2026.06.02

異世界対談

【後編】ベンチャーキャピタル×シニア SNS 「繋がる」をアシストするには?

【後編】ベンチャーキャピタル×シニア SNS 「繋がる」をアシストするには?

三宅 壮

三宅 壮

- Sou Miyake -

株式会社コランダム・システム・バイオロジー ベンチャー投資部長

現在システムバイオロジー領域におけるグローバル投資を推進される三宅さん。生物学・AI・エンジニアリングを統合したこの領域で、治療・コンシューマーヘルス・予防医療・東西医療融合など幅広いテーマに取り組まれている。これまで外資系コンサルティング企業での製薬・FMCG向け戦略支援、シンガポールと日本のクロスボーダー事業の立ち上げ、サウジアラビアでの分子微生物学博士号取得など、科学とビジネスをグローバルで横断するキャリアを持っている。
菊川 諒人

菊川 諒人

- Ryoto Kikukawa -

株式会社オースタンス CEO

大学卒業後リクルートにて、組織DX推進や新規事業開発を複数担当された菊川さん。2015年株式会社オースタンスを創業し、代表取締役社長に就任。「歳を重ねて、楽しみがある人生に。」をビジョンに、シニア領域で日本最大級のコミュニティサービス「趣味人倶楽部」を運営し、法人や自治体と共創型で、シニアDX戦略の立案と実行を支援。
入山 章栄

入山 章栄

- Akie Iriyama -

浜松町Innovation Culture Cafe マスター
経営学者

慶應義塾大学経済学部卒業、三菱総合研究所で主に自動車メーカーや国内外政府機関へのコンサルティング業務に従事した後、2008年に米ピッツバーグ大学経営大学院よりPh.D.を取得。同年より米ニューヨーク州立大学バッファロー校ビジネススクール助教授。
2019年より早稲田大学ビジネススクール教授。
テレビ東京『ワールドビジネスサテライト』のコメンテーターを務めるなど、TV出演も多数。
田ケ原 恵美

田ケ原 恵美

- Emi Tagahara -

浜松町Innovation Culture Cafe 見習い店員

1994年生まれ、滋賀県出身。大学在学中、学内で開催されたミスコンテストで準グランプリを受賞。
SNSのマーケティングスキルを活かしタレント・インフルエンサーとして活動を開始。卒業後はITベンチャーで広報部の立ち上げを担当。自社PRだけでなく、業界啓蒙やファンベースを生かした広報活動を経験。松竹芸能所属。

株式会社コランダム・システム・バイオロジーの三宅壮さんと、株式会社オースタンスの菊川諒人さんを迎え、「ベンチャーキャピタル×シニア SNS」をテーマにディスカッション。バイオベンチャーが成功するための条件、シニア社会と研究者たちの未来について、経営学者・入山章栄さんが迫ります。

成功するバイオベンチャーの条件とは? VCが見る「人・製品・市場・タイミング」

入山章栄
入山
三宅さんはシステムバイオロジーの領域で、再生医療を始めとするバイオ分野への投資を行っています。ベンチャーキャピタル(以下:VC)のビジネスは、投資先企業の上場やM&Aによる株式価値の向上を通じてリターンを得るものですが、特に日本のバイオベンチャーは事業化の難易度が高い印象があります。

成功するバイオベンチャーとそうでない企業の違いは、どのような点にあるのでしょうか?

どのような企業に投資すべきかという目利きの話にも繋がりますが、VCが重視する要素として、「People(人材)」「Product(製品)」「Market(市場)」「Timing(タイミング)」の4つがあります。特に見落とされがちなのがタイミングで、今取り組むべき事業なのかという点は非常に重要です。この4つを軸に、さらに詳細な分析を行います。

その中でも、私は特に「人」を重視しています。投資先とは5年、10年という長い期間にわたって関係を築く事になるため、どのような人物が経営しているのかを慎重に見ています。私は元々研究者だった事もあり、その企業が取り組むテーマにどれだけ魅力を感じられるかも重要な判断基準です。

三宅壮
三宅
入山章栄
入山
10社に投資する場合、6社程度は堅実なビジネスモデルを持つ企業を選び、残りの3〜4社は成功確率は高くなくても、大きなリターンが期待できる企業に投資するイメージでしょうか。
よく挙げられる例ですが、Facebookも創業当初は収益モデルが明確ではありませんでした。学生同士を繋ぐプラットフォームという認識が強く、どのように利益を生み出すのか分からないと考える人も多かったと思います。しかし、現在では世界有数の企業へと成長しています。
三宅壮
三宅
入山章栄
入山
確かにそうですね。
また、ファンドによっては興味深い投資方針を採用しているところもあります。複数の専門家に意見を求め、全員が高く評価した場合には、あえて投資を見送るというケースです。

専門家全員が評価する案件は成功の可能性が高い一方で、すでに市場からも注目されており、企業価値が高くなっている事が多いからです。VCは投資時点の企業価値と、上場や買収時の企業価値との差によってリターンを得ています。

三宅壮
三宅
入山章栄
入山
サービスが生み出している価値と、実際に収益を得るポイントが異なるのはかなり重要ですよね。Facebookも人々が集まるSNSそのものからお金をもらっているのではなく、広告によって収益化しています。

菊川さんの事業も、コミュニティの参加者から直接収益を得るのではなく、そこから生まれるデータや知見を活用していますよね。価値を生み出す場所と収益を生み出す場所のズレを見抜き、活用する事が、投資家や起業家にとって重要なのかもしれません。

実際に行っている事業と、利益を生み出している事業が異なる構造は好きですね。世の中の仕組みを紐解くのは、自分がずっとやっていきたい事でもあるので。

たとえば、ドラッグストアでは入口付近にお菓子が売られていて、実際には店の奥にある化粧品で儲けているように、その店舗が本当はどこで利益を生み出しているのかを考えるのが好きです。

菊川諒人
菊川
入山章栄
入山
昔から興味があったのでしょうか?
学生時代から電車内の広告を見て、マーケッターがどんな打ち合わせをしているのか逆算するのがすごく好きで、自分ならどう企画するかを考える事もありました。
菊川諒人
菊川
本当に起業家的な発想だと思います。
三宅壮
三宅
入山章栄
入山
三宅さんは違うのでしょうか?
私も比較的近いタイプだと思います。たとえば、Amazonの収益モデルには以前から強い関心がありました。Amazonは書籍販売によって得たキャッシュフローを投資に回して成功した会社なので、そのようなビジネスモデルを分析することは私も好きです。

菊川さんとの違いがあるとすれば、私は自ら起業するよりも、起業家を支援する立場に適性を感じている点かもしれません。

三宅壮
三宅
入山章栄
入山
その違いを生む要因は何だと思いますか?
行動力かもしれません。
三宅壮
三宅
本質的には役割の違いだと思います。
菊川諒人
菊川
入山章栄
入山
近年は成功した起業家が投資家へ転身するケースも増えています。菊川さんは投資家として活動したいと考える事はありますか?
実際に友人の会社へ出資する事もありますが、自分の会社は自己表現の場で、そこに最もコミットしたいので、本格的な投資活動はほとんど行っていません。
菊川諒人
菊川

スタートアップはなぜ「村社会化」するのか? 多様性の重要性を考える

たがえみ
たがえみ
ポジティブな面もネガティブな面もあると思いますが、特にスタートアップ業界では、どうしても近い属性の人たちが集まりやすく、「村社会化」しやすい側面があるように感じています。

「趣味人倶楽部」でも、特定のテーマに強い関心を持つ人たちが集まる事はあると思いますが、そのような偏りから外れるために意識している事や気をつけている事はありますか?

私は小学校を4校、中学校を2校経験していて、小中学校だけで6校に通いました。元々、さまざまな環境で、運動もスポーツも含めて自分なりに楽しみながら過ごしてきました。会社を12年経営してきて、小学校や中学校時代の友人と再会し、一緒に仕事をする事もあります。

人との出会いは、果物の旬のようなものだと思っています。人と人が出会うべき旬なタイミングが常にあって、会う人とは会うし、会わない人とは会わない。

今の私の周りには、クライアントや社員やパートナーも含めて、好きな人しかいません。常に「この指止まれ」をしていて、その指に人が止まったり、お互いに止まり合ったりしながら、楽しく仕事をしている感覚です。

菊川諒人
菊川
入山章栄
入山
しかも資金調達をしていないので、誰からとやかく言われる事も無く、嫌な投資家もいないわけですよね。
必要であればお金を貸してくださる方もいますし、選択肢はたくさんあります。好きな人たちに囲まれて、好きな事をやって、自分にしかできない事でないとやりたいと思えないので、昔から市場を作る事にしかあまり興味がありませんでした。

既存の市場で誰かがやっている事を少しうまくやって利益を出しても、自分や従業員が少し良い暮らしをできるようになるだけではないか、と考えてしまうんです。これだけ豊かな日本で、本当にそれだけを目指す必要があるのだろうか、と。

だからこそ、本当に価値のある事をやりたい。顧客だけではなく、自分たち自身も豊かな気持ちになりながら、関わる人すべてと誠実に向き合う事を大切にしています。

菊川諒人
菊川
VCの世界にいると、一つの考え方に偏ってしまう事の危険性を強く感じます。視野が狭くなり、全体像が見えなくなってしまうため、さまざまな業界の人や異なるバックグラウンドを持つ人たちと積極的に話す事は非常に重要だと思っています。

実際、私たちの会社には元々、プロのバイオリニストだったメンバーもいます。私とは性格も正反対です。クリエイティブな人は考え方も視点も違いますし、そういう人がいるのはすごく大事だと思いますね。

三宅壮
三宅
入山章栄
入山
まさに多様性ですね。多様な人と繋がる事が重要だと。
本当にそう思いますし、その方が偶発的に新しいものが生まれます。「自分はこういう事をやりたいから、この人には会わない」と決めてしまうと、世界がどんどん狭くなってしまいます。

「無知の知」というカルチャーがあるくらいに、知らない世界の中で今日出会った人や今日知った事によって、自分の考えが大きく変わるかもしれない前提の中で生きているので、偶発的な出会いや多様性はとても大切だと思っています。

菊川諒人
菊川

「朝起きる理由」を作る 株式会社オースタンスが描くシニア社会

入山章栄
入山
最後は「つながるをアシストした未来」をテーマにお話を伺います。菊川さんは10年以上にわたり、外部から資金調達を行わずに事業を続けながら、「趣味人倶楽部」を通じてシニア層を中心とした人々の繋がりを生み出してきました。

こうした事業を続ける中で、今後どのような未来を実現したいと考えていますか?あるいは、どのような状態になればワクワクすると感じますか?

事業を始めた頃からあまり変わっておらず、オースタンスのビジョンは「歳を重ねて、楽しみがある人生に。」という言葉なんですね。講演などをしていると、参加者の方が駆け寄ってきて、「60代、70代になった母親が朝起きる理由が無い」という話をよく聞きます。

私はシニア事業を始めた時からその部分に着目していて、現役時代は手帳やカレンダーが予定で埋まっていて、「また月曜日か」「今週、土日これがある」みたいなのが減っていくんですよね。

「朝起きる理由が無い」と感じるのは、予定が減りすぎて「起きなくて死んでもいい」と冗談交じりに話しながらも、どこか寂しそうな表情を見せる人も結構います。

菊川諒人
菊川
入山章栄
入山
少し言い方は良くないかもしれませんが、「ただ生きているだけ」のような感覚を持ってしまうわけですね。
日常がモノクロになってしまうような感覚です。私たちとしては、手帳やカレンダーに予定を埋めていく事、「来週、来月は何をしようかな」と思える状態を作っていきたいと考えています。それが私たちが目指す一つの到達点です。

しかし、孫の事や介護の問題、健康やお金の悩み、家族との関係、相続など関係性をしっかり見ていくと、さまざまな課題を抱えている事も見えてきました。楽しみを提供する事は大切ですが、土台となる課題が解決されていなければ、人生を楽しむ事に集中できません。

現在、弊社では趣味や健康といった領域に加えて、相続や資産管理などの課題を解決する金融面からのアプローチにも取り組んでいます。土台となる課題を解決しないと楽しみたいといった話にもならないので、その両輪を作る形です。

菊川諒人
菊川
入山章栄
入山
相続や介護の問題は、本当に大変ですよね。
私たちの事業を通じて、いわゆる終活と呼ばれる領域も含めて家族の話やお金の話、健康の話など、生きている間に大事な話をする人が増える土台づくりにも取り組んでいきたいと思っています。
菊川諒人
菊川
大変なテーマではありますが、非常に重要な取り組みだと思います。日本は高齢化社会や慢性疾患、予防医療といった社会課題が世界で最も早く顕在化している国である一方で、市場という観点から見ると大きなチャンスでもあると感じています。

菊川さんの事業も含めて、日本で生まれた高齢化社会向けのサービスやスタートアップには、将来的に海外展開できる可能性があります。市場が存在するからこそ、新しい企業が生まれる。

そして今後、同じ課題に直面する世界各国に対して、日本で培われたソリューションやサービスを提供できるようになるかもしれません。そう考えると、とても大きな可能性を感じます。

三宅壮
三宅
実際、オースタンスに訪れる海外企業の人たちは、人口減少が始まると、高齢化社会やシニアビジネスへの関心が一気に高まるんです。人口減少が進むと、これまで子ども向けのおむつを製造していた企業が「大人用のおむつを開発しよう」「シニア向けビジネスについて教えてほしい」と、世界各国から相談を受ける機会が増えています。

だからこそ、日本でしっかりと成功事例を作って、海外へ展開していく事には大きな挑戦価値があると感じています。

菊川諒人
菊川

優れた研究者が報われる社会へ システムバイオロジー投資の未来

入山章栄
入山
三宅さんは、システムバイオロジー領域への投資を通じて、どのような未来を実現したいと考えていますか?
私は元々研究者だった事もあり、優れた研究を生み出している研究者が、もっと報われてもいいのではないかと考えています。研究者の方々が面白い研究を続けながら、その成果を社会実装し、適切な形で収益化できるようにする事は、私自身の大きなテーマの一つです。

もう一つは、日本という市場をもっと成長させたいという思いがあります。私は日本人ですし、日本に戻ってきた理由の一つもそこにあります。日本の産業や研究をより大きく育てていきたいという気持ちは強く持っています。

三宅壮
三宅
入山章栄
入山
世界共通の課題かもしれませんが、特に日本では優秀な研究者がもっと評価され、より多くの対価を得てもいいと思います。
社内でもよく話すのですが、日本はノーベル賞受賞者を多く輩出している数少ない国です。しかし、ノーベル賞には至らなくても、世界トップレベルの研究は数多く存在しています。

もちろん大学教授という仕事は社会的にも重要ですし、それなりの待遇を受けている方もいますが、優れた研究者はもっと経済的なリターンを得られてもいいのではないでしょうか。

私は研究者の道を離れた立場だからこそ、研究成果が社会に届き、研究者自身にも還元される環境を整える事に取り組みたいですね。

三宅壮
三宅
入山章栄
入山
最近、私は「もっと地方の国公立大学に注目すべきだ」と、さまざまな場所で話しています。以前、東京都副知事の宮坂学さんと一緒に、金沢で開催されたスタートアップ関連のイベントに参加しました。参加者は数十人程度でしたが、ある県立大学の准教授の方が合成生物学の研究について発表されていて、とても興味深い内容だったんです。

「なぜ起業されたんですか」と尋ねたところ、「大学には研究資金がほとんど無いので、起業して資金調達を行い、その資金で研究を続けたい」と。ただ、大学教員が会社経営まで担うのは容易ではありません。そこで経営人材を外部から招き、自身は研究に専念する体制を考えていると聞いて、非常に良い形だと思いました。

日本では、東京大学や一部の有力大学に研究予算が集中しがちです。地方の国公立大学にも優秀な研究者は数多くいますが、資金面では大きな苦労を抱えています。そうした研究者や大学にも、もっと光が当たってほしいですね。

その意味では、日本の研究者は世界でもトップクラスの効率で成果を出していると思います。限られた研究費の中で、非常に高いレベルの研究を実現している研究者が本当に多く、地方の大学にも数多くいらっしゃいます。

そうした研究者を発掘し、一緒に事業化を進めていく。研究者自身が経営を担わなくても、起業家や経営人材、資本を集めて事業を形にしていくのが私たちVCの役割です。

先ほど「翻訳」という話もありましたが、研究と社会を繋ぐ役割を果たしていきたいと思っています。

三宅壮
三宅

PMFは目指すものではなく結果論? 事業成長の本質とは

たがえみ
たがえみ
お二人のビジョンはとても素敵だと思う一方で、そこに至るまでには「PMF(プロダクトマーケットフィット)」を実現しなければなりません。そのプロセスは非常に難しいと思うのですが、お二人はどのような工夫をされているのか、投資先や経営者に対してどのようなアドバイスをされているのかもお聞きしたいです。
私たちはシニアという、自分たちとは異なる世代を対象に事業を行っています。プロダクトを磨くという意味では、顧客理解の解像度を高めたり、実際にサービスを使っていただいて話を聞いたりする取り組みを徹底しています。

どの市場が今後成長していくのかを見極める事も、事業としては非常に重要ですが、最終的にはやり続けるしかないので、PMFは結果論だと思っています。

菊川諒人
菊川
入山章栄
入山
三宅さんはいかがですか?
私もPMFが結果論だという考えには非常に共感します。PMFという言葉自体、人によって定義や捉え方が異なるので、一括りで語れるものではありませんし、あまり意識しすぎる必要もないと思っています。

私が以前在籍していたシンガポールのスタートアップでは、従業員数が数カ月で100人規模から数千人規模へ拡大しました。私が退職する頃には数万人規模となり、シンガポールで2番目に大きなテック企業へ成長していました。

三宅壮
三宅
入山章栄
入山
「Shopee(ショッピー)」ですよね。すごいですね。
私は、Shopeeの日本市場の立ち上げに関わっていました。あの会社こそ、本当の意味でPMFを実現していた事例だったと思います。市場からの需要があまりにも強く、「この会社潰れるんじゃないかな」と感じるほどの勢いで成長していました。

ユーザーが急激に増えると、採用も追いつきません。どれだけ人を採用しても需要に対応できず、採用の質を維持する事も難しくなっていきます。そうした経験を通じて、PMFにはさまざまな形があると実感しました。

だからこそ、PMFという言葉をあまり軽々しく使えないですし、結局のところ結果論じゃないかと思って、PMFをあまり意識していません。

三宅壮
三宅