2026.10.16

異世界対談

【前編】サッカー×インバウンド 世界を魅了するビジネスとは?

【前編】サッカー×インバウンド 世界を魅了するビジネスとは?

倉敷 保雄

倉敷 保雄

- Yasuo Kurashiki -

フリーアナウンサー

ラジオ福島アナウンサー兼プロデューサー、文化放送記者を経てフリーアナウンサーに転職。J SPORTSの人気サッカー番組『Foot!』のMCを長年務め、Jリーグからプレミアリーグ、UEFAチャンピオンズリーグなど世界のサッカー実況を経験。豊富な知識に裏づけされた的確な実況と遊び心あるコメントで、コアなサッカーファンから初心者まで絶大な信頼を集めている。
石川 光

石川 光

- Hikaru Ishikawa -

ディーパートラベル株式会社CEO

札幌市で生まれ、小学5年生から高校卒業までオーストリアのウィーンに8年間過ごす。大学卒業後は、石油開発のインペックスや、モルガン・スタンレー証券の株式調査部などを経て、2021年にディーパートラベル株式会社を立ち上げ。
入山 章栄

入山 章栄

- Akie Iriyama -

浜松町Innovation Culture Cafe マスター
経営学者

慶應義塾大学経済学部卒業、三菱総合研究所で主に自動車メーカーや国内外政府機関へのコンサルティング業務に従事した後、2008年に米ピッツバーグ大学経営大学院よりPh.D.を取得。同年より米ニューヨーク州立大学バッファロー校ビジネススクール助教授。
2019年より早稲田大学ビジネススクール教授。
テレビ東京『ワールドビジネスサテライト』のコメンテーターを務めるなど、TV出演も多数。
田ケ原 恵美

田ケ原 恵美

- Emi Tagahara -

浜松町Innovation Culture Cafe 見習い店員

1994年生まれ、滋賀県出身。大学在学中、学内で開催されたミスコンテストで準グランプリを受賞。
SNSのマーケティングスキルを活かしタレント・インフルエンサーとして活動を開始。卒業後はITベンチャーで広報部の立ち上げを担当。自社PRだけでなく、業界啓蒙やファンベースを生かした広報活動を経験。松竹芸能所属。

常連さんにフリーアナウンサーの倉敷保雄さんと、ディーパートラベル株式会社CEOの石川光さんを迎え、「サッカー×インバウンド」をテーマにディスカッション。サッカーとインバウンドの共通点、ビジネスに不可欠な「見抜く力」の重要性、日本の奥深さについて、経営学者・入山章栄さんが迫ります。

サッカー強豪国には何がある? 倉敷保雄と石川光が語る「文化の層」

入山章栄
入山
まずは、「サッカーとインバウンドの現状」をサブテーマにお話を伺います。サッカーと言えばつい最近、世界中を熱狂させるワールドカップ北中米大会(W杯)が行われていました。倉敷さんは、今回の日本代表をどう総括されますか?

とても良いチームでした。大好きなチームだったので、ベスト4に進めなかったのは、どこの国でも同じ事情を抱えていますが、私たちもベスト4まで進めていたら「もっと行けたのに」と思うぐらい好きな代表でしたね。

苦しいところから逆転していくような、戦ってほしい、シュートを打ってほしい気持ちに応えてくれるところが、すごく好きな代表でした。

倉敷保雄
倉敷
入山章栄
入山
正直、ブラジルに負けて、日本は目的を達成できたのか、できていないのかと言われますけど、相手はブラジルですよ。しかも、三笘(薫)と南野(拓実)と久保(建英)がいない状態で、最初は1対0で勝ち出すとか、以前なら有り得ないですよね。

でも、エネルギーの問題なのかなと思いました。日本代表はいつも、もう一つが勝ち上がれない、つまり「4試合目」に勝ち上がれない事がずっと課題になっています。グループステージが3試合あって、その上の一つが次の戦いという事です。

今大会は出場国が64か国に増えたので、決勝トーナメントはベスト32から始まって、そこで敗れてしまったわけですけど、なにしろ4試合目なんです。4試合目に戦うためのエネルギーをどう持っていくかが課題で、今回はそれを乗り越えるためにたくさん準備をしてきたけれど、結局エネルギーが足りなくて敗れてしまった。

「このメンバーがいてくれたら違う方法もできた」「このエネルギーで使う事ができた」という事はできなかった。今度はその点がやっぱり課題ですね。

倉敷保雄
倉敷
入山章栄
入山
最近の日本代表は、常に4試合目ですよね。石川さんも、実はサッカーがお好きなんですよね。
始めはスキーですが、その次にスポーツをやったのはサッカーで、育ちもヨーロッパなので、ずっとサッカー文化の中で育っています。今でもUEFAチャンピオンズリーグは大好きですし、盛り上がりますし、EURO(UEFA欧州選手権)も好きです。もちろん、日本のサッカーも見させていただいています。
石川光
石川
入山章栄
入山
今回のW杯をご覧になって、どうでしたか?
内容的にいろいろあるかもしれないですが、どんでん返しの繰り返しみたいなところと、「確認」みたいな事もおっしゃられていたので、何か模索していたところから、少し解みたいなものが日本代表にとって見えてきたんじゃないかなと、勝手に素人ながら、面白く楽しみながら見せていただきました。
石川光
石川
入山章栄
入山
倉敷さんは、リーガ・エスパニョーラをずっと追いかけられていて、日本で最もスペインサッカーに詳しいお一人だと思うのですが、スペインはものすごい強さでしたね。

一番面白かったのは、ルイス・デ・ラ・フエンテ監督ですね。彼は要するに苦労人なんですよ。アスレティック・ビルバオというバスク州にあるチームの選手として、優勝もして、成功体験を持っているんですけど、コーチとしては本当にチャンスがありませんでした。

最終的に今の代表監督に上り詰めるためのきっかけは、新聞広告なんです。求人広告を見たら、スペイン代表のアンダー世代のカテゴリーが臨時のコーチを募集していたんです。

倉敷保雄
倉敷
入山章栄
入山
コーチの募集を新聞広告に出すんですか?

それまで機会に恵まれず、担当したチームも上手くいかなくて、ノーチャンスだと思われていたところに、たまたま当時の監督だったイニャキ・サエス氏が友人だったので、彼に電話をして「僕を推進してくれないか」と、とりあえずアンダー世代の監督に就任したんです。

短い時間で結果を出して、続けてやってもらおうかという話になり、そこから段々とアンダー世代のカテゴリーが上がって、ルイス・エンリケ前監督から交代の時に、彼はそのチャンスを得ました。豊臣秀吉みたいな立身出世となったわけです。

倉敷保雄
倉敷
入山章栄
入山
正直、デ・ラ・フエンテ監督って「誰?」と思いましたよ。ルイス・エンリケ氏は選手時代からものすごく有名で、FCバルセロナの監督もやって結果を出していましたからね。そういう方なんですね。
スペインのレベルの高さは、そういうコーチ陣も埋もれているんだなというところですごいと思ったので、日本も指導者のレベルも同じように上げていかないといけないと思っています。
倉敷保雄
倉敷
入山章栄
入山
石川さんはW杯全般をご覧になって、気付かれた事はありますか?

サッカー自体もそうだったんですが、私はカルチャーの部分に注目していました。どれだけ層が厚いか、社会に浸透しているか、もっと言えば愛されているか、ファッションがあるかとか、そういうところってすごく重要なんです。私がやっているインバウンドビジネスでも、伝統工芸とかいろんな方がいますが、結局、表層だけではダメなんですね。

一時的にどこかのハイブランドとのコラボで、少し有名になっただけでは決して通用せず、本当に積み重なったレイヤーのコミュニティの中に染み込んでいる、根を張っている文化がなければ、本当に素晴らしいものがなかなか育たないのは、日々ひしひしと感じています。サッカーでも、強い国はその層がすごく厚いですね。

石川光
石川

サポーターも含めてなんですよね。チームへの要求や褒めるところをどう褒めるかを、是々非々でしっかりと批評する。批判と批評の違いも分かっていて、「ここまではユーモアで、ここからは本当に怒っていますよ」というところを持っている。

国全体としての能力や力が、そのまま代表を仕上げていくのがスペインにはありますね。

倉敷保雄
倉敷

ブランドは「見抜く力」と「積み重ね」から生まれる サッカーとインバウンドの共通点

入山章栄
入山
昔って、スペイン代表はそんなに強くなかったじゃないですか。W杯では南アフリカ大会(2010年)、EUROも2024年に、そして今回のW杯でも優勝して、やっぱりそれは、どこかで積み重ねてきたものがバッと花開いて、今につながってきた感じなんですか?

私は「融合」だと思っています。たとえば、フランス代表にしてもスペイン代表にしても、それぞれその前に優勝していて、フランスも1998年に初優勝した時はバラバラでした。

それが段々と、いろんな人種、いろいろなルーツを持つ人たちで構成されているフランス人が一つになっていく。スペインも都市国家としての時代がありますが、代表によって一つになっていった部分もあると思います。

元々、どこがルーツだとか、どこで生まれたとかは、W杯では関係ありません。地政学みたいなものも含めた形で、非常にエキスパンションなW杯だった事が言えると思いますね。

倉敷保雄
倉敷

本当にそうだと思いますね。多種多様な文化がいろいろ入り混じっている一方で、トラディショナルなサッカーとはどういうものなのか、先ほどおっしゃられていたファンの存在がとても重要です。我々がやっているビジネスの中の伝統や文化における部分でも、ファンがいないとそもそも育ちません。

たとえば日本酒にしても、世界に向けてハイブランドで作って売る事もいいんですけど、一方で「お酒って、そもそも何であったんですか?」という部分を考えて、地域のお祭りやその土地に住んでいる人たちが「うちの街でお祭りがあったら、絶対このお酒だよね」という「LOVE」があるところが本当に強いと思っているので、サッカーと全く一緒だと感じました。

石川光
石川
入山章栄
入山
逆に、世界中の富裕層を日本に呼んでくる仕事をされていて、世界の富裕層は、それが見抜けるというか、分かってしまうのでしょうか?

上辺だけで作られて設計されているものと、長い年月をかけて愛されているものとで分かりますね。いろんな人が言っていると思いますが、「物語」を消費しているんですよね。

美味しいというのもありますが、その後ろにある歴史、家族の物語、作り手の話などを楽しむために旅行して、特定の文化やお酒、食文化、宗教、信仰に当てはめていくのが、とても楽しい旅行の醍醐味だと思います。

石川光
石川

ブランド力にもいろいろあって、スペインの指導者でも今、バスク地方出身の人たちがイングランドのプレミアリーグに何人もいるような形で増えています。

ペップ・グアルディオラ氏はカタルーニャの人でしたが、他は大体がバスク出身で、アーセナルのミケル・アルテタ監督もバスク出身です。スペインのバスク地方って、財布を忘れても届けてくれるスペイン唯一の土地だと言われています。

倉敷保雄
倉敷
入山章栄
入山
日本みたいな感じですね。

バスクの人たちがなぜ悪い事をしないのかというと、バスク語ってとても難しくて、悪魔がそれを読めなくて覚えられなかったから、バスク人を惑わす事ができなかったからというジョークがあるぐらいに、真面目な人たちなんです。

そのバスクがトレンドとして、今ではプレミアリーグにも進出しているし、スペインの指導者という点でもブランド力がありますね。やっぱり、プレミアのお金持ちは見抜く力があるので、彼らに依頼する形になってくるんですよね。

倉敷保雄
倉敷
入山章栄
入山
世界最高峰のリーグとも言われる、プレミアリーグのスタッフは見抜けるんですね。
そうだと思います。お金を持っている方って、ブランド力を見抜く力も超えていますよね。
倉敷保雄
倉敷
入山章栄
入山
見抜けるお客側と積み重ねて提供できる提供者側、良い意味での緊張関係と高め合いみたいなのが、やっぱりブランドなんですかね。

今回のW杯の膨らみ方に関して、お金とか権威を持っている人に近づく事が非常に上手だったのが、現在のFIFA(国際サッカー連盟)会長のジャンニ・インファンティーノ氏ですね。

今回は、ドナルド・トランプ大統領に近づいて、W杯の規模拡大の中でタブーを犯しながらも、ビジネスとエンターテイメントで膨れ上がるのであれば、このくらいの金額が儲けられる見通しもあったので、お金持ちはどういう人と付き合うべきか、上手くいくかというのは、割とスレスレなところもありますよね。

倉敷保雄
倉敷

マスターもおっしゃっていましたが、その人たちには見抜く力があると思います。いろいろなところを見ていますし、お金も予算もたくさんあるけど、騙されるのは当然嫌ですよね。だけど、いろいろなものを知っているので、お金がかかるものに対してたくさん払うのは全く問題がなく、必要なものには何十代と続いてきたものに対するリスペクトも含めて、お支払いしてくださっています。

その人たちの世界ではいろんな人が来ますし、間違った偽物が高く売られている事を見抜く力は、いろんな投資案件やビジネスも含めて、日常的に経験していかないといけない人たちなのかもしれないですね。

石川光
石川
サッカーのチームもそうですよね。良いコーチや選手を見抜く力、そこから誰を入れて、外から出していくのか。インバウンドではないですが、外から持ってくるものをどうするかといった部分はすごく大事です。
倉敷保雄
倉敷

一流の人は「先が見える」 経験が生む「見抜く力」の正体

入山章栄
入山
私も「見抜く力」が欲しいんですよ。とはいえ、なかなか言語化できないのでしょうか?
お金を使って鍛える、自分を磨くという事ですよね。
倉敷保雄
倉敷
入山章栄
入山
倉敷さんはどうですか?いろいろなサッカー選手やチームをずっと見てきて、感覚的に見抜ける部分があると思うのですが。

どこまで先を考えているのか、でしょうね。つまり、1から10まで、プレーの最初から最後までがあるとして、「今は3のところだけど、彼は8や9まで考えているから、こうしたんだろうな」と分かる。やっぱり、いろいろな経験値と言いましょうか。良い監督や解説者に教えていただいた時に気付く事もあります。

私が衝撃を受けた経験では、イタリアのセリエAのサン・シーロ(インテル・ミラノ、ACミランのホームスタジアム)での実況中継で、アルベルト・ザッケローニ氏(元・サッカー日本代表監督)と城福浩氏(現・東京ヴェルディ監督)とご一緒させていただく機会があり、ある選手が何気ないプレーをした際に、ザッケローニ氏が「この後、こうなるよ」と、具体的に何を言われたかは僕も覚えていないのですが、予言したんですね。

その1分後に城福氏が「そうですね」と気付いて、私は7分後ぐらいに「これだったのか!」と気付いたんです(笑)。

倉敷保雄
倉敷
入山章栄
入山
ザッケローニ氏が言う「この後」とは、何だったんですか?
「このチームはこうなって、この後はこういう展開になって、ここで点が入ると思うよ」と予言されていたんですよ。城福氏は1分で気付かれて、私は7分後にゴールが入って「あ、こういう事だったんだ」と。これがレベルの差です。
倉敷保雄
倉敷
入山章栄
入山
面白いですね。
この差は本物を見る力、先を見る力と言いましょうか、実感した経験ですね。一流の監督って、こうやって見えているものなんだと思いました。現状を分析する事は、みんなできるんですよ。だけど、予見する力や予言する力は、やっぱり本物じゃないと分からなくて、それだけ研ぎ澄まされた目を持っている方たちが、一流の方なんですよね。
倉敷保雄
倉敷

そういう人たちの話をこれまでの事も含めて数えてみると、私は昨年、年間で200人以上の職人さんやいろいろな人たちと会っていて、お話を伺っていると「余白」というか、10分の時間でも60分や90分の能力や幅を持っている人たちなので、短い時間でどちらにカーブしようが、大体のものがこの枠に収まるわけです。

そのためには、積み重ねがあったり経験があったりするので、マニュアル化や最短でのやり方をガイドラインにすると、若い人に教えるのも簡単ですよね。

石川光
石川
入山章栄
入山
よくありがちな話で、寿司職人は寿司スクールに行ったら2か月で職人になれる、みたいな話がありますよね。

この「余白」を学ぶ事や背中を見る事は、観察する力がついたり、イレギュラーな事が起きた時に自分で原因を探したり、改善したりするためのトレーニングになっているんです。

AからBに行くだけの反復練習ではなくて、AからZまで、いろいろな可能性がある中を日々何十年もかけて動いている人たちは、何かをパッと見た時に、先ほどの試合のように「この気候とこの湿度とこの木の感じだと、この後ここが曲がるから、ここで修正しなければいけない」と分かるんです。

親方や大将は横で見ていて、若い人たちがやっていて、そこで「おっ」と遅れて気付く事もある。我々のような素人が後から解説してもらって、「なるほど」となるようなプロの世界は当然ありますよね。

石川光
石川

日本代表とスペイン代表が今戦ったらどうか、という話になりますが、日本代表って一つのボールを危険な位置に置かれた時に、2人がかりで行って協力する気持ちと努力する気持ちを持っています。でも、それは2人で成し得る事です。

一方、スペイン代表って、それが起こった時に1人で1.5人から1.7人分できるんですね。だから2人はいらないんですよ。2人いなくてもできてしまう、その差です。ボールを持った時(保持)、持っていない時(非保持)にそれぞれの仕事があるわけです。

実際の仕事で言うと、たとえば寿司を握っている時、握っていない時とで保持と非保持があって、非保持の時に何をしているか、保持しなければいけない時に一瞬で何ができるかの差が「スキル」なんですね。

倉敷保雄
倉敷
入山章栄
入山

石川さんの場合、これからAIが出てくるじゃないですか。AIによって人間の能力がもっと上がっていったり、素人でもいろいろな事ができるようになったりする話が、伝統工芸などでもよく言われますよね。

倉敷さんのお話を聞いてみると、そんな簡単な話でもない事なのでしょうか?

なかなか難しいと思いますね。マスプロダクションになっているものは、AIなどの影響をすごく受けると思うんですけど、一点物を作っている人たちと、十何代も続いている人たちが作っているものでは、クライアントが求めているものが全然違うので、同じものであっても機械で作ったものを決してほしいとは思わないですね。
石川光
石川
入山章栄
入山
石川さんから見て、日本のもので「このブランドは絶対にAIにはできない」ものは、何かありますか?
工芸品で自己表現をしている作家たちは、みなさんそうだと思いますし、人間国宝で九谷焼作家の吉田美統先生もそのお一人です。他には、漆器の「川北工房」(石川県加賀市)ですね。親子3代にわたって活動されているのですが、そういった方たちのストーリーや物語性は決して真似できず、同じものを作ったとしても、同じようにお金を払う人はいませんね。
石川光
石川

「ハイライトだけでは面白くない」 SNS時代に問われるメディアの役割

たがえみ
たがえみ
バスク地方や伝統工芸の話は、教育的な部分や文化づくりなど、長期間で考えるものですよね。これらの取り組みが評価されるには、どのくらいの期間が必要となるのでしょうか?
やっぱり実績ですよね。目に見える形の実績が可視化されないと、なかなか理解できない部分だと思います。多くの人がその競技や文化について、蘊蓄や知識を持っている人たちがどれだけ認めてくれるか、日の当たるところで認めてくれるかが、きっかけになるのかなと思います。
倉敷保雄
倉敷

矛盾するような話にはなってしまいますが、ストーリーは誰しも持っているんですよ。それをどう語るか、どういう風に表現するのか、どういう角度で見るのか、どう評価するのかはとても重要です。

本当はストーリーがあるのに、それを無視して表面的な形や形状、一時的なものだけを前面に持ってくるのか。その後ろにある面白いところを、しっかり背景として持ってきてあげる事ができているのか。それがマーケティングとして形になっている方もいらっしゃれば、体から滲み出ている方もいらっしゃいますし、自分でお話しできる方もいらっしゃいます。

我々の会社では、そこをできるだけ抽出して、僭越ながら言葉にして、海外の方に伝わりやすい形に咀嚼しやすいよう少しアレンジするとか、見せ方を選んであげる事には努力したいと思っています。

石川光
石川
たがえみ
たがえみ
日本人のお客さんだけではないですもんね。

インターナショナルだからといって、そこまで違いはないですが、やっぱり日本で生まれて育って、こういう文化の中で育った人たちの当たり前と、パンを食べてきた人、オリーブオイルでご飯を食べてきた人たちのベースは、やはり少し違います。

このお客さんにとっては、「この文化はこういう事なんじゃないか」という形で少し翻訳してあげる事によって、「なるほど、スペインのこの料理の話と一緒なんだね。お母さんが作って、これは家庭の料理だよね」と、すぐに理解できる。

だから、「ミシュランスターのところに行くのもいいけど、それぞれの家のおいしさがあるんだね」と、すぐに「お袋の味」のようなものが分かったりする。それは咀嚼してもらうための説明の仕方なのかなと思います。

石川光
石川
入山章栄
入山

そういう意味で少しお伺いしたいのは、メディアの役割をどうお考えでしょうか?メディアって結構難しいじゃないですか。深いところを伝え切れるものばかりではないですよね。

倉敷さんご自身がメディアとして関わられていて、この辺の面白さと難しさって、どういう風にお考えですか?

SNSの時代になって、とても難しくなったと思います。オールドメディア、ニューメディアという言い方についてはいろいろ話したい事もありますが、動画で見ないと分からない人が増えたのは実感としてあります。テキストで書いて同じ事が書いてあっても、読んでもらえない。でも、動画で誰かが話したり、目で見たり耳で聞いたりする事によって、今の人たちは理解する形が多いです。

その中で、深いものやストーリー性をどうやって紹介したらいいのかは、難しいと思います。今回のW杯で目に見えて分かりやすかったのは、賛否両論ありますが、ハーフタイムショーがあった事ですね。たとえば、クリスティアーノ・ロナウド(ポルトガル代表)に関しても、本当はサスペンション(出場停止処分)で出場できない試合があったはずなのに、今回は特別に出場できるようになりました。

エンタメの材料として揃った方が良いだろうと、ビジネスを拡大させるために用意し、どういう風に伝えたかというと、やっぱりSNSなどでは「なぜ出場できるのか」ではなくて、「出場できる事」が先に来たんですよ。

これを私たちはどう伝えたらいいのか。「ネガティブな事は言わないでくれ」と言うファンもいるので、今の時代は少し難しいですね。

倉敷保雄
倉敷
入山章栄
入山
先に、情報としての結論から欲しがる時代になっていますよね。
入山さんはフルタイムで見るタイプだと思いますが、今の人は「ハイライトでいいよ」という人も多いです。
倉敷保雄
倉敷
入山章栄
入山
ハイライトで見たら、何にも面白くないですよ。
さらに技術的な事で言うと、AIで編集する事も増えました。でも、AIの編集って正直に言って心がないというか、「ここのパスが良かったから」とファンが見て納得するものや「この人の握りだから上手いんだよ」とか、「この人が刀を研いだというところがすごいんだ」といった部分が抜けてしまうんです。
倉敷保雄
倉敷
入山章栄
入山
今の話を聞いて思ったのは、1つのクラシック音楽を聴いている感じがありますね。クラシック音楽って、退屈でも第1楽章からちゃんと聴く事で、最後の第4楽章ですごく盛り上がるのが好きなんですけど、「第4楽章のすごくいいところだけ撮っているよね」みたいな感じですね。
試合の中には、つまらない時間もあると思います。だから、つまらない時間には「お茶菓子を出します」みたいな中継をしているので、それが多分、気に入っていただいていると思うんですけど(笑)。
倉敷保雄
倉敷
入山章栄
入山
たまに、とてつもなく関係無い話をされていますよね(笑)。

何を目的にするかだと思いますね。あくまでたくさんの人に伝えるとなると、どうしても情報が希薄化してしまったり、尖っているところがなくなってしまったりして、皆さんに楽しんでいただけるものを選ばなければいけません。

ただ、「メディア」という言葉で言うと、ニッチなメディアもあるので、我々も自分たちのホームページの中に「ジャーナル」というセクションを持っていて、現代と過去、いろいろなテーマについて、英語のライターたちや弊社の編集部が文章を書いています。

たとえば、昔の芸者と日本社会への進出における女性の立ち位置についてなど、社会学のようなものを書いているのですが、そういう方に向けたニッチなメディアを作りたいんです。全員が楽しんでくれなくてもいいと思っています。

石川光
石川
私たちもそうです。だから今、本当にサッカーが分かりかけてきたとか、面白いなと思っているところで「ここに食いついてくれたんだ」というファンの人もいるんですよ。そこには情報を流したいといつも思います。そうすると、次が出てくるかなと思うんです。
倉敷保雄
倉敷

「噛めば噛むほど味が出る」 外国人を惹きつける日本の奥深さ

入山章栄
入山
世界を魅了するといえば、正直今は日本だと思うんですよ。本当に今、世界中から日本がいろいろな意味で注目されていて、私はすごく良い事だと思っています。石川さんは1年半前に『浜カフェ』へお越しいただいてから、さらに変化を感じられますか?

円安をはじめ、いろいろな理由がありますが、そもそも外国人観光客の数がどんどん増えていますよね。安倍晋三氏が総理大臣の頃に、4000万人を目指す話をしていて、「そんなにいくの?」という感じだったのが、今は余裕で超える勢いです。

いろいろな影響が出てきていて、もちろんオーバーツーリズムなどもありますが、いわゆるゴールデンルートの東京、京都、大阪、広島、福岡といったところから分散して、地方都市にじわじわと人が行くようになっているのが顕著に見られてきているのではないかなと思います。

今後はそのスピードも上がっていくので、さらに楽しんでいただけるのではないでしょうか。

石川光
石川
入山章栄
入山
最近、結構意外なところに海外の方が増えていますよね。私も金沢に行った時、びっくりするくらい外国人がいて驚きました。
金沢は、まだだいぶメジャーな方ですよね。たとえば、北海道の厚岸、九州でも鹿児島など、今まであまりアクセスが無かったようなところにも新幹線が通って、「面白い」という事が知られるようになってきています。福岡からどんどん南に行ってみようとする動きも出ていますね。
石川光
石川
自分だけのストーリーが欲しい、という気持ちなんでしょうか?
倉敷保雄
倉敷

それも当然あると思うのですが、リピーターになっているところもありますね。旅行のビジネスをやっていると、お客さんのアクイジションコスト(顧客獲得単価)が話題に挙がってくる際に、「日本に何回その人が来るのか」という話があり、通常の旅行業界では「そこまで何回も来ないよね」といった前提があります。

だから、1回の旅行でいかにお金を使っていただくか、1回訪れた人たちをどれだけ横に広げてキャッチするか、という話になってくるのですが、日本は比較的、リピートする人たちが多いように感じます。

石川光
石川
入山章栄
入山
世界の他の観光地と比べても、日本はリピーターが多いわけですね。その理由は何だと思いますか?
「噛めば噛むほど味が出る」ですね。深度があるから表層だけの観光地ではなく、そこに生活や文化があり、地方都市やそれぞれの街によってもカラーがあり、違いがある事に気付き始めると、「次は別の町に行ってみよう」となるのではないでしょうか。
石川光
石川
入山章栄
入山
私、アメリカに10年住んでいたんですよ。アメリカの方に怒られるかもしれないですけど、アメリカの街って大体1回行ったら「毎回、マックとスタバとダンキンドーナツだな」みたいな感じになって、もうどうでもいいんですよ(苦笑)。日本は少し違いますもんね。
全然違いますね。ただ、日本だけではなく、ヨーロッパの都市などもそうですし、スペインにも小さいけれど面白い街がたくさんあります。
石川光
石川

たとえば、イスラムの影響を受けているから白い家が多いとか、「ここにサフラン畑がある」というのを見ていると、街によって全然違います。特にスペインは本当に、バスクはバスクで、南はまた全然違う文化ですし、面白いですよ。カスティージャ(カスティーリャ)地方は、言葉が違うだけではなく、ちょっとしたコーヒーの味も違ってきて、そういうものを見つけるのは非常に楽しいですね。

でも、日本はやっぱり日常が面白いんですよね。いろいろな文化が降り積もってきた歴史もあるから、言語だけでもいろいろな国の言葉がごちゃごちゃになっている国って、他には知らないですね。スペインだったら、本当に「スペイン」というだけで、他の言葉が入ってくる要素はあまりないんじゃないかなと思うくらいに、スペイン語で成り立っています。

ただ、彼らも変わってきていて、今は英語がすごく通じる国になりました。本当に20年前は、美術館の前に行っても「チケット(ticket)」という英語が通じず、「エントラーダ(entrada)したい」と言わないといけなかったんです。

「私はここに来て、何をしているか分かりますか?ここ、チケット売り場でしょ」とも思いましたが、今は皆さん英語がペラペラになって変わってきているので、そういった部分でも旅行しやすくなってきています。あとは、言葉が通じやすくなる機器も普及した事もあるんでしょうね。

倉敷保雄
倉敷
それはありますね。一人で旅行しやすくなりました。Googleマップは便利ですね。
石川光
石川
スペインを旅した時もGoogleマップを使いました。だから、タクシーに乗っても騙されないですよ。「○○に行きたい」と言うと、Googleマップで最短ルートを見ていて、運転手さんもGoogleマップを見ていますから、「同じものを見ている」と分かります。
倉敷保雄
倉敷
入山章栄
入山

余分なところが透明化されて、ぼられる事も無くなったし、行きたいところにも行けるようになりましたよね。その上で、日本は「何回来ても深いぞ」という事に気付き始めています。

イメージとしては、形式的で表層上の部分が今までは壁だったけれど、デジタルの力で突破できた事で、より暗黙的な深い文化の方に気付き始めて、「日本はすごく奥深い」という事が分かってきた感じですかね。

日本は古いものが残りやすいんです。企業なども100年企業、1000年企業が多くあります。イノベーションが起きにくく、新しい企業が育ちにくい土壌もありますが、長く続くところは本当に長く続きます。

だからこそ、それだけ古い歴史があるものを「今も、ここの店主のおじさんが作っている」というところに「おおっ」と感銘を受けるんですよね。「ぜひ続けていただきたい」と外国の方から言われる事もあります。

石川光
石川
入山章栄
入山
創業1000年以上の会社が世界で最も多いのが日本なのも、やっぱりそういうところがありますよね。

私が日本に戻ってきた理由は2つありますが、1つ目は食べ物が美味しい、2つ目は安全です。外国人が来ても、言語は日本語なので英語が通じにくいですが、身柄を誰かに拉致される、殺されるなどの心配がほとんどありません。

田舎に行っても、女性が夜にどこを歩いていても、大体は大丈夫です。そんな国は、世界中を見てもほとんどありませんね。

石川光
石川