「知と知のかけあわせ、それはすなわち雑談です」 早稲田大学ビジネススクール教授・入山章栄氏は断言する。イノベーションは、意図的に起こそうとしても起きるものではない。どうすれば組織に創造性が生まれるのか。移動距離と発想力の関係、そしてチーフ・ぶらぶら・オフィサーという新しい役割まで、実践的な知のかけあわせ論について伺った。
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結局のところ、知を持ってるのは人です。もちろんAIやいろんなデジタル情報も知を持つと言えますが、結局それを良いと思ったり組みあわせたりするのは全て人です。
だからこそ、知と知をかけあわせる行為そのものを定義するとしたら、僕は「雑談」だと答えます。
知は、かけあわせようと思ってかけあわせられるものではありません。
イノベーションにも同じことが言えます。イノベーションを起こしようと思ってイノベーションを起こしてる会社は一社もないんです。「今日はイノベーションだ!」と張り切ったところでイノベーションは起きません。そうではなく、楽しく話していればいいんです。
ある日、「ちょっと待って、今の話って僕のこれと一緒だ。組みあわせたら面白いね!」という話になる。結局やってることは居酒屋で同じ部署の人と飲んでるのと変わらないですよ。ただ、それでは翌日忘れてしまいやすいですし、結局近しい人が喋っていれば「離れた知」の組みあわせにならない。離れた人同士が雑談できる場を、意図的に作ることが大切なんです。

浜松町Innovation Culture Cafe(以下、浜カフェ)は、まさにそういう実験装置だと思っています。普通だったら出会わない人が来てくれて、しかも全く別の領域の人と対話する。例えば、マニピュレーターと建築家が雑談する中で何かが起きる。その二人が普通に出会って「居酒屋で飲みましょう」とはならないじゃないですか。
ゴーゴーカレーの宮森前代表は「発想力は移動距離に比例する」とおっしゃっていて、僕の好きな言葉でもあるのですが、とにかく人が動いて、今まで会ったことない人に会うことがすごく重要なんですよね。移動をする人は、これからますます強くなると思いますし、逆に言えば、もし自分が移動しないなら移動してきてもらうことが大切です。
浜カフェは、ラジオというコミュニティが人を呼び寄せる力を使って、出会いを意図的に生んでいる。ここに価値があるんです。「ラジオに出てみたい」っていう方もいらっしゃるので、こういう場所に来てもらえばいい。このような吸引力のある場所を生み出していくことが、これからますます重要になっていくだろうと思います。

世の中でヒットしているもの、流行っているものを分解してみると、そのほとんどが何かと何かをかけあわせています。一番有名なのはトヨタの生産方式ですね。米国のスーパーマーケットで「顧客が欲しい商品を欲しい分だけ持ち帰り、空いた棚に必要な分だけ在庫が補充される仕組み」を見て、自動車の生産現場の効率化に応用された経緯があるとされています。まさに、自動車とスーパーマーケットという離れた知の組みあわせだといえます。

僕が書いた書籍「世界標準の経営理論」も、さまざまな経営理論をかき集めて組みあわせたものを、日本のビジネスに当てはめました。いろいろな経営理論はあったけども、それを組みあわせてまとめた人がいないんですよ。さらに言うと、そのまとめたものを日本の会社に応用したのは僕だけでした。
過去に出版した3冊とも同様です。僕がやってることは本当に大したことなくて、オリジナルに見えているだけとも言えるんです。

組織において知と知をかけあわせるために何が必要になるのか。それは多様性です。なるべくバラバラな特性を持つ人が集まるということ。たとえばラジオ局であれば、ラジオの専門家はほとんどいない方が良いとも言えます。
なぜなら「ラジオは、かくあるべし」と、同じことしか考えてない人が集団になってもメリットは少ない。コンピュータに詳しい人、エンジニアリングがわかる人、男性、女性、外国人……と、組織は意図的に多様性を作るべきだと考えます。
多様性が大事なのは、イノベーションが起きなくなるということに加えて、常識がアップデートできなくなるためです。常識は幻想なので変化します。それなのに同質性が高いと気付けない。だから、可能な限り多様な環境にいないとアップデートが難しくなります。

ディープテック企業の文脈で言えば、研究シーズと事業シーズのかけあわせが重要になります。これを両輪で回せる企業に何が必要とされるのが、マーケティングとR&D(Research and Development)の垣根がないということ。「こういうマーケットの市場がある」という話と「こういう技術がある」という話の組みあわせが、円滑におこなわれるのがポイントになります。
私の書籍にも書きましたが、IBMのケースを例にすると、アメリカ、ヨーロッパ、日本と3つの拠点があった当時、一番に成功したのがアメリカでした。その背景には「ぶらぶらおじさん」の存在が挙げられます。

ぶらぶらおじさんはマーケティング側からR&Dのへ行くと、声かけをしながら技術側の課題を聞いたりマーケティング側の状況を共有します。そして聞いた話を今度はマーケティング側に持ち帰り、「R&Dの方の人たちは最近こういうのを開発してるみたい」などの情報を連携する役を担います。意図的に情報のブローカーを担うポジションですね。
ある経営者にこんな話をしてみると、「それ要するに、チーフ・ぶらぶら・オフィサーを作ればいいってことですね」って言われて。CBO、最高ですよね。
海外の会社だと、尊敬されてて好かれる社長候補だなと思われるような人が担うんです。みんな情報を出したくないじゃないですか。だから社内で尊敬されてる人じゃないと。教えてもらえないですよね。
どんなに優秀だって、嫌なやつには教えたくないじゃないですか。これからAIの台頭によって、情報はますますコモディティ化していきます。そんな時代に大切なのは、誰にも手に入れられない、絶対AIに出てこない「ここだけの話」っていうやつなんです。でもそれって信頼感がないと絶対伝えないですよね。これからは、嫌なやつはもう生き残れないのかもしれません。