2026.04.07

異世界対談

【後編】森と街の多様性とサステナビリティ

【後編】森と街の多様性とサステナビリティ

深田 昌則

深田 昌則

- Masanori Fukata -

カーマインワークス合同会社 代表

1989年、松下電器産業に入社。AV機器の海外マーケティング、オリンピックプロジェクト・リーダー、パナソニック・カナダ市販責任者などを経て2016年より、未来のカデンをカタチにするパナソニック・アプライアンス社の活動「GameChangerCatapult」をスタート。2021年より、パナソニックを退社され合同会社カーマインワークスの立ち上げや、SUNDRED株式会社に参画、2023年より Future Food InstituteのJapan Local Executiveに就任するなど多方面で活躍。
水谷 伸吉

水谷 伸吉

- Shinkichi Mizutani -

一般社団法人 more trees 事務局長

大学卒業後、株式会社クボタに入社し、環境プラント部門に従事。2003年にNPO団体に転職し、インドネシアで
熱帯雨林の再生に取り組む。2007年、坂本龍一さんの呼びかけによる森林保全団体「more trees」の立ち上げに伴い、活動に参画。以来、事務局長として日本各地での森づくり、国産材プロダクトのプロデュース、熱帯雨林の再生、カーボン・オフセットなど多彩な活動を手掛けている。
入山 章栄

入山 章栄

- Akie Iriyama -

浜松町Innovation Culture Cafe マスター
経営学者

慶應義塾大学経済学部卒業、三菱総合研究所で主に自動車メーカーや国内外政府機関へのコンサルティング業務に従事した後、2008年に米ピッツバーグ大学経営大学院よりPh.D.を取得。同年より米ニューヨーク州立大学バッファロー校ビジネススクール助教授。
2019年より早稲田大学ビジネススクール教授。
テレビ東京『ワールドビジネスサテライト』のコメンテーターを務めるなど、TV出演も多数。
田ケ原 恵美

田ケ原 恵美

- Emi Tagahara -

浜松町Innovation Culture Cafe 見習い店員

1994年生まれ、滋賀県出身。大学在学中、学内で開催されたミスコンテストで準グランプリを受賞。
SNSのマーケティングスキルを活かしタレント・インフルエンサーとして活動を開始。卒業後はITベンチャーで広報部の立ち上げを担当。自社PRだけでなく、業界啓蒙やファンベースを生かした広報活動を経験。松竹芸能所属。

カーマインワークス合同会社代表の深田昌則さんと、一般社団法人more trees事務局長・水谷伸吉さんを迎え、「森と街の多様性とサステナビリティ」をテーマにディスカッション。事業開発や地方創生などに数多くのプロジェクトに携わってきた深田さんと、日本各地での森づくりや熱帯雨林の再生に取り組む水谷さんに、経営学者・入山章栄さんが迫ります。

東京は「自然に近い大都会」 身近な自然が支える都市文化

たがえみ
たがえみ
これまで森の資源は街に還元されてきたと思うのですが、逆に街から森へ還元していく方法は、他にどのようなものがありますか?
国の制度としては「森林環境税」があります。現在、一人あたり年間1,000円程度が課税されていて、税収を森林面積や林業従事者の人口比率などに応じて配分する仕組みです。どちらかというと、山側に厚く配分される制度で、横浜市の「水源税」に近いと思います。
深田昌則
深田
これはとても重要な考え方で、森と街は別のものではなく、本来は一体である事を理解するのが大切です。最近では「流域」という考え方もあり、川の上流が荒れると下流に影響が出て、最終的には海にも影響が及びます。

たとえば東京都では、多摩川や利根川の上流域を管理しています。江戸時代から水源管理を行ってきた歴史がありますが、現在東京で暮らす人たちがその事をどれだけ意識しているかというと、あまり認識されていないのが実情です。

水谷伸吉
水谷
渇水などで水不足になると、初めて上流の存在に意識が向く事はありますね。
深田昌則
深田
入山章栄
入山
京都と滋賀の方が分かり合っていて、「琵琶湖の水止めたろか」ってよく言いますよね(笑)。
たがえみ
たがえみ
確かに東京ではあまり意識した事が無かったです。
先日、東京建物株式会社の若手社員と奥多摩に行く機会がありました。研修の一環で自然の中で過ごしながら「水や風はどこから来ているのか」を考える内容でした。川に入ったり自然の中で過ごしたりする中で、普段は都会で働いている若手社員が「自然って大事だよね」と実感し、「毎日飲んでいる水がどこから来ているのかを考えるようになった」と言っていました。

この経験から感じるのは、東京は実は自然と街がとても近い場所なんです。ロンドンやパリのように周囲に山が無い都市とは異なり、多摩や利根川といった水源が身近にあり、都市と自然が一体となって存在している面白さがあります。

深田昌則
深田
入山章栄
入山
東京は「自然に近い大都会」なんですね。
檜原村や奥多摩も東京都ですからね。中央線で30分も移動すれば山にも行けます。
水谷伸吉
水谷
たとえば、お寿司や野菜の美味しさも、こうした自然環境の中で生まれています。
深田昌則
深田
江戸前寿司も、利根川や多摩川の豊かさがあってこそ成り立っている文化ですよね。
水谷伸吉
水谷
入山章栄
入山
東京に住んでいる私たち自身が、そうした繋がりをあまり意識していないのかもしれません。もっと意識して街のあり方を考える必要がありそうですね。
上流に行って森や木が荒れていると感じた時に、「なぜ起きたのか?」と考える事が大切だと思います。
深田昌則
深田

都会の中の森づくり 自然に学ぶ都市デザイン

入山章栄
入山
浜松町でも高層ビルが次々と建てられていますよね。こうした都市空間に、森や川といった自然を意識させたり、一体化させたりするために、もし水谷さんがデベロッパーだったらどんな事を考えますか?
まずは、緑地面積を増やす事でエリアの資産価値が上がる風潮を作りたいですね。入居率も上がって、働く人たちのQOLも上がって、結果として「緑を増やそう」といった好循環が生まれるはずです。
水谷伸吉
水谷
入山章栄
入山
緑地を増やそうとする取り組みはあまり多くないですよね。
東京建物さんは「大手町の森」を手掛けています。杉だけを植えるのでも、単なる庭園を作るのでもなく、そのエリアに適した樹種を調べ、できるだけ自然に近い形で再現しているのが特徴です。
水谷伸吉
水谷
入山章栄
入山
あの場所は印象的ですよね。かなり思い切った取り組みだと思います。
人工的に整えた庭というよりも、自然に任せながら育てていく発想ですね。
深田昌則
深田
入山章栄
入山
屋上庭園やビルに緑を取り入れる動きも世界的に広がっていますが、水谷さんはこうした取り組みをどのように見ていますか?
とても良い流れだと思います。実際、東急不動産は渋谷エリアで、ビルの中層部に植栽を設けたり、巣箱を設置したりしています。明治神宮と新宿御苑の中間に位置する事もあり、鳥の中継地点として機能している事例もあります。
水谷伸吉
水谷
入山章栄
入山
この前、『浜カフェ』の常連で株式会社イノカの高倉葉太さんと、オングリッドホールディングス株式会社の森川春菜さんに来ていただきました。森川さんは建設現場の維持・管理の専門家で、高倉さんはサンゴを通じた自然環境の維持・管理の専門家なんですよね。

「維持・管理」をテーマに話をしたのですが、2人の結論は『天空の城ラピュタ』のように、人工物と自然が融合した世界観がこれから重要になる、という点でした。

とても良い考え方だと思います。ヨーロッパでも「近自然化」という考え方が広がっていて、三面護岸で直線化された河川をあえて一度壊し、蛇行した自然に近い姿へ戻す取り組みが進んでいます。そういった意味でも『ラピュタ』の発想は良いと思います。
水谷伸吉
水谷

森と都市を結ぶ”バーチャル森”構想

入山章栄
入山
日本は国土の約68%が森林で、OECD加盟国の中でも3位と非常に森林面積の多い国です。さらに海に囲まれた海洋国家でもあります。
深田さんが「東京は自然に囲まれている」とおっしゃっていましたが、日本全体を見ても、非常に豊かな自然環境にあると言えますよね。

日本におけるサステナビリティについて、どのような課題や可能性を感じていますか?

サステナビリティ以前に、ダイバーシティの観点から言えば、杉に偏った山林をもう少しバランスの取れた状態にしていく必要があると思います。

もう一つは、林業そのもののサステナビリティです。杉を持続的に生産し、都市部でしっかり活用していく。最近では、住宅だけでなくビルにも木材を使う動きが出てきています。

水谷伸吉
水谷
入山章栄
入山
隈研吾さんの建築などは、まさにそうした取り組みですね。
住宅に限らず、ビルなどにも木材が使われる事で、山と街が林業を通じて繋がっていくのは大事だと思います。
水谷伸吉
水谷
入山章栄
入山
木材価格も適正に上がって、林業に従事する方々の生活も成り立つようになりますね。
現状では木材の需要、いわゆる”出口”に閉塞感があるのが課題です。
水谷伸吉
水谷
入山章栄
入山
住宅用木材は、現在ほとんどが輸入材ですよね。
円安や物価高の影響もあって、国産材の優位性が見直されてきています。ただ、日本では人口減少が進んでいるため、住宅の着工件数だけを見ると、新築の需要に大きな伸びを期待するのは難しい状況です。

一方で、都内や横浜などでは木造の高層ビルが少しずつ増えていて、日本橋などでも事例が出てきています。

水谷伸吉
水谷
入山章栄
入山
最近では木造でもビルが建てられるようになってきていますよね。
技術的にも既に確立されていて、木材を使って都会の森を作る発想も十分に可能だと思います。
水谷伸吉
水谷
入山章栄
入山
木のビルそのものが森のような役割を果たすわけですね。
いわば”バーチャルな森”ですね。木材は炭素を固定し、CO₂を蓄積する性質があるため、環境にも優しい素材です。伐採した木をビルとして長く使い続ける事で、建物そのものが炭素の貯蔵庫として機能するとも言えます。
水谷伸吉
水谷
大学の研究者は、どうしても大学や学術の中で研究が完結しがちで、ビジネスパーソンへ十分に共有されなかったり、議論が広がりにくかったりする側面があります。

自然環境を守る上では、テクノロジーをどこまで取り入れられるか、スタートアップを始めとした多様な人たちが集まり、「リビングラボ」のような活発に議論できる場があると良いですよね。

深田昌則
深田
入山章栄
入山
リビングラボは、みんなでワイワイと議論しながら進めていく場だからこそ、さまざまな事を考えるのに向いていますよね。

自然体験が育む次世代の都市生活

たがえみ
たがえみ
人と自然が共生していく上で、そのバランスをどう見極めるべきなのか、お2人はどのようにお考えですか?
個人的には、自然と都市はもっとボーダーレスになっていいと思っています。分断するのではなく、シームレスに繋がっている状態が理想です。
水谷伸吉
水谷
入山章栄
入山
「7割が街、3割が自然」といった分け方ではなく、という事ですね。
「ここは人間の居住区です」「ここは動物のエリアです」と明確に分けるのではなく、もっと緩やかな関係でいいと思います。都会にも森があってもいいですし、人間はもっと山に入っていっていいと思います。
水谷伸吉
水谷
農業で言えば、これまでは地方で生産して都市で消費する構図が一般的でした。最近は「アーバンファーミング」のように、都市で食べ物を作る動きも出てきています。
深田昌則
深田
入山章栄
入山
都市農業ですね。
ビルの中で食べ物を生産する取り組みも増えていますし、イチゴなどもニューヨークでスタートアップ企業が生産している事例もあります。都会と地方の役割も、少しずつ緩やかに繋がる事が多いですし、単に効率良く食べ物を消費するだけではない街が生まれていくと思います。
深田昌則
深田
入山章栄
入山
街が森に近づくだけでなく、人間が森に溶け込むような関わり方も重要だと思いますが、水谷さんと深田さんはどのようにお考えですか?
奥山まで行く必要は無いと思いますが、里山であればテレワークも可能ですし、企業の拠点移転やビジネスパーソンの移住も十分に考えられると思います。データセンターが建てられても良いかもしれません。
水谷伸吉
水谷
最近は、若い人たちが週末に地方へ出かけて活動するケースも増えています。実際に、東京のある企業が本社を能登へ移転した事例もあります。
深田昌則
深田
入山章栄
入山
本社を能登に移したんですか?社員の方々も能登へ移住されたのでしょうか?
「能登へ行ってもいい」と言った人が多かったのもありますし、そうした人たちが実際に行き来する事でアイデアの交流が生まれ、地方の方々も考え方が開かれるといった変化が起きています。

大学生2人を連れて再び能登へ行くのですが、彼らは「自分たちで食べ物を作りたい」「現代的な農業に挑戦したい」と話していました。

深田昌則
深田
入山章栄
入山
今はパソコン一つでどこでも働ける時代ですからね。
私は、前職の時からリモートワーク制度が正式に整う前に現地で仕事をしていましたし、問題なく業務をこなせました。
深田昌則
深田
入山章栄
入山
この前の『浜カフェ』は島根県雲南市で収録しました。僕自身も里山のような場所が好きで、子どもたちにとっても、自然の中で体験する事はとても大切だと思います。
今はデジタルで情報を得られますが、生身の体験は重要ですよね。
水谷伸吉
水谷
先ほどの川に飛び込んだ話だと、上流に向かって歩くと川は汚れますが、下流に向かって歩くと、その汚れが水によって浄化されていきます。川はそういう性質を持っている事を実際に体験するだけでも、全く理解が変わりますね。
深田昌則
深田
たがえみ
たがえみ
自然の中で暮らす事の方が贅沢で素敵だと感じますが、まだ少し距離がある気がします。その距離が縮まるといいですよね。