「技術が前に進むと、人間が本質的に戻っていく」 入山章栄氏が語る、AI時代の人間論。AIがかつての古代ギリシャにおける奴隷のように働く社会で、人間は何をすべきなのか。トランザクティブメモリー、そして古代ギリシャに学ぶべき理由や、2026年に注目するべき三大欲求とビジネスとの関わりについて伺った。
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「何を知ってるか」よりも「誰が何を知ってるか」っていうことが大事なんですよ。これを「トランザクティブ・メモリー・システム」といいます。
例えば、ラジオのことがわからなかったら◯◯さんに聞けばいいとか、スタートアップ企業のPRのことがわからなかったら、◯◯さんに聞けばいいと知っている。その価値が大きいということなんです。
トランザクティブ・メモリー・システムが組織全体に浸透していることが大事なのですが、最近ではそれ自体も、「誰が何を知っているか全員が覚えるのは大変だから、その動きを専業でやる人がいるといい」という研究結果が出てきています。たとえば、プロデューサーもそういう業務だと思います。

プロデューサーの中には好奇心が強く、積極的に社外へ出向いてはさまざまな事業に関わりを持とうとする方もいますが、僕はそれをすごく良いなと感じています。
反対に社内のことしか知らない人もいますが、プロデューサーに限らず、意図的に組織の中にトランザクティブメモリーの担当者を置く。理想はその人には組織の外にも出ていった方が良いんです。だからこそ、チーフ・ぶらぶら・オフィサーのような存在が重宝されるんですね。
「好奇心」と「人間力」。2026年はそれを磨いていくっていうことが、ビジネスパーソンのキーワードになるんじゃないかなと勝手に考えています。

尊敬している先生とお話したことがきっかけで、僕はこれから古代ギリシャを研究しようと思っています。古代ギリシャは、多くの奴隷がいた社会でした。面倒なことは奴隷にさせて、特権的な自由市民は恵まれた「暇」な時間を持っていたんです。
だからこそ生まれたのがギリシャ哲学です。「我々はなぜ生きているのだろうか」といった問いは、必死でお金を稼ぐために毎日生きていたら考えられないでしょう。なぜアリストテレスはあんなにすごいのか、その答えは「暇だったから」とも言えるかもしれませんね。
もちろんこれからの時代、かつての奴隷のような仕組みは無理ですが、AIは我々にとって奴隷のような存在に近いですよね。ということは、明らかに我々はこれから古代ギリシャに向かっていく。古代ギリシャでヒットし、成功した人として哲学者やオリンピアン、芸術家が想起されますが、そういった人たちが価値を出す時代が訪れるでしょう。だからこそ、いま学ぶべきは古代ギリシャだと考えています。

これまでの人類って常に制約がありましたよね。昔は奴隷だったし、その後も士農工商みたいな時代があって、やりたくないけどやっていた。人間的な仕事ができなかったんです。
でも、少しずつ技術が発展していくごとに、やりたくない仕事を機械に任せるようになっていきます。結局のところ、やれない仕事はやりたくない仕事じゃないですか。
そう考えると、少しずつ人間は解放されてきているので、本質的に楽しいことができると、どんどん人間らしくなれますし、組織においても本質的な役割が必要という流れになっていきますよね。技術が前進していくほど人間が本来あるべき姿に戻っていくような、これから訪れるのはそういう時代なのだろうと思います。

だからこそ僕は、三大欲求に関連したビジネスはもっとトレンドとして加速していくと思います。食欲はもちろん、睡眠関連のテクノロジーも始まっているじゃないですか。だから次はきっと性欲なんですよ。
現在もすでにセックステックの市場規模は大きくなってきていますが、おそらくもっと伸びるのではないかと考えています。バーチャルリアリティへの進出なども始まっていますよね。人の欲求は生きている以上は変わらないですし、2026年はさらに注目していきたいと思っています。