イギリスの大学を卒業後、デロイトトーマツコンサルティングに入社し、コンサルティング業務に従事。その後、ロンドンでのFuzed Innovations社の共同創業や、dotD, inc.のManaging Director職を経て、現在は、エシカル・スピリッツ株式会社CEOとして事業を展開。
海外で過ごし、2010年に大手電機メーカーへ入社。新興国市場の開拓やミャンマーでの事業立ち上げを経験。現在は大手IT企業で新規事業の立ち上げ・企画を経て、オープンイノベーションの推進に携わる一方、「蕎麦文化を次の世代へ、そして世界へつなぐこと」をライフワークに、2つの会社を率いる。ひとつは2023年設立の合同会社Tsunagi。蕎麦の製粉で出る「ふすま粉」をクラフトビールに変えるアップサイクルや、種まきから収穫まで参加できる「蕎麦畑オーナーシップ」など、生産者と地域に根ざした足元の取り組みを展開。もうひとつが「株式会社ずずず」。こちらはHIPHOPアーティストや映像クリエイターと共に、蕎麦を"すする"を起点に、音楽と映像で蕎麦文化を世界へ発信するプロジェクト。
慶應義塾大学経済学部卒業、三菱総合研究所で主に自動車メーカーや国内外政府機関へのコンサルティング業務に従事した後、2008年に米ピッツバーグ大学経営大学院よりPh.D.を取得。同年より米ニューヨーク州立大学バッファロー校ビジネススクール助教授。
2019年より早稲田大学ビジネススクール教授。
テレビ東京『ワールドビジネスサテライト』のコメンテーターを務めるなど、TV出演も多数。
1994年生まれ、滋賀県出身。大学在学中、学内で開催されたミスコンテストで準グランプリを受賞。
SNSのマーケティングスキルを活かしタレント・インフルエンサーとして活動を開始。卒業後はITベンチャーで広報部の立ち上げを担当。自社PRだけでなく、業界啓蒙やファンベースを生かした広報活動を経験。松竹芸能所属。
エシカル・スピリッツ代表取締役CEO・小野力さんと、株式会社ずずず Co-Founder CEO・桑岡翔吾さんを迎え、「ジン×蕎麦」をテーマにディスカッション。ジンと蕎麦の市場の現状や海外展開の可能性、生産者が抱える課題について、経営学者・入山章栄さんが迫ります。
「ジンはメディアになれる」 素材のストーリーを一杯に込める
ジンは、最初のハードルがまだ高いのかなと思っています。香りの幅やプロダクトの幅、それこそ「ジンって何でもいいんですよ」という話が、まず知られていない状態です。
そこからまず踏み出していくと、「だったら、山椒がメインのジンはあるのかな」「柚子のジンってあるの?」と、質問の形が変わってくると思うので、より多くのバリエーションをまず飲んでもらう機会が大事だと思っています。
飲み比べセットについてもお話をいただきましたが、そういう部分も大事だという点で、私たちはクラフトジンのサブスクリプションを3年ぐらいやっています。
小野
毎月、何が届けられるか2週間前ぐらいまで分からないんですが、とにかく実験的なお酒を届けるサブスクをやっています。たとえば、中華の火鍋で使われているスパイスを全部入れた「火鍋ジン」を作りました。
他には、とあるビール会社がイベント用で作ったビールが雨で売れず、そのビールをベースに作らせてもらいました。
小野
ビールにもアルコールがあるので、蒸留して原酒を作れば可能です。
小野
基本的には何でも使えるのが、ジンの魅力ですね。
小野
私たちの会社「エシカル・スピリッツ」も、「エシカル」(倫理的、道徳的)といった単語が入っていますが、シンプルに素材をフェアに判断しているだけで、使えないものは使えないと言っています。
その中で、皆さんが使った事のなかった素材が、たまたま普通の素材よりも全然いい香りを出せたり、良いクオリティになったりするので、その点をより理解してもらえたら面白くなると思います。
小野
今の話を聞いていて思いついたのが、ジンをストーリーを伝えたいものの媒体に変えていく事ができるのではないかと思っています。
たとえば、柚子にこだわりがある農家さんがいらっしゃった時、背景のストーリーを「エシカル・スピリッツ」さんと一緒にやる。今のストーリーを作ってくれて、お店に並べると、飲む方も柚子の話も知れるみたいな感じにマーケティングにも使えると思います。まさにメディアですね。
桑岡
直近では、オリーブ農家が剪定したオリーブの枝や葉っぱを香りづけに使いました。我々がオリーブの香りがするジンをサブスクで出して、彼らもご一緒させてもらう取り組みはやっていますね。
小野
ジンはメディアになれると思います。
小野
日本の文化全体を広めるメディアにもなり得るとも思いました。醤油でもいけるわけですよね。小豆島に木桶醤油で頑張られている方がいらっしゃって、その方のストーリーを伝えるためにも醤油ジンを作って広めていくのもいいですね。
桑岡
醤油の粕も絶対に出るので、それを使った事はあります。他のメーカーと比べると、私たちの方が使ってきた素材の幅が圧倒的に多いので、そういう意味では本当に何でもありですね。
小野
「ストーリーが不可欠」 食と酒をプレミアムに変える付加価値
私たちも価格帯としては、プレミアムジンという形を取って設定させてもらっています。ジンってすごくお手頃な値段だと思うんですけど、一般と比べて高い値段で出させてもらっています。
その理由を「エシカルだから」とは絶対にしたくなくて。ジンではイギリスの品評会が一番大きいんですけど、そこで賞を取りましたとか、客観的な評価をちゃんともらった上で値段をつけて、言ってしまえば、他のノーマルな素材を使ったジンと同じ土俵にも乗れるし、むしろそれよりもベターという事を示していきたいと思っています。
小野
私も、どちらかというとプレミアムの値段にしていた方が良いと思っているし、お蕎麦全体がもっと値段が上がった方が良いなと思っています。
値段を上げるために行った事が2つあります。実は私、アップサイクルのクラフトビールも作っていて、お蕎麦屋さんに卸させてもらっているんです。
桑岡
お蕎麦屋さんで1杯目が蕎麦から始まって、最後の締めも蕎麦みたいな文脈
を作っています。値段を少し高く設定していて、農家さんの応援に繋げる事を意識してやっています。
利益分を農家さんに還元させていただくのと、粉にした時に香りが高くてもどうしても余ってしまう粉があるんですよね。それがもったいないので、添加する程度になってしまいますが、蕎麦の香りをつけた上で、「蕎麦ビール」のストーリーとして、農家さんの想いが乗っているというポップもつけて、お蕎麦屋さんに卸しています。
もう一つは、お蕎麦のオーナーシップ制度という体験の場を作っています。これは農家さんに畑をちょっと貸していただいて、都内の子どもがいる世帯や大人に行ってもらって、実際に種をまいて、芽が生えてくる過程を見てもらいます。
桑岡
長野県の安曇野市と北海道の幌加内町でやっています。農家さんからすると、余っている土地だから「こんなにあまりお金をいただけない」という考え方になるのですが、都内の方からすると、農体験だけでもまず価値がある点と、育ってくる過程を1週間に1回送ってあげるだけで、子どもがめちゃくちゃ喜ぶんです。
収穫して、蕎麦粉にして、蕎麦を打ってみて、それを親に食べてもらうなんてやれると、子どもにとってすごい体験ができるわけです。「これぐらいの値段になるんじゃないですか」と言うと、農家さんも最初はびっくりしていましたが、私が都内の方々にプロモーションして、実際にお金をいただきながら、農家さんに還元させていただく事ができる仕組みになっています。
桑岡
最近は、外から見ている人間が付加価値をつけて、プレミアムにしていく事が重要だと思っていて、そのためにもストーリーが不可欠だと思います。
桑岡
最近は、コンビニが個のパッケージ商品だけでなく、その中で出来上がったものを、その場で食べてもらう事を広げていこうとしている動きもあると聞いています。
そこには想いが乗っているとか、誰が作っているかとか、温かみがあるみたいな事だと思うんですよ。そういうものを乗せていく時代になってくるのかなと、最近は思っています。
桑岡
私たちも、ブランドをジンとして売らないようにどうするかというのは考えています。ジンという商品として売ろうとすると、ジンの限界って絶対出てくると思っていて、いわゆるブランド価値として考えたときに、ジンじゃないものとして、何か別のメッセージとして売っていくのを考えていきたいと思っています。
近い話では、飲み方とかもすごく大事です。ジン業界では今、お湯割りを一生懸命流行らせようとしています。
小野
焼酎はお湯割りが一般的ですが、焼酎よりも香りの幅が豊かなジンがお湯割りに合わないわけがないんですよね。お湯割りが飲み方の選択肢として加わると、楽しみ方が変わってきます。今はジントニックやジンソーダ、もしくはカクテルみたいな世界から、お湯割りみたいになってくると、料理の幅もまた広がってくると思います。
小野
蕎麦打ちをエンターテインメントに 日本文化を世界へ広げる夢
今までいろんなプロダクトを作ってきて、いろんな製品開発とかを試してきましたが、やっぱり弊社の代表ブランドとなる「LAST」が、グローバルブランドになっていく事がものすごく大事だと考えています。
事業的にもそうですが、こういう作られ方をしたものがトップに並んでいける事を示すには、やっぱりグローバルブランドになる事が絶対的に必要なのと、ジンにおけるマーケットは日本でも市場は大きくなっているとはいえ、グローバル市場の方が圧倒的に大きいので、マーケットを選択して、輸出の部分に力を入れていきたいと考えています。
小野
今は既に韓国、台湾、アメリカには出していますが、アメリカは出し始めた段階なので、それこそ「獺祭」をベースに作らせてもらった「LAST EN -縁-(ラスト エン)」はまだ出していないので、それを軸にアメリカはしっかり展開していきたいなと考えています。
小野
いろんな形で協力を仰ぎながら、相乗りさせていただく部分は相乗りさせていただきながら、ですね。
小野
台湾は日本のお酒に対する理解度が非常に高く、かつバー文化が進んでいる国なので、ジンをすごく受け入れ始めています。
小野
ある人から聞いたのですが、韓国は今、「20年前ぐらいの日本」だと言われていて、バー文化が黎明期なんです。ソジュや「チャミスル」などをずっと飲んでいた層が、だんだん嗜好の多様性を求めて、カクテルとかを楽しむようになってきて、バーテンダーのレベルも上がってきています。
私が韓国で驚いたのは、やっぱりお酒のメーカーなのでジンの試飲会をやると、日本では「そのままじゃ飲めないし、強いからソーダ入れてよ」とか「トニック入れてよ」と言われますが、韓国の人は「何もいらない。そのままストレートで飲ませて」という方が圧倒的に多くて、スピリッツ市場にとってはすごく魅力的なマーケットなんです。飲み慣れている方が多いので、すごく面白いマーケットだと思っています。
小野
今後の夢なんですが、この前アメリカに行った時に、ラスベガスにある「スフィア(Sphere)」という球体型の施設で映像作品を拝見し、感動してしまったんですね。
私が今目指したいのは、そこで蕎麦の伝統みたいなものを、みんなが並んで見たい映像作品やショーとして成し得ていきたいぐらいのものを作っていきたいのが、一つの大きな夢としてあります。
動画をドキュメンタリーとか作りたいですし、蕎麦打ちもショーになると思っています。蕎麦だけじゃなくてもいいんですが、日本の伝統全部を集めたショーみたいなものを、海外の方が「かっこよくてしょうがないから見たい」という状態を、スフィアでやる事を目指していきたいです。
桑岡
蕎麦打ちってかっこいいんですよ。
桑岡
蕎麦の作り方も、まさに外国の方が見たら「WoW!」っていうものだと思うんですよ。そういうのをちゃんと広げていきたいのはありますね。
職人さんの蕎麦打ちを見られる、プラス食べられるだけじゃなくて、それを見た上で自分が打ってみて、自分のものと食べ比べる事までをパッケージにして、外国の方に楽しんでいただくのはありだと思っています。
桑岡
ジンと蕎麦で「コト体験」 食と酒が生み出す新たな観光の形
もう一つお話ししたいのが、外国の方って日本に来ると結構長期滞在されますよね。お蕎麦って75日間、3カ月弱ぐらいでできるんですね。夏休みにはそれぐらいの期間で、日本に滞在される方もいるじゃないですか。大体、7月頃に種まきをすると、10月頃には実が採れます。
その間、安曇野だったら安曇野で種まき体験をしに来てもらって、その後に東京やいろんな場所を回っていいんです。3カ月後に安曇野にもう一度帰ってきて、収穫してもらう体験を外国の方向けに作れるのではないかと思っていて、パッケージ化できると楽しそうだなと思っています。
桑岡
そうすると、地域への人の流れみたいなものも作れますよね。2回目は、また別の地域に行くようなパッケージを作ると、地域にお金が落ちる可能性が増えていくので、そういう取り組みをもっとやっていきたい気持ちがすごくあります。
桑岡
コト体験みたいなところを最終的にどう目指すかは、蕎麦が蕎麦の消費であるように、我々はジンの消費という「消費」が最終拠点になりますが、どこに付加価値をつけていくかはすごく大事だと思います。
我々も今、蒸留場ツアーみたいなイベントを月1回やっていて、インバウンド向けにも少しずつ開始しています。日本の法律上、なかなか難しいんですが、ロンドンでは蒸留体験ができるクラフトジン作りがあるんですよね。
小型の蒸留器がみんなの目の前にあって、自分なりのジンをその場で、ある程度のガイドも入れながら作って、そのまま持って帰ります。
小野
蒸留体験は具体的に何をするんですか?
桑岡
小型の蒸留器を使って、原酒とボタニカルの選定を自分である程度行って、自分の考えるレシピで入れて、実際に蒸留します。蒸留自体は結構機械的な作業ですが、オリジナルのクラフトジンを持って帰る感じですね。
小野
蒸留って、大きい蒸留器でも5時間から6時間でできるので、小さい蒸留器だと1時間もあればできます。
小野
海外だと、自分でラベルを貼って持って帰る事ができますが、日本だと製造免許などいろんな規制があって、なかなか難しいですね。
そういう体験もできると、自分で作ったジンとプロが作ったジンって違うんだなみたいな、話の気づきとかも生み出せる気がします。
小野
自分が香りをつけたいものを持ってこれると、面白そうですね。
桑岡
それは衛生上、全然問題ないですね。
小野
想いを乗せるのにジンが使える事が、僕の中では本当に面白いです。
桑岡
ジンと蕎麦の文化を次世代へ 「正しいこと」を続けるビジネス
あまり商業的に走り過ぎないようにしようという事を、すごく意識してやろうと思っています。「こうやれ」「売ろう、売ろう」となってしまうと、文化自体をすごく消費してしまうと思うので、この文化をしっかり大切に醸していく事を意識しながら、正しいものをしっかり伝えていきたいです。
これをやらないと、持続可能性も無くて、1回の蕎麦ブームで終わってしまう可能性があるので、できるだけ避けたいなと思って頑張ってやります。
あとは、蕎麦界隈の皆様がいらっしゃって、応援していただいていますが、私だけが一人でワーッとやって、お金が集まって、蕎麦の文化を壊してしまったとなったら、みんなが不幸になってしまうので、みんなに利益がしっかりと行き渡る仕組みを意識して、活動をしていかないと思ってやっています。
桑岡
今、いろんなクラフトジンのメーカーが出てきて、横のつながりもすごく強い業界なので、「みんなで盛り上がっていきましょう」というところはあります。その次に量を出すとなると、日本では特に小売市場が強いんですよね。
小売市場にチャレンジをしていく観点だと、「LAST」という私たちのコアブランドを、いかに伸ばしていくかという部分は、こだわり続けないといけないと思っています。
私たちの場合、たとえばどこかのオリジナルを作るとか、OEMメーカーみたいなところに走りやすいんですよね。我々は今、ホテル向けのオリジナルジンも3件ほどやらせてもらっていますし、先日はPRONTOと共同開発して「THE 珈琲 GIN」というオリジナルジンを作らせてもらいました。
そういう仕事はいろいろと引き合いもいただきますし、楽しいんですが、「自分たちのコアはこれです」というものを常に持って、私たちの核にならないと、今後の爆発的な成長に繋がらないと思っています。
小野
素晴らしいアイデアですね。私たちも今、蔵前に「Stage by Ethical Spirits」という店を持っていますが、カクテルと料理が食べられる珍しい業態なんですね。なかなか無い組み合わせなので、その業態にすごく関心を持っていて、フランチャイズとかも検討してくださるところが増えてきていています。
かつ私たちの店がジンを一番消費しているので、その中でもスナックは気軽に、よりハードルを低くできる可能性がありますね。
小野