倉敷 保雄
- Yasuo Kurashiki -
フリーアナウンサー
石川 光
- Hikaru Ishikawa -
ディーパートラベル株式会社CEO
入山 章栄
- Akie Iriyama -
浜松町Innovation Culture Cafe マスター
経営学者
田ケ原 恵美
- Emi Tagahara -
浜松町Innovation Culture Cafe 見習い店員
目次
常連さんにフリーアナウンサーの倉敷保雄さんと、ディーパートラベル株式会社CEOの石川光さんを迎え、「サッカー×インバウンド」をテーマにディスカッション。サッカーとインバウンドの共通点、ビジネスに不可欠な「見抜く力」の重要性、日本の奥深さについて、経営学者・入山章栄さんが迫ります。

とても良いチームでした。大好きなチームだったので、ベスト4に進めなかったのは、どこの国でも同じ事情を抱えていますが、私たちもベスト4まで進めていたら「もっと行けたのに」と思うぐらい好きな代表でしたね。
苦しいところから逆転していくような、戦ってほしい、シュートを打ってほしい気持ちに応えてくれるところが、すごく好きな代表でした。


































でも、エネルギーの問題なのかなと思いました。日本代表はいつも、もう一つが勝ち上がれない、つまり「4試合目」に勝ち上がれない事がずっと課題になっています。グループステージが3試合あって、その上の一つが次の戦いという事です。
今大会は出場国が64か国に増えたので、決勝トーナメントはベスト32から始まって、そこで敗れてしまったわけですけど、なにしろ4試合目なんです。4試合目に戦うためのエネルギーをどう持っていくかが課題で、今回はそれを乗り越えるためにたくさん準備をしてきたけれど、結局エネルギーが足りなくて敗れてしまった。
「このメンバーがいてくれたら違う方法もできた」「このエネルギーで使う事ができた」という事はできなかった。今度はその点がやっぱり課題ですね。






































































































一番面白かったのは、ルイス・デ・ラ・フエンテ監督ですね。彼は要するに苦労人なんですよ。アスレティック・ビルバオというバスク州にあるチームの選手として、優勝もして、成功体験を持っているんですけど、コーチとしては本当にチャンスがありませんでした。
最終的に今の代表監督に上り詰めるためのきっかけは、新聞広告なんです。求人広告を見たら、スペイン代表のアンダー世代のカテゴリーが臨時のコーチを募集していたんです。


































それまで機会に恵まれず、担当したチームも上手くいかなくて、ノーチャンスだと思われていたところに、たまたま当時の監督だったイニャキ・サエス氏が友人だったので、彼に電話をして「僕を推進してくれないか」と、とりあえずアンダー世代の監督に就任したんです。
短い時間で結果を出して、続けてやってもらおうかという話になり、そこから段々とアンダー世代のカテゴリーが上がって、ルイス・エンリケ前監督から交代の時に、彼はそのチャンスを得ました。豊臣秀吉みたいな立身出世となったわけです。




































































サッカー自体もそうだったんですが、私はカルチャーの部分に注目していました。どれだけ層が厚いか、社会に浸透しているか、もっと言えば愛されているか、ファッションがあるかとか、そういうところってすごく重要なんです。私がやっているインバウンドビジネスでも、伝統工芸とかいろんな方がいますが、結局、表層だけではダメなんですね。
一時的にどこかのハイブランドとのコラボで、少し有名になっただけでは決して通用せず、本当に積み重なったレイヤーのコミュニティの中に染み込んでいる、根を張っている文化がなければ、本当に素晴らしいものがなかなか育たないのは、日々ひしひしと感じています。サッカーでも、強い国はその層がすごく厚いですね。


サポーターも含めてなんですよね。チームへの要求や褒めるところをどう褒めるかを、是々非々でしっかりと批評する。批判と批評の違いも分かっていて、「ここまではユーモアで、ここからは本当に怒っていますよ」というところを持っている。
国全体としての能力や力が、そのまま代表を仕上げていくのがスペインにはありますね。


































私は「融合」だと思っています。たとえば、フランス代表にしてもスペイン代表にしても、それぞれその前に優勝していて、フランスも1998年に初優勝した時はバラバラでした。
それが段々と、いろんな人種、いろいろなルーツを持つ人たちで構成されているフランス人が一つになっていく。スペインも都市国家としての時代がありますが、代表によって一つになっていった部分もあると思います。
元々、どこがルーツだとか、どこで生まれたとかは、W杯では関係ありません。地政学みたいなものも含めた形で、非常にエキスパンションなW杯だった事が言えると思いますね。


本当にそうだと思いますね。多種多様な文化がいろいろ入り混じっている一方で、トラディショナルなサッカーとはどういうものなのか、先ほどおっしゃられていたファンの存在がとても重要です。我々がやっているビジネスの中の伝統や文化における部分でも、ファンがいないとそもそも育ちません。
たとえば日本酒にしても、世界に向けてハイブランドで作って売る事もいいんですけど、一方で「お酒って、そもそも何であったんですか?」という部分を考えて、地域のお祭りやその土地に住んでいる人たちが「うちの街でお祭りがあったら、絶対このお酒だよね」という「LOVE」があるところが本当に強いと思っているので、サッカーと全く一緒だと感じました。


































上辺だけで作られて設計されているものと、長い年月をかけて愛されているものとで分かりますね。いろんな人が言っていると思いますが、「物語」を消費しているんですよね。
美味しいというのもありますが、その後ろにある歴史、家族の物語、作り手の話などを楽しむために旅行して、特定の文化やお酒、食文化、宗教、信仰に当てはめていくのが、とても楽しい旅行の醍醐味だと思います。


ブランド力にもいろいろあって、スペインの指導者でも今、バスク地方出身の人たちがイングランドのプレミアリーグに何人もいるような形で増えています。
ペップ・グアルディオラ氏はカタルーニャの人でしたが、他は大体がバスク出身で、アーセナルのミケル・アルテタ監督もバスク出身です。スペインのバスク地方って、財布を忘れても届けてくれるスペイン唯一の土地だと言われています。


































バスクの人たちがなぜ悪い事をしないのかというと、バスク語ってとても難しくて、悪魔がそれを読めなくて覚えられなかったから、バスク人を惑わす事ができなかったからというジョークがあるぐらいに、真面目な人たちなんです。
そのバスクがトレンドとして、今ではプレミアリーグにも進出しているし、スペインの指導者という点でもブランド力がありますね。やっぱり、プレミアのお金持ちは見抜く力があるので、彼らに依頼する形になってくるんですよね。




































































今回のW杯の膨らみ方に関して、お金とか権威を持っている人に近づく事が非常に上手だったのが、現在のFIFA(国際サッカー連盟)会長のジャンニ・インファンティーノ氏ですね。
今回は、ドナルド・トランプ大統領に近づいて、W杯の規模拡大の中でタブーを犯しながらも、ビジネスとエンターテイメントで膨れ上がるのであれば、このくらいの金額が儲けられる見通しもあったので、お金持ちはどういう人と付き合うべきか、上手くいくかというのは、割とスレスレなところもありますよね。


マスターもおっしゃっていましたが、その人たちには見抜く力があると思います。いろいろなところを見ていますし、お金も予算もたくさんあるけど、騙されるのは当然嫌ですよね。だけど、いろいろなものを知っているので、お金がかかるものに対してたくさん払うのは全く問題がなく、必要なものには何十代と続いてきたものに対するリスペクトも含めて、お支払いしてくださっています。
その人たちの世界ではいろんな人が来ますし、間違った偽物が高く売られている事を見抜く力は、いろんな投資案件やビジネスも含めて、日常的に経験していかないといけない人たちなのかもしれないですね。






































































どこまで先を考えているのか、でしょうね。つまり、1から10まで、プレーの最初から最後までがあるとして、「今は3のところだけど、彼は8や9まで考えているから、こうしたんだろうな」と分かる。やっぱり、いろいろな経験値と言いましょうか。良い監督や解説者に教えていただいた時に気付く事もあります。
私が衝撃を受けた経験では、イタリアのセリエAのサン・シーロ(インテル・ミラノ、ACミランのホームスタジアム)での実況中継で、アルベルト・ザッケローニ氏(元・サッカー日本代表監督)と城福浩氏(現・東京ヴェルディ監督)とご一緒させていただく機会があり、ある選手が何気ないプレーをした際に、ザッケローニ氏が「この後、こうなるよ」と、具体的に何を言われたかは僕も覚えていないのですが、予言したんですね。
その1分後に城福氏が「そうですね」と気付いて、私は7分後ぐらいに「これだったのか!」と気付いたんです(笑)。






































































そういう人たちの話をこれまでの事も含めて数えてみると、私は昨年、年間で200人以上の職人さんやいろいろな人たちと会っていて、お話を伺っていると「余白」というか、10分の時間でも60分や90分の能力や幅を持っている人たちなので、短い時間でどちらにカーブしようが、大体のものがこの枠に収まるわけです。
そのためには、積み重ねがあったり経験があったりするので、マニュアル化や最短でのやり方をガイドラインにすると、若い人に教えるのも簡単ですよね。


































この「余白」を学ぶ事や背中を見る事は、観察する力がついたり、イレギュラーな事が起きた時に自分で原因を探したり、改善したりするためのトレーニングになっているんです。
AからBに行くだけの反復練習ではなくて、AからZまで、いろいろな可能性がある中を日々何十年もかけて動いている人たちは、何かをパッと見た時に、先ほどの試合のように「この気候とこの湿度とこの木の感じだと、この後ここが曲がるから、ここで修正しなければいけない」と分かるんです。
親方や大将は横で見ていて、若い人たちがやっていて、そこで「おっ」と遅れて気付く事もある。我々のような素人が後から解説してもらって、「なるほど」となるようなプロの世界は当然ありますよね。


日本代表とスペイン代表が今戦ったらどうか、という話になりますが、日本代表って一つのボールを危険な位置に置かれた時に、2人がかりで行って協力する気持ちと努力する気持ちを持っています。でも、それは2人で成し得る事です。
一方、スペイン代表って、それが起こった時に1人で1.5人から1.7人分できるんですね。だから2人はいらないんですよ。2人いなくてもできてしまう、その差です。ボールを持った時(保持)、持っていない時(非保持)にそれぞれの仕事があるわけです。
実際の仕事で言うと、たとえば寿司を握っている時、握っていない時とで保持と非保持があって、非保持の時に何をしているか、保持しなければいけない時に一瞬で何ができるかの差が「スキル」なんですね。


































石川さんの場合、これからAIが出てくるじゃないですか。AIによって人間の能力がもっと上がっていったり、素人でもいろいろな事ができるようになったりする話が、伝統工芸などでもよく言われますよね。
倉敷さんのお話を聞いてみると、そんな簡単な話でもない事なのでしょうか?









































矛盾するような話にはなってしまいますが、ストーリーは誰しも持っているんですよ。それをどう語るか、どういう風に表現するのか、どういう角度で見るのか、どう評価するのかはとても重要です。
本当はストーリーがあるのに、それを無視して表面的な形や形状、一時的なものだけを前面に持ってくるのか。その後ろにある面白いところを、しっかり背景として持ってきてあげる事ができているのか。それがマーケティングとして形になっている方もいらっしゃれば、体から滲み出ている方もいらっしゃいますし、自分でお話しできる方もいらっしゃいます。
我々の会社では、そこをできるだけ抽出して、僭越ながら言葉にして、海外の方に伝わりやすい形に咀嚼しやすいよう少しアレンジするとか、見せ方を選んであげる事には努力したいと思っています。





インターナショナルだからといって、そこまで違いはないですが、やっぱり日本で生まれて育って、こういう文化の中で育った人たちの当たり前と、パンを食べてきた人、オリーブオイルでご飯を食べてきた人たちのベースは、やはり少し違います。
このお客さんにとっては、「この文化はこういう事なんじゃないか」という形で少し翻訳してあげる事によって、「なるほど、スペインのこの料理の話と一緒なんだね。お母さんが作って、これは家庭の料理だよね」と、すぐに理解できる。
だから、「ミシュランスターのところに行くのもいいけど、それぞれの家のおいしさがあるんだね」と、すぐに「お袋の味」のようなものが分かったりする。それは咀嚼してもらうための説明の仕方なのかなと思います。


































そういう意味で少しお伺いしたいのは、メディアの役割をどうお考えでしょうか?メディアって結構難しいじゃないですか。深いところを伝え切れるものばかりではないですよね。
倉敷さんご自身がメディアとして関わられていて、この辺の面白さと難しさって、どういう風にお考えですか?
SNSの時代になって、とても難しくなったと思います。オールドメディア、ニューメディアという言い方についてはいろいろ話したい事もありますが、動画で見ないと分からない人が増えたのは実感としてあります。テキストで書いて同じ事が書いてあっても、読んでもらえない。でも、動画で誰かが話したり、目で見たり耳で聞いたりする事によって、今の人たちは理解する形が多いです。
その中で、深いものやストーリー性をどうやって紹介したらいいのかは、難しいと思います。今回のW杯で目に見えて分かりやすかったのは、賛否両論ありますが、ハーフタイムショーがあった事ですね。たとえば、クリスティアーノ・ロナウド(ポルトガル代表)に関しても、本当はサスペンション(出場停止処分)で出場できない試合があったはずなのに、今回は特別に出場できるようになりました。
エンタメの材料として揃った方が良いだろうと、ビジネスを拡大させるために用意し、どういう風に伝えたかというと、やっぱりSNSなどでは「なぜ出場できるのか」ではなくて、「出場できる事」が先に来たんですよ。
これを私たちはどう伝えたらいいのか。「ネガティブな事は言わないでくれ」と言うファンもいるので、今の時代は少し難しいですね。








































































































































何を目的にするかだと思いますね。あくまでたくさんの人に伝えるとなると、どうしても情報が希薄化してしまったり、尖っているところがなくなってしまったりして、皆さんに楽しんでいただけるものを選ばなければいけません。
ただ、「メディア」という言葉で言うと、ニッチなメディアもあるので、我々も自分たちのホームページの中に「ジャーナル」というセクションを持っていて、現代と過去、いろいろなテーマについて、英語のライターたちや弊社の編集部が文章を書いています。
たとえば、昔の芸者と日本社会への進出における女性の立ち位置についてなど、社会学のようなものを書いているのですが、そういう方に向けたニッチなメディアを作りたいんです。全員が楽しんでくれなくてもいいと思っています。




































円安をはじめ、いろいろな理由がありますが、そもそも外国人観光客の数がどんどん増えていますよね。安倍晋三氏が総理大臣の頃に、4000万人を目指す話をしていて、「そんなにいくの?」という感じだったのが、今は余裕で超える勢いです。
いろいろな影響が出てきていて、もちろんオーバーツーリズムなどもありますが、いわゆるゴールデンルートの東京、京都、大阪、広島、福岡といったところから分散して、地方都市にじわじわと人が行くようになっているのが顕著に見られてきているのではないかなと思います。
今後はそのスピードも上がっていくので、さらに楽しんでいただけるのではないでしょうか。






































それも当然あると思うのですが、リピーターになっているところもありますね。旅行のビジネスをやっていると、お客さんのアクイジションコスト(顧客獲得単価)が話題に挙がってくる際に、「日本に何回その人が来るのか」という話があり、通常の旅行業界では「そこまで何回も来ないよね」といった前提があります。
だから、1回の旅行でいかにお金を使っていただくか、1回訪れた人たちをどれだけ横に広げてキャッチするか、という話になってくるのですが、日本は比較的、リピートする人たちが多いように感じます。






































































たとえば、イスラムの影響を受けているから白い家が多いとか、「ここにサフラン畑がある」というのを見ていると、街によって全然違います。特にスペインは本当に、バスクはバスクで、南はまた全然違う文化ですし、面白いですよ。カスティージャ(カスティーリャ)地方は、言葉が違うだけではなく、ちょっとしたコーヒーの味も違ってきて、そういうものを見つけるのは非常に楽しいですね。
でも、日本はやっぱり日常が面白いんですよね。いろいろな文化が降り積もってきた歴史もあるから、言語だけでもいろいろな国の言葉がごちゃごちゃになっている国って、他には知らないですね。スペインだったら、本当に「スペイン」というだけで、他の言葉が入ってくる要素はあまりないんじゃないかなと思うくらいに、スペイン語で成り立っています。
ただ、彼らも変わってきていて、今は英語がすごく通じる国になりました。本当に20年前は、美術館の前に行っても「チケット(ticket)」という英語が通じず、「エントラーダ(entrada)したい」と言わないといけなかったんです。
「私はここに来て、何をしているか分かりますか?ここ、チケット売り場でしょ」とも思いましたが、今は皆さん英語がペラペラになって変わってきているので、そういった部分でも旅行しやすくなってきています。あとは、言葉が通じやすくなる機器も普及した事もあるんでしょうね。






































余分なところが透明化されて、ぼられる事も無くなったし、行きたいところにも行けるようになりましたよね。その上で、日本は「何回来ても深いぞ」という事に気付き始めています。
イメージとしては、形式的で表層上の部分が今までは壁だったけれど、デジタルの力で突破できた事で、より暗黙的な深い文化の方に気付き始めて、「日本はすごく奥深い」という事が分かってきた感じですかね。
日本は古いものが残りやすいんです。企業なども100年企業、1000年企業が多くあります。イノベーションが起きにくく、新しい企業が育ちにくい土壌もありますが、長く続くところは本当に長く続きます。
だからこそ、それだけ古い歴史があるものを「今も、ここの店主のおじさんが作っている」というところに「おおっ」と感銘を受けるんですよね。「ぜひ続けていただきたい」と外国の方から言われる事もあります。


































私が日本に戻ってきた理由は2つありますが、1つ目は食べ物が美味しい、2つ目は安全です。外国人が来ても、言語は日本語なので英語が通じにくいですが、身柄を誰かに拉致される、殺されるなどの心配がほとんどありません。
田舎に行っても、女性が夜にどこを歩いていても、大体は大丈夫です。そんな国は、世界中を見てもほとんどありませんね。

