2026.08.24

地域発フードテック最前線 アカデミック記事

食の未来は、どこで生まれるのか。 研究・地域・ビジネスを横断する2日間「TSURUOKA FOOD FUTURES EXPEDITION」

食の未来は、どこで生まれるのか。 研究・地域・ビジネスを横断する2日間「TSURUOKA FOOD FUTURES EXPEDITION」

「食の未来」と聞いて、何を思い浮かべるだろう。

AIによる栄養管理、代替タンパク質、培養技術、フードテック。いま、食をめぐるイノベーションは、テクノロジーの進化とともに大きく変わろうとしている。

一方で、日本の食を取り巻く課題は、研究室の中だけでは解決できない。食料を安定して確保すること。健康を支える食をつくること。農業や地域の産業を次の世代につないでいくこと。土や水、森林といった食の背景にある環境を守ること。どれも、それぞれが独立した問題ではない。

では、食の未来を考えるとき、科学や技術だけでなく、地域に残る食文化や自然、そこで働く人たちの知恵まで一緒に見てみたらどうなるのか。

その問いを、実際に鶴岡のまちを歩きながら考える2日間がある。2026年10月1日、2日に山形県鶴岡市で開催される「TSURUOKA FOOD FUTURES EXPEDITION」だ。

株式会社SIGNINGが主催し、文化放送「浜松町Innovation Culture Cafe」・「INNOVATIA」も企画に関わるこのプログラムでは、研究者、起業家、料理人、農業や森林の実践者らを訪ねる。研究施設を見学し、田んぼへ足を運び、料理を味わい、食卓を囲んで話す。食の未来を「聞く」のではなく、鶴岡という土地の中で見て、食べて、考える2日間だ。

伝統的な食文化と、先端生命科学。その両方がある鶴岡

このプログラムの舞台となる鶴岡は、食文化の豊かさで知られる土地だ。2014年には、日本で初めてユネスコ創造都市ネットワークの食文化分野に加盟。庄内平野の農業をはじめ、在来作物、郷土料理、精進料理など、地域の自然や歴史と結びついた食文化が受け継がれている。

そして、もう一つ鶴岡を特徴づけているのが、生命科学の研究拠点だ。2001年に慶應義塾大学先端生命科学研究所が開設されて以降、鶴岡サイエンスパークには生命科学を軸とした研究や企業の集積が進んできた。山形大学農学部も、地域の農業や食に関わる研究を続けている。

近年は、この二つをさらに結びつける動きも始まっている。

「鶴岡ガストロノミックイノベーション計画」は、食文化創造都市として培ってきた食の知恵に、バイオや循環型農業などの技術を掛け合わせ、新しい食材や技術、産業を生み出すことを目指す取り組みだ。山形大学農学部と慶應義塾大学先端生命科学研究所が連携し、研究開発や人材育成、新たな事業創造を進めている。

昔からあるものを守るだけではない。鶴岡にある食文化を、科学や技術と組み合わせたら何が生まれ、どんなビジネスへとつながるのか。

本プログラムは、これまでにINNOVATIAでの取材を通じて追ってきた取り組みの現在地を訪ねる旅ともいえるだろう。

プログラム詳細

1日目は、鶴岡サイエンスパークから始まる。山形大学や慶応義塾大学発の先端研究スタートアップが取り組む、食の先端研究を特別視察。通常は非公開の研究現場を訪れる。

セッションで最初に登壇するのは、山形大学農学部長であり、アグリフードシステム先端研究センター長を務める渡部徹教授。国土交通省が推進する「BISTRO下水道」プロジェクトの研究責任者でもある渡部教授から、資源を循環させながら食料生産につなげていく取り組みについて話を聞く。

続いて登壇するのが、フェルメクテス株式会社の大橋由明CEO。専門とするのは枯草菌の研究。納豆菌を活用した食糧ソリューションに取り組んでいる。

そして、株式会社メタジェンの福田真嗣CEO。腸内環境を研究し、その知見をヘルスケアの事業へと展開してきた研究者であり、起業家という顔も持つ。今回は講演だけでなく、研究所の視察も予定されている。

同じ「食」でも、見ている場所が違う。土や資源の循環から食料生産を考える人がいれば、微生物から食の可能性を考える人もいる。腸内環境から健康を考え、そこから事業をつくる人もいる。それぞれの研究を聞いていくと、食というテーマの奥行きが見えてくる。

そして、その研究を社会に届けるには何が必要なのか。技術を事業にするには、どこに着眼すればいいのか。研究者や起業家本人から話を聞けるからこそ、研究成果の「その先」まで考えられる時間になる。

夜は、研究を「料理」で味わう

1日目の最後を飾るのが「FUTURES DINING」。

地域の料理人が、先端研究から得られた着想を料理として表現し、研究者、起業家、料理人、そして参加者が同じテーブルを囲む。

昼間は「研究」として聞いていた話が、夜には一皿の料理になる。研究から生まれたアイデアは、食卓に並んだとき、どんな味になるのか。

健康に良いという要素と、味としても秀逸だという側面は両立するのか。
地域の食材に新しい技術を掛け合わせたら、どんな料理が生まれるのか。

実際の料理を囲みながら、そんな話を深めたい。専門家の話を一方的に聞く講演会とは異なり、食べるという体験を共有することで、研究者にも料理人にも参加者にも、それぞれの立場から話せる余白が生まれる。

食の未来を考えるなら、最後はやっぱり食卓に戻るということだ。

2日目は、森から田んぼへとフィールドを変える

2日目は、食材が生まれるもっと手前へと向かう。

鶴岡市あつみ森林組合の五十嵐菫氏による講演・ワークショップでは、森林、水源、土壌と農業の関係を学ぶ。普段、食事をしているときに森林のことを考える機会はほとんどないが、農業にとって水や土は欠かせない。森林を歩き、五感を使って自然環境を感じる「森林リトリート体験/五感ワーク」も予定されている。

その後は井上農場へ。井上馨代表取締役から、特別栽培米「つや姫」「雪若丸」を支える土づくりについて話を聞き、フィールドへ出る。

米は田んぼに植えればできる、というものではない。

どんな土をつくるのか。何を育て、何を戻すのか。農家はその土地とどう向き合っているのか。実際の田んぼを見ることで、普段は見えにくい「食材ができるまで」の時間に目が向いてくる。

ジビエから、地域を見る

昼食は、HARETOKEオーナーシェフ・佐藤昌志氏によるジビエガストロノミー。

ジビエという食材の背景には、野生動物と森林、農業、地域の暮らしがある。料理を味わうだけではなく、一皿の料理を入り口に、その土地では何が起きていて、そこにどんな資源があり、何を価値に変えられるのかを考える。

「地域資源を活用する」と言葉にするのは簡単だろう。実際にその土地の食材を食べ、その背景にいる人の話を聞いてみると、その言葉の意味が少し違って見えてくるはずだ。

体験と対話を「自分の仕事」に持ち帰る

この2日間を一緒に回るのが、早稲田大学大学院教授の入山章栄と、クーリエ・ジャポン編集長の南浩昭氏だ。

入山氏は経営学を専門とし、イノベーションや経営戦略について研究・発信している。南氏は海外のビジネスやテクノロジーなどを扱ってきた編集者でもあり、旅の最後には「ゆのはま100年キッチン」でリフレクションワークショップを行う。

ここで考えるのは、「鶴岡で何を学んだか」だけではない。この2日間で見たものを、自分の仕事にどう持ち帰るか。研究と事業。地域資源と商品。食と健康。環境と産業。鶴岡で見た組み合わせの中に、自分の仕事につながるものはないか。

入山教授と南編集長のファシリテーションのもと、2日間の体験を振り返りながら、自分自身のビジネスや組織について考える時間になる。

「食の未来」を、鶴岡で考えてみる

この2日間で訪れる場所を並べてみると、少し不思議な気持ちになる。

研究施設、森林、田んぼ、レストラン、そして食卓。そこで出会うのも、研究者、起業家、農家、森林の担い手、料理人、編集者と、実にさまざまだ。

けれど、すべて食につながっている。腸内環境を研究することも、納豆菌の可能性を探ることも、森林を守ることも、土をつくることも、地域の食材を料理することも。

普段は別々の場所で行われていることを、鶴岡では2日間で続けて見ていく中で、「食の未来」という少し大きな言葉が、研究室の中だけの話ではなくなる。

土の感触や、田んぼの風景。研究者の話。料理人がつくる一皿。同じテーブルを囲んだ人との会話。それらの一つひとつがつながった先に、これからの食のあり方が見えてくるのかもしれない。

「TSURUOKA FOOD FUTURES EXPEDITION」は、食の未来を誰かに教えてもらうための2日間ではない。鶴岡という土地を歩き、自分の目で見て、食べて、人と話す。その経験を持ち帰り、自分の仕事やこれからの事業について考える。そんな貴重な時間になるだろう。

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