2026.07.23

入山章栄と読み解くビジネス インタビュー

「情報発信より思想発信」AI時代におけるブランディングの本質

「情報発信より思想発信」AI時代におけるブランディングの本質

「ブランディングの時代に企業が発信すべきなのは、機能でも情報でもなく、思想です。」 AIによって知識がコモディティ化し、誰もが同じことを語れる時代になった今、企業が選ばれ続ける条件とは何か。カゴメ、花王、トヨタ、ユニリーバなど、具体的な企業名を挙げながら、早稲田大学大学院教授・入山章栄氏がブランドの本質を語った。

「これからの時代の方がブランドは大事」知識コモディティ化の逆説

入山章栄

AIで情報が均一化していくと言われますが、強い認知はこれからでも作れると思うんです。それどころか私は、これからの時代の方がブランドは大事だと考えています。なぜかというと、AIによって知識がコモディティ化するからです。私が言っていることも、誰でも同じように言える時代になってしまいます。

そのときにすごく大事になるのが、「入山先生が言うなら」と思ってもらえるかどうかです。私は幸い、これだけAIが普及する前からいろいろな方に「入山先生が言うならそうかもね」と思ってもらえる状況を作れていたので、そのブランドでやっていける。知識で差がつかなくなるからこそ、「誰が言うか」という信頼が武器になるわけです。

正直、私より学歴も経歴もすごい人はいくらでもいますが、幸い人より少しだけ話す能力が高いので、面白がって聞いてもらえるのだろうと思います。だからこそ、これから大事なのは伝え方であり、人柄や個性、キャラクターです。ブランディングとは要するにユーザーインターフェースであり、人間で言えば話し方なんです。

ブランドのファンと商品のファンの決定的な差

入山章栄

認知づくりがうまい企業として、BtoCで思い浮かぶのがカゴメ株式会社です。消費者に対して「トマトなどの野菜で健康づくり」という強烈なイメージを植え付けている会社です。トマトジュースといえばカゴメが第一に想起されるじゃないですか。そういう認知を消費者の中に作り切っていてすごいなと思います。

カゴメの強さは、「カゴメ株式会社のファン」が多いことによるものだといえます。つまり、強いブランドとはカゴメのように、「企業そのもののファンが多い状態」を指すものだと考えます。

対照的なのが花王株式会社です。洗濯洗剤を選ぶとき、「アタックだから使いたい」のであって、「花王だから使う」わけではないという人も少なくないのではないでしょうか。もしそうだとすれば、機能面でのマーケティングしかやってきていないために、本当の意味でのブランディングができていない結果だといえます。このように、コーポレートブランディングは非常に重要な取り組みです。

トヨタに見る「エモさ」で選ばれるブランドへの転換

入山章栄

ただし商材による違いはあります。洗剤なら機能性で選ばれると思いますし、飲料なら「産地や美味しさ」などの選ばれ方があったりする。ただ、機能や便利さで差がつきにくくなっていくこれからは、もう少しブランディングに寄っていくべきでしょう。

これから発信を強めていくなら、訴求ポイントは便利さや機能よりも「エモさ」。応援したいから買う、気分が上がるから買う。機能の良し悪しではなく、心が動くかどうかで選ばれる。だからこそ私は「とにかくエンタメとブランドなんだ」とずっと言ってきています。

いま一番うまいなと思っているのはトヨタ株式会社です。ファミリー向けのイメージが強かったアルファード(大型ミニバン)を、世界基準の高級な空間を提供できる社用車に変えた。これは本当にすごいことです。

これがいけると分かって出てきたレクサスのLM(最上位ミニバン)には、やっぱり心が動かされるわけです。LMの後部座席に、ショーファーカー(専属の運転手に任せて移動する車)として乗りたくなる。あのブランドの世界観は、レクサスが積み上げてきた歴史の上にできていて、実にうまいなと思います。

機能で差がつかなくなる時代ほど、こうした「エモさ」の設計にブランドの勝敗がかかっていくのだと思います。

「情報発信というより思想発信」創業を語れる会社が第一想起される

入山章栄

ブランディングの時代に企業が発信すべきなのは、機能でも情報でもなく、思想です。情報発信というより思想発信。「うちはこういう会社です」という思想の提示が重要で、具体的な手法としてはまず、トップが自身の言葉でとにかく語ることです。

私の好きな例が、ユニリーバの元グローバルCEO、ポール・ポールマン氏です。10年ほど前に早稲田大学にお招きしたとき、彼は留学生中心の聴衆に対して貧困や戦争といった世界の問題を1時間のうち50分語り続けました。

そして最後に「我々はもともと石鹸の会社であり、人類の衛生問題の解決が使命だ」と締めて、スタンディングオベーションが起きました。グローバル企業はこういったメッセージを発信できていますが、国内の企業は苦手としている印象があります。

経営者が発信するうえで大切なのは創業の理解です。会社の始まりが一番大事で、新しいブランドコンセプトを立てる場合も、創業事業とつながっていなければ誰も納得しません。

例えば浜カフェが放送されている文化放送も、もともとは教育と啓蒙のために始まった会社です。30年、50年先の未来を語るなら、創業の思いを引き継いで次にバトンを渡すことが求められます。そうやって共感で人を惹きつける企業が、AI時代においても第一想起されるのだと考えます。