2026.03.31

入山章栄と読み解くビジネス インタビュー

知の探索に資する組織文化への転換に求められる3つの変容

知の探索に資する組織文化への転換に求められる3つの変容

「日本の会社は組織文化を戦略的に作らない。でも知の探索が重要なら、知の探索に資する組織文化を意図的に作る必要がある」 AI時代において、日本企業が今まで積み上げてきた強みを活かしながら「知の探索」にシフトするには、何を変えなければならないのか。組織文化の設計やプライベートAIの構築まで、会社の未来を左右する具体的な判断軸について伺った。

知の探索を加速させる「経営者」「組織文化」「人(メンバー)」の変容

入山章栄

日本企業が今までの強みを生かしながら、より質の高い探索にシフトしていくには、大きく3つのレベルで変革が必要です。 今まで積み上げてきた知の深化(既存事業の磨き上げ)の強みは活かしつつ、AI時代に求められる知の探索へのシフトをどう実現するか。このレベルを上から順番に整えていくことで初めて、AIを活かした組織への転換が実現できます。

1つ目は経営者です。経営の仕事の本質は知の探索になるはずです。その探索を推進できる人材をトップに据えられるかが問われます。上場企業であれば誰が社外取締役を務めているかもまた、重要な指標になります。すべての起点は探索ができる経営者をトップに置けるかどうかにあります。

2つ目は組織文化。知の探索に資する文化を、意図的に設計できているかどうか。 3つ目は人の変容。知の進化型の仕事は全部AIがやってくれるため、人は探索かリアルか、どちらかにシフトしなければなりません。

重要なのは、この3つを順番に整えていくことです。経営者が変わらなければ組織文化は変わらず、組織文化が変わらなければ人の変容も促せない。この経営者・組織文化・人の変容という3点が整って初めて、AIを活かした組織への転換が実現できます。

日本企業に欠けているのは組織文化を戦略的に作る発想

入山章栄

よくメディアでもお話するのですが、日本の会社は組織文化を戦略的に作らないんです。でも知の探索が重要なのであれば、知の探索に資する組織文化を意図的に作る必要があります。これからの日本企業には、その覚悟が求められています。

経営者が知の探索を推進する方向性を打ち出すなら、組織文化もそれに合わせて設計し直す必要があります。知の探索に資する文化かどうかを基準に、意図的に文化を設計し直す。この発想の転換が大切です。

「組織文化は結果として育まれるもの」という受け身の姿勢から脱して、「意図的に作るもの」という能動的な発想に転換できるかどうか。日本の多くの会社に欠けているのは、その発想そのものです。

会社の未来は「誰が社外取締役を務めているか」で決まる

入山章栄

上場企業において経営者を刷新するための構造的な鍵は、社外取締役の存在です。 私が企業からのご依頼をいただく際、まず何を確認するかというと、ホームページに掲載されている役員の一覧のチェックです。

なぜなら、結局のところ「この社長では組織変革が進まない」と判断して、実際に動ける社外取締役がいるかどうかが、会社の未来を左右するからです。逆に言えば、そういうことができそうもない人物が並んでいる会社は機能しにくいと言えます。

これは僕が社外取締役をいくつか務めているので、ポジショントークみたいなところもあるかもしれません。でも誰がトップで、どういう人を社外取締役にしているか。そのメンバー構成を見れば、その会社がどこへ向かおうとしているかが透けて見える。役員一覧を見れば会社の未来がだいたいわかる、と言っても過言ではないと思っています。

全社のデータをAI化したプライベートAIから生まれる競争優位

入山章栄

ほとんどの会社の情報はAIで活用されていないと言えます。ChatGPTやGeminiのようなパブリックAIは、誰でも閲覧できるインターネット上の情報を学習しています。だからパブリックAIをいくら使いこなしても、それだけで競争優位にはなりません。 本当に重要なのは、プライベートAIです。自社が持つ固有のデータを学習させた、他社には絶対に真似できないAIを構築できるかどうか。

会社の中には、眠っているデータが大量にあります。過去のデータ、オンプレのサーバーに積み上がったよくわからないPDFファイル。そういうものをAI化していくと、他者に取られない部分なので、初めて差別化になり、競争優位が生まれます。

さらに、クラウド上にプライベートAI用の独立したスペースを設け、情報が外に流出しない設計にすることが不可欠です。大事なのは、これを「担当チームだけの仕事」にしないこと。専任チームを作りつつも、組織全体でデータを積み上げていく体制を整えることが重要です。

自分たちだけの差別化できるAIを育てて、AI化しきれないリアルをいかに融合させるか。それが、これからの組織競争の本質だと私は見ています。

人を「探索」と「リアル」に振り分ける組織設計

入山章栄

知の深化型の仕事は全部AIがやってくれるようになるため、人は「知の探索」か「リアルな現場」か、どちらかの役割に振り分けていく必要があります。探索の上流を担うのか、AIでは代替できない下流のリアルを担うのか。これからの組織設計の大きな軸は、ここにあります。

どちらをやるにしても、人が相当変容しないといけません。探索側に行くにも、リアル側で価値を出し続けるにも、今までの仕事のやり方のままでは対応できない。組織として、誰を探索の上流に据え、誰をリアルな現場に配置するかを、意図的に設計し直すことが求められます。

そしてここで重要になるのが、前述した経営者と組織文化の役割です。人の変容は個人の問題ではなく、組織の設計の問題です。経営者が方向性を示し、組織文化がそれを後押しして初めて、個人の変容が促されるのです。

それができるかどうか。この問いに正面から向き合えるかどうかが、AI時代の組織として本当の意味で機能するかどうかの分かれ目になると思っています。