜松町Innovation Culture Cafe 見習い店員

1994年生まれ、滋賀県出身。大学在学中、学内で開催されたミスコンテストで準グランプリを受賞。
SNSのマーケティングスキルを活かしタレント・インフルエンサーとして活動を開始。卒業後はITベンチャーで広報部の立ち上げを担当。自社PRだけでなく、業界啓蒙やファンベースを生かした広報活動を経験。松竹芸能所属。

株式会社コランダム・システム・バイオロジーの三宅壮さんと、株式会社オースタンスの菊川諒人さんを迎え、「ベンチャーキャピタル×シニア SNS」をテーマにディスカッション。ベンチャーキャピタルの実態、スタートアップと事業を繋ぐ役割、シニア市場における企業戦略について、経営学者・入山章栄さんが迫ります。

「人体を全体で見る」 三宅壮が語るシステムバイオロジー最前線

入山章栄
入山
三宅さんの「株式会社コランダム・システム・バイオロジー」は、現在どのような会社なのでしょうか?
スタートアップやベンチャー企業に投資するベンチャーキャピタル(以下:VC)ファンドです。その中でも、私自身は「日本で一番変わったVCファンド」と思っていて、「システムバイオロジー」という、ライフサイエンスやヘルスケア、バイオ分野の中でもかなりニッチな領域に特化して投資しています。
三宅壮
三宅
入山章栄
入山
生命科学の分野では、再生医療やバイオなどが今すごく注目されている中で、システムバイオロジーに特化したVC投資をされているわけですね。システムテクノロジーについて詳しく教えていただけますか?
非常に分かりにくい言葉なのですが、簡単に言うと、生物や人体、健康をDNAのような一部分だけで捉えるのではなく、全体のシステムとして理解する考え方です。未病予防などの視点からソリューションを提供する会社に投資しています。

個人的には、エンジニアに例えると分かりやすいと思っています。携帯電話を作るとき、ハードウェアエンジニアとソフトウェアエンジニアがいますよね。

三宅壮
三宅
入山章栄
入山
機械を作る人と、中のソフトウェアを作る人ですね。
ただ、エンジニアの上流にはシステムエンジニアがいて、両方をつなぎながら実際のプロダクトを設計します。システムバイオロジーはその考え方を生命科学に応用した学問で、その学問をビジネスとして成立させようとしているわけです。
三宅壮
三宅
入山章栄
入山
たとえば、私たちの体は食べ物からできていますし、一方で細胞も存在していますよね。食生活から細胞レベルまで、人体全体をトータルで見る分野というイメージですか?
まさにその通りです。最近になって、AIや人間のビッグデータが発展したことで、人体全体の仕組みを分析しやすくなり、産業として成立し始めています。
三宅壮
三宅
入山章栄
入山
人体全体を細胞レベルまで含めて見る考え方は理解できますが、その考え方を事業化するベンチャー企業が実際に増えてきているのでしょうか?
特に海外ではかなり増えていますし、日本でもようやく立ち上がり始めています。私たちは、そうした企業にアーリーステージから積極的に投資するファンドです。ライフサイエンス分野の中でもかなりニッチですが、グローバル展開を前提にしています。
三宅壮
三宅
入山章栄
入山
具体的には、どういうスタートアップが投資対象になるのでしょうか? 創薬なのか、再生医療なのか、あるいはヘルスチェックの領域なのか。
実際にはかなり幅広いですね。分かりやすい例だと、腸内細菌、いわゆるマイクロバイオームを活用した創薬企業も対象になりますし、人間のデータを集めて、最近話題になっているLLM(大規模言語モデル)のような「人向けのファウンデーションモデル」を開発する会社もあります。

他にも、AIを使って「特定の患者にどの薬が効くか」を判定するバイオマーカー解析プログラムを開発する企業など、対象領域はかなり広いです。さらに、個別化サプリメントのような領域もシステムバイオロジーの考え方に含まれるので、かなり幅広いバーティカル領域をカバーしています。

三宅壮
三宅
入山章栄
入山
つまり、システムバイオロジーは「人間を全体として見る」という発想だから、投資先も医療、ライフサイエンス分野全般に広がるわけですね。ただ、投資判断の軸には「人体全体としてどう健康を実現するか」という視点がある。遺伝子検査も対象に入りますか?
そうですね。私は科学者だったので、サイエンスを非常に重視しています。元々は、システムバイオロジーの中でも腸内細菌、マイクロバイオームの研究をしていました。

最近は「腸活」という言葉も広まっていますが、その分野の研究者で、特にがんとの関連性や動物の腸内細菌に関する研究なども行っていました。

三宅壮
三宅
たがえみ
たがえみ
その専門知識を持った人が、今度はVCとして支援しているわけですね。
入山章栄
入山
失礼な質問かもしれませんが、日本語はどこで学ばれましたか?
おそらく、親が日本人だからじゃないですかね。日本人学校も小学校3年か4年くらいまでしか行っていないので、自分でも日本語を話せるのは不思議だなと思います。
三宅壮
三宅
入山章栄
入山
博士号まで海外で取得されて、そこからなぜ日本に戻ってこられたのでしょうか?
その後、イギリスに戻ったり、シンガポールでポスドクをしたりもしていたんですが、やっぱり日本人として一度日本に住んでみたかったのが大きいですね。帰国したのは、コロナ禍が始まる少し前くらいでした。
三宅壮
三宅

スタートアップと大企業をどう繋ぐ? VCのリアルな役割

入山章栄
入山
三宅さんはベンチャーキャピタリストとして活動されていますが、まさにスタートアップ企業と関わる仕事ですよね。特にシステムバイオロジーという難しい分野を扱っていて、投資家として多くの企業や人と関わる立場でもあります。

投資してくれる人を集めたり、投資先企業を別のプレイヤーに繋いだりするのもVCの仕事だと思いますが、具体的にどんな形で周囲のプレイヤーを繋いでいるのか教えていただけますか?

VCの仕事は、基本的に人やテクノロジーを別の人に繋げる仕事だと思っています。まず、スタートアップとの出会いですが、いわゆるソーシングの部分では、他の投資家と話したり、仲良くなったりする中で紹介していただくケースがあります。あとはスタートアップ系のイベントへ行って、直接出会う事もあります。

その後、投資した会社に対して大企業と組めるのではないかと感じた場合には、大企業側ともイベントや人づての紹介で繋がっていきます。さらに、私たちのファンドへ出資してくださっている企業、VC業界ではLP(Limited Partnership)と呼ばれる方々に繋ぐ事もあります。

三宅壮
三宅
入山章栄
入山
三宅さんのVCに出資している企業や投資家の事ですね。
ただ、人を繋ぐだけでは会話が噛み合わないケースも多いです。研究者やスタートアップ、事業会社、それぞれ使う言葉や感覚が違います。

研究者との繋がりは、私自身が研究者だった背景も大きいですね。イベントに呼んでいただく事もありますし、定期的にキャッチアップするようにしています。

海外の研究者とは、日本時間だと深夜になる事も多いですが、Zoomで月1回くらいは必ず誰かと話しています。日本では、なるべくオフラインで直接会うようにしています。

三宅壮
三宅
入山章栄
入山
菊川さんは元々、IT業界にいて、今はSNS関連の事業もされていますよね。三宅さんのようなベンチャーキャピタリストとも接点が多いと思いますが、今の話を聞いてどう感じましたか?
私たちは資金調達をしていない会社で、事務所ベースでやっているので少し立場は違いますが、VCの方々ってビジネスマッチングもかなりされているので、大企業とスタートアップを繋いでいただいたり、そこからシニア向けの事業開発支援やマーケティング支援に繋がったりもするので、その部分は本当にありがたいと思っています。
菊川諒人
菊川
入山章栄
入山
菊川さんの会社は、VCなど外部からの出資をほとんど受けていないんですか?
ほとんど受けていないですね。そこはかなりこだわっていて、12年間その形で続けています。
菊川諒人
菊川
入山章栄
入山
どんなこだわりなんですか?
学生時代、19歳で起業しました。友人4人で始めたのが最初で、その後はスタートアップでも働いていましたが、上場後に会社が壊れていく姿を何度も見てきました。

学生時代は人も事業もすごく好きだったんですが、資本主義や成長に向き合いすぎる中で、大事なものが失われていく感覚があって、寂しさも感じました。

菊川諒人
菊川
入山章栄
入山
今の日本のスタートアップ企業は、VCから資金調達した時点で「上場するか、高値で買収されるか」を求められますよね。投資家は利益を出さないといけないから、追い立てられるじゃないですか。

創業者はようやく上場して少し自由になれると思ったら、さらに成長を求められる。そうした状況を見て、「何か違う」と感じていたわけですね。

そこまで悲観的には見ていませんが、大きな投資が必要ない事業もありますし、投資を急がずに、マーケットや顧客と向き合いながら価値を磨いていく事も、尊い取り組みだと思っています。

結局はアプローチの違いで、自分で会社をやるなら外部資本を入れる形より、自分で責任を負いながら、クライアントや社員も含めた向き合い方を丁寧に磨いていく方針を選びました。時間をお金で買わない意思決定をした感じですね。

菊川諒人
菊川
VCから資金調達するかどうかは、すべてのスタートアップが最初に考えなければいけないテーマです。VCは基本的に、他の投資家から預かったお金を10年間運用する仕組みなので、10年間というタイムラインが存在します。

たとえば、菊川さんの会社が成長に10年以上かかる場合、VCのファンドが7年目、8年目に入ると、どうしても買収のプレッシャーをすごくかけてくるんですよね。

三宅壮
三宅
入山章栄
入山
投資家側も回収しないといけないから、「お前ら、もう売られろよ」と焦りますよね。「そろそろ売ってくれ」となる。
さらに日本の課題でもありますが、アメリカだと「セカンダリー」が存在します。つまり、次の投資家へ株式を売れる市場があるんです。でも日本は、その選択肢がまだ少ない。
三宅壮
三宅
入山章栄
入山
最近は、セカンダリーマーケットも整備が進み始めていますけど、まだ十分ではないですよね。だから、今の日本では一度投資すると上場か買収しか出口がないので、菊川さんはその構造自体が嫌だったわけですね。
そうですね。制約の中で経営していると、どこかでほころびが出たり、自分に嘘をつく瞬間が来たり、誰かと真っすぐ向き合えなくなる感覚もあって、それなら自分でやろうと決めました。
菊川諒人
菊川
入山章栄
入山
今日のテーマは「つなぐ、つながる」ですが、そう考えると日本でもセカンダリーマーケットが育つのは重要ですよね。三宅さんが投資した会社が10年で上場しなかったとしても、次の世代の投資家に繋いで、さらに成長できる仕組みがあれば理想的だと思います。
セカンダリーマーケットが整えば、一社一社のスタートアップが成長できるので、ディープテックに限らず日本のスタートアップ業界全体の課題だと思っています。

実際にそうした動きを進めている方々もいますし、まだ公表されていない案件も多いですが、今後は少しずつ変わっていくんじゃないかと期待しています。

三宅壮
三宅

バイオもシニア事業も「つなぐ」が鍵

入山章栄
入山
三宅さんが投資しているシステムバイオロジーや医療領域は、かなり高度で専門性の高い技術分野ですが、事業化に相当な時間がかかるわけですよね。
特にライフサイエンスや医療分野は時間がかかります。たとえば創薬では、初期研究や動物実験から実際に薬として世の中に出るまで、平均で12年ほどかかります。
三宅壮
三宅
入山章栄
入山
VCファンドの期限は10年ですよね。最低でも12年かかる事業に投資するとなると、普通に考えたら割に合わないじゃないですか。
時間がかかる分、サイエンスが非常に強固なので、簡単に競合が参入できない強みがあります。じっくり研究を積み上げる領域なので時間は必要だけど、しっかり価値を生み出せる分野と捉えていただければと思います。

しかも、12年間ずっと資金だけを入れて待っているわけではありません。VC側も一緒に人を繋ぎ、企業同士を結びつけながら事業成長を支援します。

たとえば、海外スタートアップへ投資した場合は、日本やアジア展開を一緒に考えますし、日本のスタートアップには海外展開を支援しています。弊社にはアメリカにもメンバーがいますし、私自身シンガポールに住んでいた経験もあるので、アメリカや中東、シンガポールなど、どの市場が最適かを一緒に検討しています。

三宅壮
三宅
入山章栄
入山
日本発のVCって、比較的国内に閉じるケースが多い印象がありますが、三宅さんのところはかなりグローバルですね。
かなりフラットな視点で世界中からスタートアップ情報が入ってきます。実際、現時点では投資先の多くが海外企業です。もちろん今後は、日本でもさらに増やしていきたいと考えています。
三宅壮
三宅
入山章栄
入山
どうですか、菊川さん。ファンドの期限は10年なのに、バイオベンチャーは平均12年かかる。その時点でかなり難しい世界ですよね。
その姿勢はすごくかっこいいなと思いました。ロマンがありますよね。特に海外展開まで支援してくれる部分は、日本のスタートアップにとってかなりありがたいと思います。弊社にも海外から視察が来ていて、中国や韓国で記事にしていただく機会も多いようです。
菊川諒人
菊川
入山章栄
入山
それはなぜですか?
「趣味人倶楽部(しゅみーとくらぶ)」が日本最大級のコミュニティサービスになっている事もありますし、BtoBやBtoG、つまり企業や自治体向けにシニア事業を展開している部分が注目されているみたいです。
菊川諒人
菊川
入山章栄
入山
企業や自治体向けに、シニア向け事業を作っているんですか?
むしろ、そちらが事業の中心ですね。
菊川諒人
菊川
入山章栄
入山
具体的には、どういう事をしているのでしょうか?
「趣味人倶楽部」には40万人の会員がいて、かなり多くのデータがあります。他にも複数のプロダクトがあって、シニアの方がどうすればサービスを使いやすくなるかという、いわゆるUI・UXの研究をかなり行っています。さらに「どう集客するか」「どう継続利用してもらうか」といったマーケティング面の知見も蓄積しています。

日本はすでに2人に1人が50歳以上の時代なので、多くの企業で既存顧客も新規顧客も高齢化しています。その中で「どう使いやすくするか」「どう定着してもらうか」は、業界を問わず共通課題になっています。

そこで私たちは、サービス改善を一緒に行ったり、新規事業を共同で作ったりしています。まさに「共創型」で事業を進めているので、「つなげる」というテーマにも近いですね。

菊川諒人
菊川

サービスと企業をつなぐ「翻訳」の重要性

たがえみ
たがえみ
お二人とも、いろいろな人が集まるハブを作っている印象があります。自分たちが中に入ってコントロールする形と、場だけを提供する形がありますが、どんなアプローチを取られていますか?
「趣味人倶楽部」に関しては、主役はあくまでユーザーなので完全に一歩引いた立場です。年間10万人規模でイベントも開催されていますが、基本的にはユーザー同士で成り立っています。
菊川諒人
菊川
入山章栄
入山
でも、人が集まるとトラブルもありますよね。「趣味人倶楽部で知り合ったから、何とかしてください」と言われるケースにはなりませんか?
もちろん弊社に問い合わせはかなり来ます。その場合は客観的なデータや内容を確認して、必要に応じてブロック対応などを行っています。
菊川諒人
菊川
入山章栄
入山
対応としては、ブロックするまでなんですね。
ブロックだけではなく、退会対応もあります。利用規約があって商業目的の活動などは禁止しています。ただ、かなり判断が難しいケースもあるので、そこはユーザー同士で解決していただく部分もあります。
菊川諒人
菊川
入山章栄
入山
つまり、問題がある個人には退会対応するけど、コミュニティそのものへ運営側が深く介入する形ではないわけですね。
サービス側では基本的に介入しません。ただ、企業と一緒に事業を行う場合、企業だけではできない部分を私たちが一緒に作っていきます。

たとえば、健康食品メーカーや化粧品会社と美容イベントを開催したり、文化放送と1000人規模のイベントを行ったりもしました。

菊川諒人
菊川
入山章栄
入山
文化放送ともやっているんですか?
実は「趣味人倶楽部」の日記機能で投稿すると、文化放送さんの番組で取り上げていただける企画があって、連携しています。投稿が採用されると、「小学校の書道の佳作以来です」「すごく嬉しい」という声も届きますし、かなり反響があります。
菊川諒人
菊川
入山章栄
入山
三宅さんはいかがですか?コミュニティを繋ぐ時、自分でコントロールするタイプですか?
個人的な考えですが、VCは基本的に裏方だと思っています。主役は起業家やスタートアップですから、無理に方向を決める形にはならないよう意識しています。ただ、海外スタートアップを日本企業に繋ぐ場合などは、どうしても翻訳者の役割が必要になります。

実際によくあるのが、ミーティング後の認識のズレです。スタートアップ側は「すごく良い会議だった」と感じていても、日本企業側はまったく前向きではないケースもあります。逆にスタートアップ側が「全然前に進まなそうだ」と感じていても、日本企業側はかなり評価しているケースもあるので、調整する役割はかなり大きいですね。

三宅壮
三宅
入山章栄
入山
ここで言う「翻訳」は言語の話ではなく、大企業やスタートアップ、研究者と分野によって考え方が違うから、その間を繋ぐ役割が必要になるわけですね。
科学者はサイエンス視点で考えますし、起業家はビジネス化を重視します。事業会社は自社戦略に合うかを見ています。その全部を整理しながら、全員が同じ方向を向ける形に翻訳していく作業が仕事の本質に近いと思います。
三宅壮
三宅
入山章栄
入山
具体的にはどんな事をしていますか?
「この企業はこういう点を重視しているので、その部分を強く伝えた方がいい」とアドバイスしたり、「こういうプレゼンにした方が伝わる」と調整したりします。細かい部分だと、日本企業を訪問する海外スタートアップへ、「手土産を持参した方が良いですよ」と伝える事もあります。
三宅壮
三宅
入山章栄
入山
面白いですね。国をまたいで繋いでいるから、文化的な機微も理解しているわけですね。
そうですね。特に中東はかなり独特です。ヨーロッパでも、フランスと北欧では全然違います。
三宅壮
三宅
入山章栄
入山
中東はどんな違いがありますか?
中東の方々は、口調がかなり強いです。ただ、実際にはすごく優しい方が多いのでギャップがありますね。もちろん国によって違いますが、特にサウジの方々は最初は距離感があります。ただ、一度信頼関係ができると長く付き合える方が多い印象です。
三宅壮
三宅
入山章栄
入山
今日のテーマは「つなぐ、つながる」ですが、お二人の違いも見えてきました。三宅さんは異分野同士を意図的に繋ぐ立場だから、翻訳者として深く入っていく。一方、菊川さんはSNS上で自然に繋がる場を作るスタイルですよね。
自社サービスはそうですね。ただ、シニアと企業を繋ぐ場面では、私たちも「翻訳」という言葉をかなり使いますし、「伴走者」という表現もします。

企業側は、シニアは白髪で受け身、デジタルが苦手といった固定観念を持っているケースが多いですが、実際にはかなり違います。その解像度を上げてもらう役割は、私たちの重要な仕事だと思っています。

菊川諒人
菊川
入山章栄
入山
やっぱり鍵は「翻訳」ですね。三宅さんは手土産まで指導する話がありましたが、菊川さんは翻訳のコツとして意識している部分はありますか?
「思ったより若いですよ」という話はよくします。実際、今の60代前半は、30代から40代の頃にスマホやインターネットが広がった世代です。自分で契約もしていますし、仕事でも使っているので、YouTubeも普通に見ています。

しかし、企業側は「高齢者はデジタルを使えない」という前提で見ているケースがまだ多いです。そこを修正する翻訳作業はかなりあります。

菊川諒人
菊川
入山章栄
入山
企業側は未だに「高齢者はテレビとラジオだけ見ている」と思い込んでいる部分がありますよね。
ただ一方で、若い担当者には、実際に50代や60代になった時の身体的変化や不調、何が億劫になってくるかを想像しにくい部分もあります。

たとえば、コロナ禍でオンラインイベントを始めた時、Zoom登録や操作が「少し面倒」「難しい」と感じる方は多かったです。結構手厚く教えてあげないとなかなか進まない事もあるので、「できるでしょ」と決めつけず、丁寧にサポートする必要があります。

菊川諒人
菊川
入山章栄
入山
かなりきめ細かいですね。
デジタルだけで完結させない事も重要で、リアルイベントを開催したり、電話サポートを用意したり、オフラインも含めて設計しています。
菊川諒人
菊川
菊川さんの仕事も、両方の翻訳をしているんですよね。企業側にも高齢者側にも説明しないといけない。かなり大変だと思います。

双方に思い込みがあって、その間をデータを使いながら整理していく部分はすごく面白そうだなと思いました。

三宅壮
三宅
入山章栄
入山
三宅さんも同じ構造ですよね。
本当に共通点が多いと思います。お互い、かなり細かい部分まで調整しているんじゃないかなと想像できます。
三宅壮
三宅

シニア市場をどう攻略する? 「趣味人倶楽部」が進める共創型ビジネス

入山章栄
入山
シニア向けSNS「趣味人倶楽部」を運営されている菊川さんにお伺いしたいのですが、事業モデルとしては人が繋がる場で直接収益化するより、そこで得られるデータや情報を企業に繋げる形でビジネス化している、という理解で合っていますか?
はい、その通りです。「趣味人倶楽部」の中で、さまざまな体験設計、いわゆるUXを作っています。
菊川諒人
菊川
入山章栄
入山
つまりユーザーエクスペリエンス、顧客体験ですね。
顧客体験を実験したり、マーケティングやサービスの使いやすさを研究したりしているので、その知見を活かしながら、企業の商品やサービスをシニアの方々にも手に取ってもらいやすい形に変えていく事を行っています。既存サービスを改善するケースもありますし、新規事業をゼロから立ち上げるケースもあります。
菊川諒人
菊川
入山章栄
入山
このビジネスの難しさは、どこにありますか?
一番大きいのは、企業側にシニア市場へ本気で向き合う意識を持ってもらう部分ですね。先ほど海外視察の話もありましたが、日本は「超高齢化先進国」と言われていますし、「エイジテック(エルダーテック)」と呼ばれる領域も世界的に注目されています。
菊川諒人
菊川
入山章栄
入山
高齢者向けテクノロジー、というイメージですね。
エイジングや高齢化といったテーマに、テクノロジーを掛け合わせる領域です。日本は2人に1人が50歳以上なので、市場規模はかなり大きいです。ただ実際には、多くの企業がZ世代や若年層、あるいは昔で言うF1層などへ意識を向けています。

まずはシニア市場は非常に大きい、シニア世代にも使ってもらう必要があるという認識を持ってもらうところが、入口としてかなり難しいですね。

菊川諒人
菊川
入山章栄
入山
そう考えると、文化放送は面白いですよね。最近は「アダルト回帰」を掲げて、年配層にも届く番組作りを進めていますから、ある意味で先進的という事ですよね。
そうですね。そうした流れもあって、一緒にコラボさせていただいています。
菊川諒人
菊川
入山章栄
入山
やっぱり、多くの企業はまだシニア市場へ意識が向きにくいんですね。
ただ最近は少しずつ変わってきていて、弊社にも年間1000社ほど問い合わせがありますし、シニア市場を考えたいという企業は確実に増えています。
菊川諒人
菊川
入山章栄
入山
不思議ですよね。日本は半分以上が50代以上で、しかも比較的お金も時間も持っている世代じゃないですか。どう考えても大きな市場なのに、企業側の意識が向きにくいのが面白いですね。
自分のおじいちゃん、おばあちゃんのイメージでシニア像を考えていると、商品サービスを買い替えてるイメージもなければ、すごくお金を使っているイメージもないですよね。

今の80代って、退職後10年から15年ほどを「余生」みたいな生き方をしていますが、現在は「人生100年時代」と言われていますし、50代、60代、70代でも非常に元気な方が多いです。そこに対する認識のズレは、かなり大きいと思います。

菊川諒人
菊川