「企業は着実な情報発信を続けていくしかないと考えています。」 ChatGPTやGemini、Claudeなど、AIを起点とした情報発信への注目が高まる今、企業の情報発信はどう変わるべきか。早稲田大学大学院教授・入山章栄氏の答えは「AIの中身は誰にも分からない」という現実だった。AI時代の企業に必要な情報発信の在り方を聞いた。
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AI検索の普及で、企業がAIにどう言及されるかへの関心が高まっていますが、この領域はまだ、みんな暗中模索だと思います。なぜかというと、いま主流のAIはChatGPTかGoogleのGeminiかClaudeが挙げられますが、アルゴリズムの本当のところが分からないわけですよ。作っている当人たちも把握しきれていないだろうと思いますし、AIがなぜ、どういう基準で回答を出すのかが誰にも分からないんです。
実際、私には常に3つのAIに同時に聞く習慣があり、いずれも有料プランを利用していますが、3つとも違う答えを言ってきます。同じ質問を投げても、返ってくる答えはそれぞれ違う。それが今の現実です。
一つの考え方として、AIの会社がやがてGoogleの広告のように「これは広告です」と示しておすすめを出してくる可能性もあります。しかし、我々がAIに求めているのは多分それではないですよね。自分の質問に対して、一番いい答えを出してほしい。そうでなければ、検索と違って結局使われなくなってしまうとすら思います。
つまり、広告のモデルが通じないうえに、アルゴリズムも分からない。その中で企業にできることは、今まで以上に着実に情報発信をして、ネット上で露出をしていくこと以外にない、と個人的には考えています。
さらに難しくなるのが、おそらくこの後、AIエージェントがもっと普及するということです。生活に必要な日用品も、エージェントが勝手に買ってくるような時代になる。私は本当にそうなると思っています。
どういうことか。例えば何年か先には、家のトイレットペーパーがなくなったら、それがどこのブランドかは分からないけれどAIが勝手に買ってきてしまう。どのブランドにするか、どの店で買うか。人間がいちいち考えなくてもいい買い物から、そうした自動化が当たり前に起きていく可能性があると思っています。
重要なのは、我々は特にそれを気にしなくなるだろうという点です。届いた商品がどこのブランドか、どの店のものかを、人間は意識しなくなっていく。つまり日用品のような領域では、ブランドを意識して選ぶという購買の意思決定そのものが、人間の手を離れていくわけです。この前提に立つと、企業のマーケティングはこれまでとは違う難しさに直面することになります。
私がよく例に挙げるのが「ペットフード」です。うちの犬が本当に一番おいしいと思ってくれているかは、人間には分かりません。犬は喋れませんから、なんとなく食いつきや食べっぷりで判断するしかない。うちの犬も何でも食べるので、どれもおいしそうに食べていると、結局どれがいいのか分からなくなりますよね。
だからペットフードは習慣化してしまいやすい。一度買って、最初に買ったものをおいしそうに食べているなと思うと、「これでいいや」となって、ずっと同じものを買い続ける。うちもそうです。そしてAIにも、これに似たところがあるのではないでしょうか。一回買ってしまったら、我々もどうせ気にしないから、ずっとそれを買ってくることになる。
もしそうなれば、これから企業のマーケティング担当者は相当厳しい時代に入ります。少なくとも、AIベースでマーケティングを訴求するのはかなり難しくなっていきます。だからこそ、それ以外のところでどうやって認知を取っていくかが問われることになるんです。
具体的にどうすればいいのか。人間がAIに介入して、「これを買うときはいつもこの商品を買ってくれ」と能動的に指示する。そういう指示をさせるだけの認知を、AIとは別のメディアで強く訴求しないといけない、ということになっていくと私は思っています。
人間がAIを鵜呑みにした瞬間に、マーケティングの機能はなくなってしまう。放っておくと人はAIの言うことを鵜呑みにするので、それに押し勝つぐらいの強い認知がないと厳しいです。
例えば私は最近、スピングルというブランドの靴が好きなのですが、AIに「夏に向いた、おじさんでも恥ずかしくないサンダルを教えて」と聞くと、いくつかのブランドを提案してくれます。そこで出てきたものを鵜呑みにすることなく、「ちなみに、スピングルはどうなの?」とちゃんと聞いてもらえるかどうか。これこそがメーカーにとってはポイントになっていくと考えています。
このように能動的に名前を出してもらうためには、「この前見たインターネット広告で良さそうだった」「ラジオで誰かが薦めていた」などの形で、スピングルの情報が事前に私の認知の中にあることが必要です。
だからこそ広告は絶対になくならないと思っています。むしろビジネスとしてはもっと大事になってくるのかもしれない。テレビ、ラジオ、雑誌、ネット、オフラインを含めたタッチポイントで、AIの提案に負けない認知の揺さぶりを提供する。逆に言えば、そういうものしか生き残らないということですよね。